809 / 1,035
第三章 第七節 さよならアイ
第808話 おれはあいつの最後を看取りてぇ
しおりを挟む
「各位、魔法使いエドは、どこに隠れているかわからない。油断しないように」
草薙素子は脳内通信で、引き連れてきた兵士たちに伝えた。あの武器倉庫でエドと戦った4人と、あらたに招集した10人という、貧弱な布陣であったがいかんともしがたかった。
『ここにバットーやトグロがいないのが腹立たしいな』
そのこころのなかの本音はフィルタリングされず、兵士たちに届いてしまったらしく、サイトーがいきりたったように言ってきた。
「なに言ってるんです、大佐。ぼくがいるじゃないですか!」
「ああ、そうだな。だがおまえは先ほどの戦いで、怪我をしているだろう」
「それは大佐もおなじでしょう?」
「まぁな……」
目の前のゲートがひらいて『シミュレーション・エリア』の広大な区画が目に飛び込んできた。草薙はエア・バイクを下に降ろしながら、後部座席のアルに声をかけた。
「アル、あなたはどうするつもり?」
「どうするって?」
「今からわたしたちはエドを殺害するために全力をかける。あなたにそんなところを見せたくない」
「ここで待ってろってか?」
「そうしたほうがいい、と思う」
アルは後部座席に座ったまま、首をうなだれていた。
「わたしも、あなたをうしろに乗せたまま、戦うっていうことはできないし……」
草薙が口をひらくと、アルが手をあげてことばを制した。
「草薙さん、お気遣い、すまねぇな。だが、おれはあいつの最後を看取りてぇ」
アルは後部座席から降りながら言った。
「さいわい、ここにはエア・バイクの予備がある」
「いや、しかし……」
「けっして、あんたらの邪魔はしねぇ!」
アルが強い口調で訴えた。
「うしろからついていかせてもらえねぇかい。安全な場所まで後退しろ、と言われれば、命令にしたがう。だがもし叶うなら、あいつと最後のことばを交わしてぇんだ」
そのまなざしはいつになく真剣そのものだった。草薙は説得するのも、時間の無駄だと思った。
「エア・バイクの操縦の経験は?」
「バカ言っちゃあ困るよ。ここに納品される機器は、すべておれがチェックしてるんだ。イシカワ少佐ほどの腕はねぇが、つかずはなれずくらいの距離くらいで運転するのは問題ねぇ」
「じゃあ、30秒で用意してちょうだい」
アルは格納庫のほうへ駆け出した。
『大佐、大丈夫ですかね?』
サイトーが草薙の頭上に、バイクを滑らせてきて言った。
「まぁ、しかたがあるまい。なにかあったときは、サイトー、おまえが援護してやってくれ」
『了解しました。でも、まぁ、そうしてもらったほうが、こっちもやりやすい』
草薙素子は脳内通信で、引き連れてきた兵士たちに伝えた。あの武器倉庫でエドと戦った4人と、あらたに招集した10人という、貧弱な布陣であったがいかんともしがたかった。
『ここにバットーやトグロがいないのが腹立たしいな』
そのこころのなかの本音はフィルタリングされず、兵士たちに届いてしまったらしく、サイトーがいきりたったように言ってきた。
「なに言ってるんです、大佐。ぼくがいるじゃないですか!」
「ああ、そうだな。だがおまえは先ほどの戦いで、怪我をしているだろう」
「それは大佐もおなじでしょう?」
「まぁな……」
目の前のゲートがひらいて『シミュレーション・エリア』の広大な区画が目に飛び込んできた。草薙はエア・バイクを下に降ろしながら、後部座席のアルに声をかけた。
「アル、あなたはどうするつもり?」
「どうするって?」
「今からわたしたちはエドを殺害するために全力をかける。あなたにそんなところを見せたくない」
「ここで待ってろってか?」
「そうしたほうがいい、と思う」
アルは後部座席に座ったまま、首をうなだれていた。
「わたしも、あなたをうしろに乗せたまま、戦うっていうことはできないし……」
草薙が口をひらくと、アルが手をあげてことばを制した。
「草薙さん、お気遣い、すまねぇな。だが、おれはあいつの最後を看取りてぇ」
アルは後部座席から降りながら言った。
「さいわい、ここにはエア・バイクの予備がある」
「いや、しかし……」
「けっして、あんたらの邪魔はしねぇ!」
アルが強い口調で訴えた。
「うしろからついていかせてもらえねぇかい。安全な場所まで後退しろ、と言われれば、命令にしたがう。だがもし叶うなら、あいつと最後のことばを交わしてぇんだ」
そのまなざしはいつになく真剣そのものだった。草薙は説得するのも、時間の無駄だと思った。
「エア・バイクの操縦の経験は?」
「バカ言っちゃあ困るよ。ここに納品される機器は、すべておれがチェックしてるんだ。イシカワ少佐ほどの腕はねぇが、つかずはなれずくらいの距離くらいで運転するのは問題ねぇ」
「じゃあ、30秒で用意してちょうだい」
アルは格納庫のほうへ駆け出した。
『大佐、大丈夫ですかね?』
サイトーが草薙の頭上に、バイクを滑らせてきて言った。
「まぁ、しかたがあるまい。なにかあったときは、サイトー、おまえが援護してやってくれ」
『了解しました。でも、まぁ、そうしてもらったほうが、こっちもやりやすい』
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
全ての悩みを解決した先に
夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」
成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、
新しい形の自分探しストーリー。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる