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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第710話 この場所からすこしでもはやく離れなければ

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 草薙大佐直属の兵士たちは、慌てることがなかった——。

 すぐにエドの前に飛び出して、己のからだを盾にしながら、ころがっている頭にむかって発砲した。とどめをさすというのではなく、できるだけ遠くへはじき飛ばそうとする攻撃のようだった。

 エドはその一連の動きを見ながら、まだ夢のなかにいるような気持ちだった。
 視界にうすぼんやりしたもやがかかっている上、あらゆるものから色が抜け落ちて見えた。すべての動きがスローモーションのようで、おどろくほどゆっくりと動いている。

 兵士がトリガーをひく指の動き。
 銃口から火花とともに滑りだした弾丸が、螺旋の回転を描いて、空気を切り裂きながら飛んでいく。
 だがその発射音は、まるで水のなかにでもいるように、くぐもって聞こえる。

 逃げなければ——。

 この場所からすこしでもはやく離れなければ——。
 
 だが、叫びだしそうなほど必死に命令を発しているはずなのに、四肢のどこにも命令が到達しようとしない。
 からだが……動かない——。

 そのとき、ふいに背後からだれかの腕を掴まれた。
 前方を守っていた兵士だった。
 一瞬にして、エドのからだのこわばりが解けて、からだが自由になる。

 兵士がなにかを顔の近くで叫んでいる。

 まだ耳栓でもしたように、なにを言っているかがわからない。

 兵士はつかんだエドの腕を、ストレッチャーロボットの外枠の把手に無理やり押しつけた。どうやらここを掴めということらしい。
 エドはうながされるまま、その把手を握りしめた。
 ストレッチャーの上に横たわっている舎利弗小人《とどろきしょうと》の足元が、全体をおおうカバーのスリット部分からちらりとみえた。
 兵士が把手を握ったエドの手を、かるく二度たたくと、前方のほうへ戻っていった。
 エドは自分の後方に目をやった。
 さきほど魔法少女の頭を遠方へとはじき飛ばした兵士が、まだ仁王立ちの状態で銃を構えていた。
 だが、その視線を外した一瞬に、ストレッチャーがいきなり猛烈なスピードで動きはじめた。エドが「さきほどの兵士が叫んでいたのは、これだったのか」と気づいたときには遅かった。かなりしっかりと掴んでいたつもりだったが、腕がもぎ取られるような勢いで引っぱられ、エドは床に引き倒され叩きつけられた。

 からだに痛みが走ったが、エドはすぐに半身をおこして、ストレッチャーの把手を掴みなおそうとした。

 だが、兵士の全速力に近いスピードに合わせて、前進しているストレッチャーは、エドが予想しているよりも先へ行ってしまっていた。
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