781 / 1,035
第三章 第七節 さよならアイ
第780話 下の方見ないで。あたし、恥ずかしいから
しおりを挟む
「アイ……」
リンが声をかけてきた。
すべてを理解している声色だ。
声が震えているし、見たことがないほど、顔がこわばっている。
モニタ越しにすらわかるほどに。
「リン、あたし、ミスっちゃった……」
「アイ、ミスなんかじゃない! あなたがかばわなければ、タケルくんがやられてた」
「そうかもね」
「よく守ってくれた、アイ」
ブライトは泣いていた。
司令官として失格の態度——
さいごのさいごまで、ありもしない希望や可能性を、念仏のように口にしていないといけないのに。
でも、まぁ、ブライトらしい……
ほかのクルーたちの顔も、モニタ越しにみえる。アル、エド、李子…… みんな心配そうを通り越して、悲痛な顔になっている。
司令官に似て、ポーカーフェイスは苦手らしい——
でもここに小人さんがいないのは幸いだった。シモンの件で退職したらしかったけど、ここにいたら、また嫌なトラウマがふえたはずだ。
あたしは、モニタの面々を見ながら、ふと気づいた。
「タケルはどこ?」
マンゲツのパイロット・シートには誰もいなかった。
「アイちゃん、ヤマトくんは、今そこにむかってる」
エドがそう教えてくれた瞬間、コックピットのハッチの内壁が赤く光った。
レーザー・バナーの光——
外側からゆがんだハッチの扉を焼き切っている。
高出力のレーザーの熱は、あっと言う間にハッチに穴をあけた。
外側からそのハッチを蹴飛ばす、ガンガンという音——
ガコン、とおおきな音がして、こちら側に扉が倒れてきた。とどうじにタケルがコックピット内部へ飛び込んできた。
「大丈夫か、アイ!」
大丈夫じゃない——
コンソールの機器が腹部に食い込んで、上半身と下半身がかろうじてつながっているような状態が、大丈夫なはずない。
「大丈夫よ! タケル!」
あたしは自分でもびっくりするほど、ハツラツとした声でこたえた。
タケルがぐちゃぐちゃに押し潰れたコックピット内を這うようにして、あたしのとろこまでやってきた。
あたしはうれしかった。
あたし、最後にタケルに会えた——
シートの横に滑り込んできたタケルは、シート上部にある『ヴァイタル・データ』をあおぎみた。
サッと顔色が変わったのがわかった。
あたしの状態を把握したのだ——
あたしはタケルにわらいかけてみせた。
でも弱々しい、とっても弱々しいものにしかならなかった。
タケルはあたしの力のない笑みに微笑みかえすと、すぐに怪我をしている部位に目をむけようとした。
あたしはそれが嫌だった。
きれいなまま死んでいきたい。
しょうとさんの彼氏のシモンのように、むごたらしい最期の姿を、愛しい人に見られたくなかった。
それを目にしたら、タケルのなかのあたしの思い出は、その姿でとまってしまう。
「タケル。下の方見ないで。あたし、恥ずかしいから……」
リンが声をかけてきた。
すべてを理解している声色だ。
声が震えているし、見たことがないほど、顔がこわばっている。
モニタ越しにすらわかるほどに。
「リン、あたし、ミスっちゃった……」
「アイ、ミスなんかじゃない! あなたがかばわなければ、タケルくんがやられてた」
「そうかもね」
「よく守ってくれた、アイ」
ブライトは泣いていた。
司令官として失格の態度——
さいごのさいごまで、ありもしない希望や可能性を、念仏のように口にしていないといけないのに。
でも、まぁ、ブライトらしい……
ほかのクルーたちの顔も、モニタ越しにみえる。アル、エド、李子…… みんな心配そうを通り越して、悲痛な顔になっている。
司令官に似て、ポーカーフェイスは苦手らしい——
でもここに小人さんがいないのは幸いだった。シモンの件で退職したらしかったけど、ここにいたら、また嫌なトラウマがふえたはずだ。
あたしは、モニタの面々を見ながら、ふと気づいた。
「タケルはどこ?」
マンゲツのパイロット・シートには誰もいなかった。
「アイちゃん、ヤマトくんは、今そこにむかってる」
エドがそう教えてくれた瞬間、コックピットのハッチの内壁が赤く光った。
レーザー・バナーの光——
外側からゆがんだハッチの扉を焼き切っている。
高出力のレーザーの熱は、あっと言う間にハッチに穴をあけた。
外側からそのハッチを蹴飛ばす、ガンガンという音——
ガコン、とおおきな音がして、こちら側に扉が倒れてきた。とどうじにタケルがコックピット内部へ飛び込んできた。
「大丈夫か、アイ!」
大丈夫じゃない——
コンソールの機器が腹部に食い込んで、上半身と下半身がかろうじてつながっているような状態が、大丈夫なはずない。
「大丈夫よ! タケル!」
あたしは自分でもびっくりするほど、ハツラツとした声でこたえた。
タケルがぐちゃぐちゃに押し潰れたコックピット内を這うようにして、あたしのとろこまでやってきた。
あたしはうれしかった。
あたし、最後にタケルに会えた——
シートの横に滑り込んできたタケルは、シート上部にある『ヴァイタル・データ』をあおぎみた。
サッと顔色が変わったのがわかった。
あたしの状態を把握したのだ——
あたしはタケルにわらいかけてみせた。
でも弱々しい、とっても弱々しいものにしかならなかった。
タケルはあたしの力のない笑みに微笑みかえすと、すぐに怪我をしている部位に目をむけようとした。
あたしはそれが嫌だった。
きれいなまま死んでいきたい。
しょうとさんの彼氏のシモンのように、むごたらしい最期の姿を、愛しい人に見られたくなかった。
それを目にしたら、タケルのなかのあたしの思い出は、その姿でとまってしまう。
「タケル。下の方見ないで。あたし、恥ずかしいから……」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
狭間の世界
aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。
記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、
過去の彼を知る仲間たち、、、
そして謎の少女、、、
「狭間」を巡る戦いが始まる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる