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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い
第888話 金田日博士、四解文書を受け継ぐ1
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なんとも奇妙な部屋だった。
金田日一は一週間前に連れて行かれた場所を、今さらながら思い出していた。
見慣れないフォルムをした案内ロボットに導かれて向った先は、この日本基地の地下施設で、驚くほど深い階層にあるところだった。
セキュリティは厳重すぎるほど厳重で、指紋認証、声認証、生体認証、光彩認証など思いつく限りの本人確認を求められた。
まったく。生体チップで本人ってわかるだろうに……
こころのなかで悪態をついたところに、ヤマト・タケルが現われた。
驚いたことにひとりだった。
「ヤマトくん……」
「お待ちしていましたよ。金田日博士」
「ひ、ひとりなのかね……」
「ええ。まぁ、すぐ近くの部屋に草薙さんは待機していますけどね」
「こ、ここはどこなのかね?」
「それは言えません。ですが、特別の権限者以外は存在すら知らない場所です」
「まぁ、そ、そうだろうね」
「金田日博士には、亜獣対策の総責任者として、儀式を受けてもらいます。アルから聞いてますよね」
「ああ…… なんとなくね」
ヤマトはくるりと踵を返すと、奥にある扉のほうへむかって歩きはじめた。
「あなたには『四解文書』の一節を知ってもらう必要があります」
「ど、どうしてもかね?」
金田日はあわててヤマトを追いかけながら確認した。
「ええ。どうしてもです。それを知らなければ、責任者としての責任を果たせないからです」
「何番目の……」
金田日はおもいきって切り込んでみたが、瞬時に否定された。
「それは言えません」
ヤマトは振り向きもせず続けた。
「安心してください。四番目でないのは確かですよ」
「ああ。アルにもそう言われたよ」
「すぐに終わります。一瞬です」
「それが終わったら、わたしはなにを?」
ヤマトが扉に手をかざした。ドアがひらくと、金田日のほうへ振り向いて答えた。
「なにも」
ヤマトは口元に余裕の笑みを浮かべていた。
「金田日博士はなにもする必要がないし、なにもできない」
「なにもできないとは?」
「四解文書の一部が博士の頭のなかにインプットされるけど、その内容を博士の頭の外へはけっしてアウトプットできなくなる。一方通行の情報です」
ヤマトは金田日の目を覗き込むようにして言った。
「理不尽なまでのね」
「ど、どうやってもアウトプットできないのかね」
「ええ。思考に特殊なロックがかかるんです。おそらくデミリアンたちの技術を利用したものですから、ぼくも仕組みがわかりません。考えることも思い出すこともできるけど、口に出すことも、思考で他人に伝えることも、手で書いたり、ジェスチャーで知らせたりすることがどうやってもできなくなるんです」
「た、たとえば、他人が……そう悪党かなにかが思考を吸いだす技術を使ったら……」
「無駄です。人間の、すくなくとも25世紀の技術ではね」
ヤマトが金田日を部屋のなかに招き入れる仕草をした。
おどろくほど広い部屋だった。ちょっとしたスタジアムくらいはあるだろうか。
そこに奇妙な形をした機械があった。
機械——?
金田日一は一週間前に連れて行かれた場所を、今さらながら思い出していた。
見慣れないフォルムをした案内ロボットに導かれて向った先は、この日本基地の地下施設で、驚くほど深い階層にあるところだった。
セキュリティは厳重すぎるほど厳重で、指紋認証、声認証、生体認証、光彩認証など思いつく限りの本人確認を求められた。
まったく。生体チップで本人ってわかるだろうに……
こころのなかで悪態をついたところに、ヤマト・タケルが現われた。
驚いたことにひとりだった。
「ヤマトくん……」
「お待ちしていましたよ。金田日博士」
「ひ、ひとりなのかね……」
「ええ。まぁ、すぐ近くの部屋に草薙さんは待機していますけどね」
「こ、ここはどこなのかね?」
「それは言えません。ですが、特別の権限者以外は存在すら知らない場所です」
「まぁ、そ、そうだろうね」
「金田日博士には、亜獣対策の総責任者として、儀式を受けてもらいます。アルから聞いてますよね」
「ああ…… なんとなくね」
ヤマトはくるりと踵を返すと、奥にある扉のほうへむかって歩きはじめた。
「あなたには『四解文書』の一節を知ってもらう必要があります」
「ど、どうしてもかね?」
金田日はあわててヤマトを追いかけながら確認した。
「ええ。どうしてもです。それを知らなければ、責任者としての責任を果たせないからです」
「何番目の……」
金田日はおもいきって切り込んでみたが、瞬時に否定された。
「それは言えません」
ヤマトは振り向きもせず続けた。
「安心してください。四番目でないのは確かですよ」
「ああ。アルにもそう言われたよ」
「すぐに終わります。一瞬です」
「それが終わったら、わたしはなにを?」
ヤマトが扉に手をかざした。ドアがひらくと、金田日のほうへ振り向いて答えた。
「なにも」
ヤマトは口元に余裕の笑みを浮かべていた。
「金田日博士はなにもする必要がないし、なにもできない」
「なにもできないとは?」
「四解文書の一部が博士の頭のなかにインプットされるけど、その内容を博士の頭の外へはけっしてアウトプットできなくなる。一方通行の情報です」
ヤマトは金田日の目を覗き込むようにして言った。
「理不尽なまでのね」
「ど、どうやってもアウトプットできないのかね」
「ええ。思考に特殊なロックがかかるんです。おそらくデミリアンたちの技術を利用したものですから、ぼくも仕組みがわかりません。考えることも思い出すこともできるけど、口に出すことも、思考で他人に伝えることも、手で書いたり、ジェスチャーで知らせたりすることがどうやってもできなくなるんです」
「た、たとえば、他人が……そう悪党かなにかが思考を吸いだす技術を使ったら……」
「無駄です。人間の、すくなくとも25世紀の技術ではね」
ヤマトが金田日を部屋のなかに招き入れる仕草をした。
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そこに奇妙な形をした機械があった。
機械——?
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===========目録======================
1章:お爺ちゃんとVR 【1〜57話】
2章:お爺ちゃんとクラン 【58〜108話】
3章:お爺ちゃんと古代の導き【109〜238話】
4章:お爺ちゃんと生配信 【239話〜355話】
5章:お爺ちゃんと聖魔大戦 【356話〜497話】
====================================
2020.03.21_掲載
2020.05.24_100話達成
2020.09.29_200話達成
2021.02.19_300話達成
2021.11.05_400話達成
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