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第三章 第五節 エンマアイの記憶
第701話 これはショートには聞かせられない……
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ウルスラは大きく息を吐くと、観念したように言った。
「あそこにいたのだ。幹部の家族が偶然にもね……」
「それが誰の家族なのか、私も知らない。だが、私はそこにいる人の命を守るようにという命令を受けた。亜獣を倒すのではなく、人々を避難させるだけだから何とかなるとたかを括っていた。だからあんな事態になるなどと思いもしなかった」
「たった……」
春日リンは怒りのあまり、ワナワナと打ち震えていた。
感情に支配されて、からだをコントロールできなかった。
「たった数名の命を救うために、カミナ・アヤトの……、いえ、全人類の命を引き換えにしたのですか?」
しゃべりながら唇がふるえ、嗚咽がまじる。しっかり言えない自分が腹立たしい。悔しくてしかたがない。
だがこれは私がしなければならない抗議。医務室に担ぎ込まれたショートに成り代わって、上司である自分がおこなわねばならない詰問。
でもこれはショートには聞かせられない——。
こんな理不尽な命令で、そしてこんなにもお粗末な理由で、自分の愛するひとを失ったことを知ったら、死にたくなるほど悔しい気持ちになるにちがいない。
今、自分自身もおなじような気持ちにかられている。こんなことのために、わたしは部下のショートを裏切り、ブライトに有利な証言までしたのだ。
ウルスラがこちらを見た。
そしてモニタ越しに憔悴した様子のブライトに目をくれてから言った。
「反省してないわけではない。だが、その見返りに多額の予算が、この日本支部にはわりあてられたはずだ」
瞳孔がおおきく広がるのが、自分でも自覚できるほどに、リンは目をめいっぱい見開いた。
たしかに言うとおりだった——。
あの一件からすぐに予算は従来の倍以上もついて、人員の増強、最新設備へのリプレイス、研究費の増額、他国機密データへの特別アクセス権など、おどろくほどの厚待遇を得ることができた。
リンはモニタのむこうのブライトを見た。
あなたの見返りはこれだったの!。
リンはブライトを詰問しようと思った。モニタ越しでは手ぬるい。直接、目の前でなにもかもを告解させなければ気がすまなかった。
なによりショートに対して申し訳なかった。
リンが踵を返してブライトのいる部屋へ向かおうとした瞬間、ヤシナ・ミライの声が司令室内に音声で、そしてに直接脳内に思考として響きわたった。
『東京都渋谷署から入電!』
「今度はなにっ!」
ミサトが脊髄反射的に叫んだ。
『渋谷区上空に二百メートル級の巨大物体出現!。亜獣反応あり!。おそらく……』
『亜獣エンアイム、本体です!』
「あそこにいたのだ。幹部の家族が偶然にもね……」
「それが誰の家族なのか、私も知らない。だが、私はそこにいる人の命を守るようにという命令を受けた。亜獣を倒すのではなく、人々を避難させるだけだから何とかなるとたかを括っていた。だからあんな事態になるなどと思いもしなかった」
「たった……」
春日リンは怒りのあまり、ワナワナと打ち震えていた。
感情に支配されて、からだをコントロールできなかった。
「たった数名の命を救うために、カミナ・アヤトの……、いえ、全人類の命を引き換えにしたのですか?」
しゃべりながら唇がふるえ、嗚咽がまじる。しっかり言えない自分が腹立たしい。悔しくてしかたがない。
だがこれは私がしなければならない抗議。医務室に担ぎ込まれたショートに成り代わって、上司である自分がおこなわねばならない詰問。
でもこれはショートには聞かせられない——。
こんな理不尽な命令で、そしてこんなにもお粗末な理由で、自分の愛するひとを失ったことを知ったら、死にたくなるほど悔しい気持ちになるにちがいない。
今、自分自身もおなじような気持ちにかられている。こんなことのために、わたしは部下のショートを裏切り、ブライトに有利な証言までしたのだ。
ウルスラがこちらを見た。
そしてモニタ越しに憔悴した様子のブライトに目をくれてから言った。
「反省してないわけではない。だが、その見返りに多額の予算が、この日本支部にはわりあてられたはずだ」
瞳孔がおおきく広がるのが、自分でも自覚できるほどに、リンは目をめいっぱい見開いた。
たしかに言うとおりだった——。
あの一件からすぐに予算は従来の倍以上もついて、人員の増強、最新設備へのリプレイス、研究費の増額、他国機密データへの特別アクセス権など、おどろくほどの厚待遇を得ることができた。
リンはモニタのむこうのブライトを見た。
あなたの見返りはこれだったの!。
リンはブライトを詰問しようと思った。モニタ越しでは手ぬるい。直接、目の前でなにもかもを告解させなければ気がすまなかった。
なによりショートに対して申し訳なかった。
リンが踵を返してブライトのいる部屋へ向かおうとした瞬間、ヤシナ・ミライの声が司令室内に音声で、そしてに直接脳内に思考として響きわたった。
『東京都渋谷署から入電!』
「今度はなにっ!」
ミサトが脊髄反射的に叫んだ。
『渋谷区上空に二百メートル級の巨大物体出現!。亜獣反応あり!。おそらく……』
『亜獣エンアイム、本体です!』
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