上 下
750 / 1,035
第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第749話 ヴェスビオ火山噴火4

しおりを挟む
 うごきだそうとしたその瞬間、セラ・ヴィーナスの顔の近くでなにかが爆発した。

 すぐ脇にあるビルのガラスが砕け散り、外装は粉砕されて、そのブロック片がヴィーナスの顔にあたる。爆発しか思えなかった衝撃は、自分のすぐ隣にあったビルに、噴石が衝突したものだった。

 まさか…… 10キロ以上離れてンのよ、ここ。

 あたしはヴェスビオ火山のほうへ目をむけた。
 火口からおおきな火柱があがり、噴石がふたたび放出されたのが見えた。雨粒のように隙間なく、無数の石飛礫つぶてがながい炎の尾をひいて、こちらめがけて飛んでくる。問題はその飛礫がより遠くまで飛んでこようとしていること、そして大きさがリンの指摘通り、三階建てのビルほどあることだ。
 どうやってもけようもない。

「アイ! そのビルの陰に隠れて!」
 タケルの叫び声が聞こえた。
 喉が一発で涸れちゃうんじゃないかって思うほど、余裕のない逼迫した声。

 あたしはなにをもおいてそれに従った。さきほど噴石がぶつかったビルの背後にまわりこむと、セラ・ヴィーナスのからだをそのビルの側面に、ぴたりとくっつけて衝撃にそなえた。
 これで大丈夫。タケルが言うんだから、まちがいない。
 あたしはそう思った。
 だけどそれはとんだ勘違いで、ただの慢心だったことを思い知らされた。ミサイルのような威力をもった火山弾は、マシンガンさながらに間断かんだんなくビルにぶち当たってきた。
 それはあたしが隠れたビルだけでなく、ビルというビルを無差別に破壊した。高いも低いも、古いもあたらしいも、スタイリッシュも武骨も、まったくお構いなしだった。ガラスや看板などの装飾などの脆弱な箇所は、情け容赦なく破壊され、強固なはずの柱や外装、梁なども、おそろしいほど易々と削りとられ、そして砕かれていった。

 あたしの隠れていたビルは、街のシンボル的な高層ビルの一棟で、比較的あたらしくかなり堅牢な造りだった。そのおかげでしばらくは噴石の攻撃に持ちこたえた。
 それでもそう長くは耐えきれないということは、直感的にわかった。
 その抜きんでた高さのせいで、噴石の被害はほかのビルの比ではなかったし、火の玉がビルに激突するたび、左、右と揺らぎはじめていたからだ。いいように殴りつけられる、サンドバック状態と言っていいかもしれない。

 あたしはどこかに移動できるビルがないかと、あたりを見回した。が、通りの並びのビルはどこもおなじような惨状で、身を守る、という期待には応えてくれそうもない。
 そこでビルのなかに目をむけ、このビルの手前側のほうをのぞき見てみた。

 ビルの窓からフロア越しに、様々なものが見てとれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

全ての悩みを解決した先に

夢破れる
SF
「もし59歳の自分が、30年前の自分に人生の答えを教えられるとしたら――」 成功者となった未来の自分が、悩める過去の自分を救うために時を超えて出会う、 新しい形の自分探しストーリー。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...