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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第753話 ヴェスビオ火山噴火8

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「アイ、大丈夫。きみのせいじゃない」

 タケルは落ちついた声で、さとすように言ってくれた。
 あたしの咽の奥からとびだしそうになっていた、アドレナリンやらドーパミンやらの塊はすぐにしぼんでいった。それくらい説得力のある口ぶりだった。
 それでも贖罪しょくざいの気持ちが口からこぼれでた。
「でも……」
「心配しないで。だったらぼくも共犯だ。ぼくのカウンターもおなじように刻まれてるからね」
「でも、タケル、どうすればいいの? こんな死者、あたし……」
「アイ、どうもしないさ。あの船のときとちがう。これはぼくらが殺めた命じゃない。ぼくらは今、自分たちを守るので精いっぱいで、なんにもできない」
 
 その時、私がさっきまでかくれていた高層ビルが、ズズズズという地響きをたてて横倒しになりはじめた。70階分、300メートルの巨大な柱は、そのとなりのビルにぶつかった。さらにそのビルはその隣のビルをなぎ倒し、まるでドミノのように、次々と倒壊が連鎖していく。
 あたしはそのビル群にどれほどのひとがいたのか知らない。だけどデッドマンカウンターのフリップは無情にも、唖然とするようなスピードでめくれはじめた。そしてあっという間に、その桁が『万』に到達した。

 あたしは自分の足が震えるのを感じた。

 死者一万人—— 

 タケルがラーゼファンを倒すときに出した、四万人の犠牲者につぐ歴代二番目の死者数だ。しかもこの数字がどこでおさまるのか、だれも想像がつかない。

 街のシンボルともいえる巨塔が倒れて、甚大な被害がでると、住人たちはビルのなかが安全でないと確信したようだった。まだ噴石の被害を受けてない地域のひとびとが、一斉にスカイ・モービルで逃げだそうとしはじめた。

 ただしい判断だ。あたしはそう思った。

 だけど空をおおうおそろしほどぶ厚い暗雲が、人類が築いてきた最新技術の盲点をついてきた。さっきあたしたちが牽引ビームを引き揚げられなかったときと、おなじ問題が生じていた。
 ひとびとはスカイモービルに搭載されているエンジンで、数千メートルの高度まで上昇してから、肝心の電磁誘導パルスレーンの電磁波が機能していないことに気づいた。スカイモービルは元々自力で遠くまで飛べるように設計されていない。上空を流れているレーンに乗っかる、そのレーンの到達するための、上昇と降下用にほぼ特化されてるのだ。
 たちまち上空ではスカイモービルの列ができてしまっていた。AIで制御されているせいで、レーンに電磁波が戻るまで待機する判断に傾いてしまったにちがいない。
 
 そこへ勢いをました火山弾が、狙いすましたように飛んできた。

 岩がぶつかったのは、せいぜい二、三台だったけど、密集していたせいで次々とほかの車を巻き込んでいった。空からバラバラと車が落ちて行く。
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