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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い
第883話 火星でもぼくは非難されてんだろうね
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「わくわくしている?」
「ええ。だってとってもつらい訓練を続けてきたのですよ。地球を救うためにね。その努力がやっと報われるのです。わくわくせずにはおれません」
「亜獣との戦いは命懸けだよ。そんな生やさしいもの……」
「でもあとたった5体でしょう」
キラはヤマトの諌言をさえぎるように、ピシャリと言った。
「たった5体倒せば、この数十年もの戦いが終わるのですよ。あたくしはさっさと終わらせて、今までのつらかった日々にリベンジしたいの。犠牲にした子供時代の日々に、見合うだけの青春を謳歌させてもらうつもりよ」
キラは顔をいくぶん上気させながら続けた。
「そのときはお兄さまにうんと甘えるし、ステキな男の子と恋もするし、おいしいものも食べるし、やりたい仕事だって優先的に譲ってもらって叶えるつもり」
「あんな怪物退治なんかで、一回きりの人生を終わらせたりするもんですか」
ヤマトはキラの決意に、おどろきを隠せなかった。
今まで自分が抱いたこともないような、頭に思い描くことも許されなかった夢を、こんなにも開けっ広げに語られて、どう反応していいのかがわからなかった。
だが、けっして不快ではなかった。
むしろ、自分と、いやここにいるすべての人々と真逆の考え方で、亜獣に対峙しようとしているキラの考え方が頼もしかった。
そしてとてもまぶしかった。
ここにいるクルーは自分も含めて、だれもが亜獣やデミリアンに取り憑かれていたり、地球を救うという使命感に酔っていた。
ある意味、異常者の集まり、いや巣窟と言っていい。
だが、妹は、キラは、まったく健全だった。
ただただ人生を謳歌したい。人生に悔いを残したくない。
だから自分の幼少期をつらいものにし、さらにこのあとの青春の日々を奪おうとする、亜獣を駆逐しようとしている。
こんなポジティブな思考など、ヤマトの頭のなかに一度も浮かんだことはなかった。
自分が自分であるために、亜獣とデミリアンに依存していたのだという現実を、あらためておのれにつきつけてくる。
「ぼくはおまえが、おまえのような考え方をするパイロットが、ぼくの妹であることを、誇りに思うよ」
「あら、お兄さま。あたくしはお兄さまが初陣を飾ってから、ずっと誇りに思ってましてよ。みんながお兄さまを『100万殺しって非難していたときでさえね」
「そうか、嬉しいな。火星でもぼくは非難されてんだろうね」
キラは満面の笑みで答えた。
「ご安心ください。お兄さま。地球全人類100億人のほとんどが、お兄さまを非難してたでしょうけど……」
「月、火星、スペース・コロニーの宇宙移民で、お兄さまを非難しなかったのは、間違いなくあたくし一人だけでしたわ」
「ひとり……なのかい。じゃあ、母さんは……」
「お母様!」
キラはほんのすこしだけ顔をくもらせて言った。
「お母様はその頃には病気のせいで、判断能力がおぼつかなくなってたんでしょうね……」
「たぶん宇宙で一番口汚く、お兄さまのことをなじってらしたわ」
「ええ。だってとってもつらい訓練を続けてきたのですよ。地球を救うためにね。その努力がやっと報われるのです。わくわくせずにはおれません」
「亜獣との戦いは命懸けだよ。そんな生やさしいもの……」
「でもあとたった5体でしょう」
キラはヤマトの諌言をさえぎるように、ピシャリと言った。
「たった5体倒せば、この数十年もの戦いが終わるのですよ。あたくしはさっさと終わらせて、今までのつらかった日々にリベンジしたいの。犠牲にした子供時代の日々に、見合うだけの青春を謳歌させてもらうつもりよ」
キラは顔をいくぶん上気させながら続けた。
「そのときはお兄さまにうんと甘えるし、ステキな男の子と恋もするし、おいしいものも食べるし、やりたい仕事だって優先的に譲ってもらって叶えるつもり」
「あんな怪物退治なんかで、一回きりの人生を終わらせたりするもんですか」
ヤマトはキラの決意に、おどろきを隠せなかった。
今まで自分が抱いたこともないような、頭に思い描くことも許されなかった夢を、こんなにも開けっ広げに語られて、どう反応していいのかがわからなかった。
だが、けっして不快ではなかった。
むしろ、自分と、いやここにいるすべての人々と真逆の考え方で、亜獣に対峙しようとしているキラの考え方が頼もしかった。
そしてとてもまぶしかった。
ここにいるクルーは自分も含めて、だれもが亜獣やデミリアンに取り憑かれていたり、地球を救うという使命感に酔っていた。
ある意味、異常者の集まり、いや巣窟と言っていい。
だが、妹は、キラは、まったく健全だった。
ただただ人生を謳歌したい。人生に悔いを残したくない。
だから自分の幼少期をつらいものにし、さらにこのあとの青春の日々を奪おうとする、亜獣を駆逐しようとしている。
こんなポジティブな思考など、ヤマトの頭のなかに一度も浮かんだことはなかった。
自分が自分であるために、亜獣とデミリアンに依存していたのだという現実を、あらためておのれにつきつけてくる。
「ぼくはおまえが、おまえのような考え方をするパイロットが、ぼくの妹であることを、誇りに思うよ」
「あら、お兄さま。あたくしはお兄さまが初陣を飾ってから、ずっと誇りに思ってましてよ。みんながお兄さまを『100万殺しって非難していたときでさえね」
「そうか、嬉しいな。火星でもぼくは非難されてんだろうね」
キラは満面の笑みで答えた。
「ご安心ください。お兄さま。地球全人類100億人のほとんどが、お兄さまを非難してたでしょうけど……」
「月、火星、スペース・コロニーの宇宙移民で、お兄さまを非難しなかったのは、間違いなくあたくし一人だけでしたわ」
「ひとり……なのかい。じゃあ、母さんは……」
「お母様!」
キラはほんのすこしだけ顔をくもらせて言った。
「お母様はその頃には病気のせいで、判断能力がおぼつかなくなってたんでしょうね……」
「たぶん宇宙で一番口汚く、お兄さまのことをなじってらしたわ」
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