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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い
第940話 タイムリミットは30秒
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ふたたび外に目をむけると、ヤマトのバイクがみるみるこちらに迫ってきていた。
「ユウキ、クララ。どこから受け渡せばいい!」
ヤマトの声が頭のなかに響いた。
「タケルくん、今こちらの居場所を信号で送った。最後尾の車両、右側の中央付近。その窓に穴をあける。ドラゴンズ・ボールが余裕で通るほどのサイズだから、苦労はしないはずだ。だが急いでほしい。破損と同時に自動修復装置が起動する。余裕があるわけではない」
「タイムリミットは?」
「セイントには、30秒程度、ときいている」
「了解」
そのやりとりを聞きながら、クララはもう一度窓ガラスのキズに指をはわせた。
「ユウキさん、やり直しはききますか?」
「ああ、時間的にはもう一度切り込みをいれて、穴をあけるのはできなくない。だがリトライは避けたい」
「そうですね」
「わたしがタケルくんのエア・バイクを誘導する。この窓からタケルくんたちが見えた瞬間に、穴をあけてほしい」
クララはごくりと唾を飲みこんだ。
デミリアンで亜獣と戦うのとはまたちがった緊張があった。ぶっつけ本番は、訓練やシミュレーションを重ねての実戦とは、比べ物にならない判断能力を試される。しかもここまでくるのに、当初の計画とは全然ちがう過程をとおらされている。
クララは窓ガラスのむこうの風景に集中した。様子をさぐるために下を覗き込むことも、、見えている風景から先読みして行動をおこすこともしなかった。
窓枠の下からふいになにかがせり出してきたのが見えた。
ヤマトの顔が窓のすぐそばに現われた。
このタイミング——
そのうしろにいるアスカに一瞬だけ目をくばったが、クララは窓ガラスに刻まれた円の真ん中に指で力をこめた。
パキっといういやに乾いた音がして、窓ガラスに円形の穴があいた。
とたんに、ものすごい風が外から吹き込んできた。と同時に車内にアラート音が響きはじめる。ちかくの乗客たちがなにが起きたのかと、色めき立ち、こちらのほうへ目をむけてきた。
反射的に言い訳が口をついてでそうになったが、クララは窓の外のほうへ目をむけた。
ドラゴンズ・ボールをこちらに渡そうとしているのは、後部座席のアスカだった。ヤマトは列車に接触しないぎりぎりの距離をたもって並走するのに注力しているようだった。
「タケルくん、もうすこし近づけて!」
ユウキがおもわず声をあげていた。
アスカは手を伸ばしていたが、窓の穴に届く距離まで近づけていなかった。
そのとき、窓枠からなにか液体が噴霧されたのがわかった。液体はまるで意志があるかのように、穴の開いた箇所へするすると垂れていった。
『急いでくれ。緊急修復液だ。30秒で穴をふさいでしまうぞ』
セイントの声からは、焦りが隠しきれていなかった。
思った以上に時間がない——
「ユウキ、クララ。どこから受け渡せばいい!」
ヤマトの声が頭のなかに響いた。
「タケルくん、今こちらの居場所を信号で送った。最後尾の車両、右側の中央付近。その窓に穴をあける。ドラゴンズ・ボールが余裕で通るほどのサイズだから、苦労はしないはずだ。だが急いでほしい。破損と同時に自動修復装置が起動する。余裕があるわけではない」
「タイムリミットは?」
「セイントには、30秒程度、ときいている」
「了解」
そのやりとりを聞きながら、クララはもう一度窓ガラスのキズに指をはわせた。
「ユウキさん、やり直しはききますか?」
「ああ、時間的にはもう一度切り込みをいれて、穴をあけるのはできなくない。だがリトライは避けたい」
「そうですね」
「わたしがタケルくんのエア・バイクを誘導する。この窓からタケルくんたちが見えた瞬間に、穴をあけてほしい」
クララはごくりと唾を飲みこんだ。
デミリアンで亜獣と戦うのとはまたちがった緊張があった。ぶっつけ本番は、訓練やシミュレーションを重ねての実戦とは、比べ物にならない判断能力を試される。しかもここまでくるのに、当初の計画とは全然ちがう過程をとおらされている。
クララは窓ガラスのむこうの風景に集中した。様子をさぐるために下を覗き込むことも、、見えている風景から先読みして行動をおこすこともしなかった。
窓枠の下からふいになにかがせり出してきたのが見えた。
ヤマトの顔が窓のすぐそばに現われた。
このタイミング——
そのうしろにいるアスカに一瞬だけ目をくばったが、クララは窓ガラスに刻まれた円の真ん中に指で力をこめた。
パキっといういやに乾いた音がして、窓ガラスに円形の穴があいた。
とたんに、ものすごい風が外から吹き込んできた。と同時に車内にアラート音が響きはじめる。ちかくの乗客たちがなにが起きたのかと、色めき立ち、こちらのほうへ目をむけてきた。
反射的に言い訳が口をついてでそうになったが、クララは窓の外のほうへ目をむけた。
ドラゴンズ・ボールをこちらに渡そうとしているのは、後部座席のアスカだった。ヤマトは列車に接触しないぎりぎりの距離をたもって並走するのに注力しているようだった。
「タケルくん、もうすこし近づけて!」
ユウキがおもわず声をあげていた。
アスカは手を伸ばしていたが、窓の穴に届く距離まで近づけていなかった。
そのとき、窓枠からなにか液体が噴霧されたのがわかった。液体はまるで意志があるかのように、穴の開いた箇所へするすると垂れていった。
『急いでくれ。緊急修復液だ。30秒で穴をふさいでしまうぞ』
セイントの声からは、焦りが隠しきれていなかった。
思った以上に時間がない——
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