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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第754話 ヴェスビオ火山噴火9

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 地表ではビルから飛び出した人々が、逃げまどっていた。

 地下にある避難所をめざしているのだろう。ラーゼファンのときに被害にあった人々のほとんどが、指定の避難所に避難していたということで、見直しが論議されていたが、亜獣出現の際の『逃走マニュアル』では、こちらのほうがただしい。

 だけどは真っ暗闇のなかを、逃げるのは果たしてただしいのだろうか?

 今上空で起きている惨事を目の当たりにすれば、スカイモービルを使って逃げる選択肢がなくなったのはたしかだ。
 だけどぶ厚い噴煙のせいで夜のようになっている上、あたりの電源はすべてロストしていたので、信じられないほど真っ暗闇になっている。たぶんこの噴煙で『エアー電源』が届いてないンだと思う。
 明かりはそこかしこであがっている火と、飛んでくる噴石くらいかもしれない。
 そのなかを走って逃げようとする判断も、スカイモービルでの避難同様間違えているのかもしれない。

 だが避難するひとはなにかに導かれるように、いくつかの方向に連なっている。
 どうやら目の中に『暗視カメラ』機能を組み込んでいるひとたちがいるらしい。彼らが先導する形で、ぞろぞろと避難所の方向へむかっているようだった。火の玉が飛来してくるたび、辺りが照らし出されて、ひとびとの姿がみえるが、着弾するごとに、命が奪われているのは間違いなかった。

「タケル、あたしここから動けない」
 あたしは逃げているひとたちで埋め尽くされた道路を、暗視カメラ越しにみながら言った。
「ぜったいにひとを踏んづけちゃう」
「だけどこのままだと、いずれこの場所も安全じゃなくなる。それに……」
 タケルが頭上に浮かんでいる21個のスクリーンのいくつかを指さした。
「見て、すでにいくつものカメラが機能してない。たぶんあの雲のせいで電波が遮られてるんだと思う。それに街中のカメラはほとんど破壊されて役にたたない。このままこの雲の下にいると、ぼくらは『視界』を奪われてしまう。危険だ」
「わかってる。だけど……」
 あたしはタケルの提案に従いきれずにいた。あのひとを踏みつぶす感覚は、思い出すだけでも怖気だつ。あたしはメイン画面に司令部のカメラをよびだした。
「司令本部! ブライト、リン、聞いてる? あたしたち、どっちに逃げるのが正解なの? 教えて!」
 不安を吐き出すように、あたし、一気にまくしたてた。だけど、画面が突然消え、『SOUND ONLY』の文字だけが浮かびあがった。
「マジなの?」
「まいったな。司令本部との連絡が途絶えた。アイ、このままずっとここにいるわけにはいかない。すくなくとも雲の下にでない……」

 そのとき、なにも映っていないモニタから、ブライトの声だけが聞こえてきた。
「ヤマト、アイ、逃げろ!」


「火砕流が発生した!」
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