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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第750話 ヴェスビオ火山噴火5

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 あたしはセラ・ヴィーナスの目の高さにある階から、ビルの向こう側を覗き見た。

 そこはたぶんビルの7階か8階あたり。
 ありがたいことに、そこからは反対側をよくみることができた。全体が見通せるひろいワンフロアだったし、家具や調度品の店舗らしかったけど、すでになかはひっちゃかめっちゃかになって、全部倒れていたから、視界をさえぎるものが少なくなっていた。
 すぐ手前には、話題のヴァーチャル世界没入用『AIベッド』がぶすぶすと煙をあげていた。たしか最大365日間、寝たままで、食事から、排泄、からだの洗浄、そして運動までを、AIが適切に管理するというのが売りだと言う。

 まったくリアル世界を生きないにもほどがある——
 タケルはその話がでたとき、そう言ってあきれかえったのを覚えている。

 仮想空間への逃げ道ともいえるそのベッドが、目の前で火をふきはじめたのをみて、あたしはざまあみろ、という気分だった。そのままフロアの一番むこうに目をむける。
 驚いたことに火山弾の被害は、手前側にはあまり及んでいなかった。たぶん噴きだす軌道のせいで、手前側には着弾していないのだろう。
 いまのうちにこのビルの陰から飛び出して、手前のビルのほうへむかったほうがいいかもしれない。
 そう判断してセラ・ヴィーナスのからだを動かしたとき、見通していたフロアの向こう側からフロア内に、噴石が飛び込んできたのがわかった。炎につつまれた岩がファニチャーを根こそぎはね飛ばしながら、こちらへ滑ってくる。

 ひとつやふたつじゃない。

 ビルの正面におおきな穴があいて、ぽっかりと口をあけた形になっていたせいで、今度はそれを突き抜けてきたのだ。あたしはすぐさまセラ・ヴィーナスの体表面に展開していた『移行領域ベール』に隙間がないかを確認した。

 問題ない——

 と思った瞬間、リンの雄叫びが聞こえた。
「アイィィィ、よけてェェェェェ!!」
 だけど遅かった。ビルを突き抜けてきた無数の石つぶてが、セラ・ヴィーナスのからだをしたたかに打ちつけてきた。

「いたぁぁぁぁい!!」

 あたしは脳天を突き刺すような痛みに、悲鳴をあげた。
 0・25秒の洗礼——
 痛みがからだの芯に残っていて、頭にびりびりってシビレが走ったけど、あたしは歯を食いしばった。その痛みの責任をリンにぶつけた。

「リン。なんで、あれがあたるのよぉぉ」

「さっきの話、ちゃんと聞いてた? アイ」
 血相を変えたリンの顔が、コックピット正面のメインモニタに大写しになった。
「さっきの話って、なによぉ」

「『移行領域』のベールは、どうじにふたつ以上のエレメントが重なると、効果が薄れてくるって言ったでしょ」
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