上 下
885 / 1,035
第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い

第883話 火星でもぼくは非難されてんだろうね

しおりを挟む
「わくわくしている?」

「ええ。だってとってもつらい訓練を続けてきたのですよ。地球を救うためにね。その努力がやっと報われるのです。わくわくせずにはおれません」

「亜獣との戦いは命懸けだよ。そんな生やさしいもの……」

「でもあとたった5体でしょう」
 キラはヤマトの諌言かんげんをさえぎるように、ピシャリと言った。

「たった5体倒せば、この数十年もの戦いが終わるのですよ。あたくしはさっさと終わらせて、今までのつらかった日々にリベンジしたいの。犠牲にした子供時代の日々に、見合うだけの青春を謳歌させてもらうつもりよ」
 キラは顔をいくぶん上気させながら続けた。

「そのときはお兄さまにうんと甘えるし、ステキな男の子と恋もするし、おいしいものも食べるし、やりたい仕事だって優先的に譲ってもらって叶えるつもり」

「あんな怪物退治なんかで、一回きりの人生を終わらせたりするもんですか」

 ヤマトはキラの決意に、おどろきを隠せなかった。
 今まで自分が抱いたこともないような、頭に思い描くことも許されなかった夢を、こんなにも開けっ広げに語られて、どう反応していいのかがわからなかった。

 だが、けっして不快ではなかった。

 むしろ、自分と、いやここにいるすべての人々と真逆の考え方で、亜獣に対峙しようとしているキラの考え方が頼もしかった。
 そしてとてもまぶしかった。

 ここにいるクルーは自分も含めて、だれもが亜獣やデミリアンに取り憑かれていたり、地球を救うという使命感に酔っていた。
 ある意味、異常者の集まり、いや巣窟と言っていい。

 だが、妹は、キラは、まったく健全だった。
 ただただ人生を謳歌おうかしたい。人生に悔いを残したくない。

 だから自分の幼少期をつらいものにし、さらにこのあとの青春の日々を奪おうとする、亜獣を駆逐しようとしている。

 こんなポジティブな思考など、ヤマトの頭のなかに一度も浮かんだことはなかった。
 自分が自分であるために、亜獣とデミリアンに依存していたのだという現実を、あらためておのれにつきつけてくる。

「ぼくはおまえが、おまえのような考え方をするパイロットが、ぼくの妹であることを、誇りに思うよ」

「あら、お兄さま。あたくしはお兄さまが初陣を飾ってから、ずっと誇りに思ってましてよ。みんながお兄さまを『100万殺しミリオン・マーダラーって非難していたときでさえね」

「そうか、嬉しいな。火星でもぼくは非難されてんだろうね」

 キラは満面の笑みで答えた。
「ご安心ください。お兄さま。地球全人類100億人のほとんどが、お兄さまを非難してたでしょうけど……」


「月、火星、スペース・コロニーの宇宙移民で、お兄さまを非難しなかったのは、間違いなくあたくし一人だけでしたわ」
「ひとり……なのかい。じゃあ、母さんは……」

「お母様!」
 キラはほんのすこしだけ顔をくもらせて言った。
「お母様はその頃には病気のせいで、判断能力がおぼつかなくなってたんでしょうね……」

「たぶん宇宙で一番口汚く、お兄さまのことをなじってらしたわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

全ての悩みを解決した先に

夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」 成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、 新しい形の自分探しストーリー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...