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第三章 第七節 さよならアイ

第779話 あたし、死ぬの?

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 室内のあちこちから、耳をつんざくようなけたたましい音が響いた。

 どこかが軋んで、なにかが壊れて、潰れていく音——

 あたりに火花が飛び散ったのを見た気がする。
 耳元であたしの名前を呼んでいる声だけは、ずっと聞こえ続けていたはずだ。

 痛いっ——
 そう思ったけど、ちがった。
 なんの感覚もなかった。
 
 なんの……感覚もない……

 あたしはおそるおそる腰から下に目をうつした。
 内臓が、ピンク色の内臓がとびだしているのが見えた。
 頑丈なはずのコンバット・スーツをつきやぶって、操縦桿やら計器類がつきささっていた。そしてあたりに血が飛び散っていた。

 あたしの血——

 あたし、たすからない——

 一瞬で、ほんの一瞬でわかった。
 そう感じ取った瞬間、涙がこみあげてきた。
 
 でもあわてて指先でぬぐうと、セラ・ヴィーナスとあたしをつなぐ『動脈チューブ』や『静脈チューブ』を、ひきちぎるようにひき抜いた。
 チューブの根元がちぎれて、残った血がしたたったけど、気にしない。
 それよりこのデミリアンとつながったままでいることのほうが問題。
 『血液循環チューブ』でつながっているときは、いかなる場合も感情をあらわにしてはいけない。

 そう、それが死ぬ間際であっても……

 デミリアンの呪縛からは、とりあえず解放された。
 あたしはセラ・ヴィーナスを操縦できなくなるけど、代わりにこいつもあたしを操れなくなる。
 問題ない。

 あたしは…… もう二度とこのマシンを……動かすことがないのだから……


 もう泣いていい、とわかったとたん、目からボロボロと涙がこぼれ落ちた。   

 死にたくない。
 タケルと一緒にいたい。

 でも今からどうこうしても…… もう手遅れだ。
 自分でわかる。深手を負いすぎた。

 『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』の防御をコックピットに集中させていたのに——
 それを唯一通り抜ける亜獣の最後のわるあがきのせいで——


 100万人という未曾有みぞうの犠牲をだしたこの亜戦の、最後の一人が自分になるとは、なんという皮肉だろう。

 あと15体——
 108体の亜獣を駆逐するまで、あとたった15体……

 でも、たったひとりのパイロットに背負わせるには、あまりにも残酷な数字。
 108体目、最後の亜獣を倒したとき、タケルのかたわらにはあたしがいる、とあたしは信じきっていた。
 こんなところで終わるなんて、思ってもみなかった——

 死にたくない。
 死にたくない——

 あたしの人生が、たった20年程度で終わっていいわけがない。
 人類100億人の運命をになっているとは言わない。でも半分の50億人分の運命は背負ってきたつもりだ。
 だからこんなところで、こんなつまらぬことで、こんな弱い相手に、ついえていい命じゃなかったはずだ。

 死にたくない。死にたくない。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない——

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