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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第726話 前向きになれたのなら、それでいい

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「そうね、カツエ……」

 ミサトは自分のなかにある、もやもやがはれていくのを感じた。
「あのひとたちと思い出を共有できないことを、やっかんでもしかたないわね。むしろブライトの指摘したとおり、このことは運がよかったと考えるべきかもしれない。わたしたちはみんなのように、エンマ・アイの過去にこころ揺さぶられることはないもの」
「前向きになれたのなら、それでいい」
「ありがとう、カツエ。気分がおさまったわ。あとはあの亜獣どもを殲滅することに、神経を集中させることにする」

 その時、画面に見えていたエンアイムの動きに変化があらわれた。のべつまくなしに上方へ地上のものを巻き上げていた風がふいにやんだのだ。

「なに?」
 エンアイムが進行をとめた。くるくると胴の部分からまわっていたスカート部分がゆっくりとスピードをおとしはじめる。
「回転がとまりそうよ。金田日先生、あの遠心力かなんかで浮かんでるんじゃないの?」
 金田日が困惑を絵に描いたような顔をモニタにむけてきた。それだけでまともな答えを用意できてないことはわかった。
「あ、いえ、カツライ司令。まだデータが揃っていないので……」

「先生、けっこうよ。戦闘が終わる頃までには、分析しておいてくださいね」
 皮肉をまじえたのは、指揮官としてすこし品がないかとも思ったが、ミサトはすぐさま次の行動をうつした。
「各位。このあとなにが起きるかわかりません。各セクションごとにデータ収集をお願いします。そしてこちらにわずかでも有利に働くデータを見つけたら、一秒でもはやくヤマト・タケルに伝達してちょうだい。分析や解析は不要。あとはすべてヤマト・タケルの判断にゆだねます」
 
 これは自分も草薙やブライトたち同様、ヤマト・タケルの力を信じる、という決意表明にほかならない。ほとんどのクルーのように記憶や経験を共有してはいないが、今からその志は、みんなと共有する、という覚悟だ。

「わたしとウルスラ総司令は、みんなが信じる、ヤマト・タケルを信じます!」

 クルーたちの視線が自分に集中しているのが感じられた。
 直接こちらに目をむけている者、モニタ越しに見ている者、みんなの思いがそこに感じられた。自分でもそれがとても晴れがましく感じられると同時に、いかばかりかの敗北感をおぼえた。

 空中に制止したまま動かないエンアイムを見つめる。逆立ちした貴婦人の巨大なフォルムは、ただそこに浮かんでいるだけで不気味だ。それがこれから人類に対して、なにか用意周到に準備した作戦を決行しようとしている。

 ミサトはぎゅっと胃が縮こまるのを感じた。

 この地位にのぼりつめたことを後悔するほどの圧力だ——
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