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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第692話 ビルで亜獣を押し潰すつもりなのかっ

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 ビルの破壊された部分がゴキンと折れる。
 ワイヤーで引っぱられて、上層階部分がマンゲツがしがみつくビル側へと傾いてくる。

 ビルおよそ20階分、100メートル超の塊——。

 マンゲツは自分のほうへ倒れてくるのを確信すると、するするとさらに上に登っていった。
 倒れてきたビルは対面のビルに激突した。
 おびただしい粉塵をまき散らしながら、瓦礫がれきが地面に落下していく。さらに激突したビルがその重みで、対面のビルにめり込みはじめ、フロアのいくつかを押し潰しはじめる。
 さらに上層部が折れたビルのほうも、その衝撃のせいで低層部のどこかが崩壊したらしく、そのまま下にズンと沈み込んでいくのがわかった。
 上から下へと降り注ぐ破片が、一気に数量を増す。

 そして、その下には亜獣ラーゼファンがいた。
 吸盤でビルにとりついていたため、そこから逃げられずにいる。

「なんてことを、ヤマト。ビルで亜獣を押し潰すつもりなのかっ!」
 蒼ざめた顔をしながら、ブライトが唾棄だきするようにことばを吐きだした。
「そんなの無理よ。相手は亜獣。『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』内にいるのよ」
 ブライトの怒りに呼応したのはリンだった。
「こちらの物質は亜獣にはあたらない。あたったように見えてなんのダメージもないか、なにもない空間のようにすり抜けるか、どちらかよ」
 リンの言う通り上から降り注いでくる瓦礫がれきは、亜獣のからだをすり抜けて地面に激突していった。亜獣はあとからあとから落ちてくるおおきなブロックなどまるで幻影であるかのように、悠々とビルからとりついた吸盤をひきはがしていた。
 あたりには地面を揺るがすような轟音が響きつづけている。

 あたしはヤマトがブライトへの腹いせにビルを破壊しているのかと思った。

 亜獣退治を正統な理由にしてむしゃくしゃした気持ちを晴らしているのかと——。
 だけど、二棟の高層ビルが折り重なるようにして、倒壊していくさまを目の当たりすると、腹いせにしてはやり過ぎだと思わざるをえなかった。

 その時、あたしは壁際から、ガチャンガチャンと大雑把な音が聞こえていることに気づいた。あまりにも耳障りな音が気になって、一瞬だけそちらに注意をむけた。

 そして、そのままあたしは身動きができなくなった。

 それはマンゲツと連動している「デッドマン・カウンター」の音だった。だがカウンターはカウントしていなかった。見たこともないようなおおきな数字が、ガチャンと音がするたびに加えられているだけだった。

 10、20の単位ではない。100単位で一気に数字が加算されていっているのだ。
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