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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第765話 草薙の失態1

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 断じて油断したわけではない——

 自分が自分に課している戦い方は、そして部下にしいている心構えは、そんな生ぬるいものではない。
 だが、そんなことを自負しても、なんの意味もなかった。

 結果として草薙は、目の前でエドにまんまと逃げられた。

 草薙は脳内通信システムテレパス・ラインと館内放送でどうじに警告を発した。

「日本支部各位、緊急事態宣言を継続する。エド博士が館内を逃亡中。なんぴとたりとも室内から出ないように。
 エド博士は魔法少女。くりかえす。エド博士は魔法少女。近づけば魔法少女にされる。けっして近づかないように!」

 そう強い口調で警告してから、サイトーの方に目をむけた。
「サイトー。館内の警護部の連中に、この敵への注意を伝えてくれ」
 サイトーはからだの痛みに顔をしかめながら、小刻みにうなずきながら、了解の意をつたえてきた。まだ声がきけずにいるらしい。
 つぎに草薙は倉庫の柱の陰で、うずくまっているアルに声をかけた。

「アル、無事か?」
 アルは柱の陰からからだを覗かせて「あぁ、ひとまず5体はそろっているさ」と言うと、ぷるぷると震えている指先をこっちにむけながら「しばらく使いモンにはなんねぇがな」と苦笑いした。
「アル、対魔法少女用ロケット・ランチャーを貸し出してほしい」
「いや、草薙さん、すまねえが、ありゃ試作品だし、基地内での使用許可はでてませんぜ」
「いま何門ある?」
 アルは抵抗してきたが、反問をゆるさない口調で強引におしきった。
「あ、いや、全部で五門でさぁ」
「ありがとう。それを借りるぞ。案内してくれ」
 そう言うなり、ふたたびテレパス・ラインでサイトーに連絡をいれて、アルについていくように命じた。
 草薙はサイトーと残りの4人の部下がよろよろと、アルのうしろに歩いてついていくのを確認すると、エドがでていったセキュリティ扉の方を見た。


 あの時のエドへの包囲作戦はまさにシミュレーション通りだった。

 まずエドの四方を4台のエア・バイクが固めた。
 エドは分解光線を出せないとは聞いていたが、念のため5メートル以上離れた。兵士は包囲した時点で、マジカル・ソードを構えており、槍の先はエドのからだまで1メートルの位置に突きつけられていた。万が一の飛翔を考えて、上方にはマジカル・ソードを構えたサイトーが控えている。
 そしてアルを守るため、草薙はエドとアルのあいだにエア・バイクを位置取りしていた。アルはさらに10メートルほど離れたところにある、この倉庫のおおきな柱の陰に身を潜めた。


 この時点では完璧に、この場をコントロールしていた、はずだった。
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