755 / 1,035
第三章 第六節 ミリオンマーダラー
第754話 ヴェスビオ火山噴火9
しおりを挟む
地表ではビルから飛び出した人々が、逃げまどっていた。
地下にある避難所をめざしているのだろう。ラーゼファンのときに被害にあった人々のほとんどが、指定の避難所に避難していたということで、見直しが論議されていたが、亜獣出現の際の『逃走マニュアル』では、こちらのほうがただしい。
だけどは真っ暗闇のなかを、逃げるのは果たしてただしいのだろうか?
今上空で起きている惨事を目の当たりにすれば、スカイモービルを使って逃げる選択肢がなくなったのはたしかだ。
だけどぶ厚い噴煙のせいで夜のようになっている上、あたりの電源はすべてロストしていたので、信じられないほど真っ暗闇になっている。たぶんこの噴煙で『エアー電源』が届いてないンだと思う。
明かりはそこかしこであがっている火と、飛んでくる噴石くらいかもしれない。
そのなかを走って逃げようとする判断も、スカイモービルでの避難同様間違えているのかもしれない。
だが避難するひとはなにかに導かれるように、いくつかの方向に連なっている。
どうやら目の中に『暗視カメラ』機能を組み込んでいるひとたちがいるらしい。彼らが先導する形で、ぞろぞろと避難所の方向へむかっているようだった。火の玉が飛来してくるたび、辺りが照らし出されて、ひとびとの姿がみえるが、着弾するごとに、命が奪われているのは間違いなかった。
「タケル、あたしここから動けない」
あたしは逃げているひとたちで埋め尽くされた道路を、暗視カメラ越しにみながら言った。
「ぜったいにひとを踏んづけちゃう」
「だけどこのままだと、いずれこの場所も安全じゃなくなる。それに……」
タケルが頭上に浮かんでいる21個のスクリーンのいくつかを指さした。
「見て、すでにいくつものカメラが機能してない。たぶんあの雲のせいで電波が遮られてるんだと思う。それに街中のカメラはほとんど破壊されて役にたたない。このままこの雲の下にいると、ぼくらは『視界』を奪われてしまう。危険だ」
「わかってる。だけど……」
あたしはタケルの提案に従いきれずにいた。あのひとを踏みつぶす感覚は、思い出すだけでも怖気だつ。あたしはメイン画面に司令部のカメラをよびだした。
「司令本部! ブライト、リン、聞いてる? あたしたち、どっちに逃げるのが正解なの? 教えて!」
不安を吐き出すように、あたし、一気にまくしたてた。だけど、画面が突然消え、『SOUND ONLY』の文字だけが浮かびあがった。
「マジなの?」
「まいったな。司令本部との連絡が途絶えた。アイ、このままずっとここにいるわけにはいかない。すくなくとも雲の下にでない……」
そのとき、なにも映っていないモニタから、ブライトの声だけが聞こえてきた。
「ヤマト、アイ、逃げろ!」
「火砕流が発生した!」
地下にある避難所をめざしているのだろう。ラーゼファンのときに被害にあった人々のほとんどが、指定の避難所に避難していたということで、見直しが論議されていたが、亜獣出現の際の『逃走マニュアル』では、こちらのほうがただしい。
だけどは真っ暗闇のなかを、逃げるのは果たしてただしいのだろうか?
今上空で起きている惨事を目の当たりにすれば、スカイモービルを使って逃げる選択肢がなくなったのはたしかだ。
だけどぶ厚い噴煙のせいで夜のようになっている上、あたりの電源はすべてロストしていたので、信じられないほど真っ暗闇になっている。たぶんこの噴煙で『エアー電源』が届いてないンだと思う。
明かりはそこかしこであがっている火と、飛んでくる噴石くらいかもしれない。
そのなかを走って逃げようとする判断も、スカイモービルでの避難同様間違えているのかもしれない。
だが避難するひとはなにかに導かれるように、いくつかの方向に連なっている。
どうやら目の中に『暗視カメラ』機能を組み込んでいるひとたちがいるらしい。彼らが先導する形で、ぞろぞろと避難所の方向へむかっているようだった。火の玉が飛来してくるたび、辺りが照らし出されて、ひとびとの姿がみえるが、着弾するごとに、命が奪われているのは間違いなかった。
「タケル、あたしここから動けない」
あたしは逃げているひとたちで埋め尽くされた道路を、暗視カメラ越しにみながら言った。
「ぜったいにひとを踏んづけちゃう」
「だけどこのままだと、いずれこの場所も安全じゃなくなる。それに……」
タケルが頭上に浮かんでいる21個のスクリーンのいくつかを指さした。
「見て、すでにいくつものカメラが機能してない。たぶんあの雲のせいで電波が遮られてるんだと思う。それに街中のカメラはほとんど破壊されて役にたたない。このままこの雲の下にいると、ぼくらは『視界』を奪われてしまう。危険だ」
「わかってる。だけど……」
あたしはタケルの提案に従いきれずにいた。あのひとを踏みつぶす感覚は、思い出すだけでも怖気だつ。あたしはメイン画面に司令部のカメラをよびだした。
「司令本部! ブライト、リン、聞いてる? あたしたち、どっちに逃げるのが正解なの? 教えて!」
不安を吐き出すように、あたし、一気にまくしたてた。だけど、画面が突然消え、『SOUND ONLY』の文字だけが浮かびあがった。
「マジなの?」
「まいったな。司令本部との連絡が途絶えた。アイ、このままずっとここにいるわけにはいかない。すくなくとも雲の下にでない……」
そのとき、なにも映っていないモニタから、ブライトの声だけが聞こえてきた。
「ヤマト、アイ、逃げろ!」
「火砕流が発生した!」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
ゴミ惑星のクズ
1111
SF
捨てられた人類が住むゴミ惑星「クローム」で、男たちは生存のため、そして名声のために「アーマーリング」と呼ばれる競技に命を懸けていた。
主人公 クズ はかつてその競技で頂点を目指したが、大敗を喫して地位を失い、今はゴミ漁りで細々と生計を立てる日々を送っていた。
ある日、廃棄されたゴミ山を漁っていたクズは、一人の少女を発見する。彼女は イヴ と名乗り、ネオヒューマンとして設計された存在だった。機械と完全に同化し、自らの身体を強化する能力を持つ彼女は、廃棄された理由も知らぬままこの惑星に捨てられたのだという。
自分の目的を果たすため、イヴはクズに協力を求める。かつての栄光を失ったクズは、彼女の頼みに最初は興味を示さなかった。しかし、イヴが持つ驚異的な能力と、彼女の決意に触れるうちに、彼は再びアーマーリングの舞台に立つことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる