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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第690話 亜獣を倒すつもりです

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「ヤマト、うしろに逃げるだけでは倒せんぞ!」

 ブライトが司令官の椅子から立ちあがって、苛だちをあらわにした。

「ブライトさん、簡単に言わないでもらえますか。この場所ではさけようがないんですから」

「タケルくん。あまり後退しないで。そっちには『防災シェルター』があるの」
 リンが当然のように、後方への注意をうながしてきた。

「なんでです!。『防災シェルター』なんでしょう!」

 タケルが声を荒げると、今度はアルがそれに意見してきた。
「あの溶解液に耐えられるつくりにはなってねぇんだよ、タケル。あの溶解液は厄介なことに『ロンズデーライト合金』さえ溶かしちまうのさ」
「ほんとうに厄介ですね。でもどうしようもない」
「どうしようもない?。それはどういう意味だ。ヤマト!」
 ブライトがタケルの言葉尻にかみついた。

「ぼくにはどうしようもない、っていう意味です。だってぼくの任務は亜獣『ラーゼファン』を倒すことで、ひとの命を救うことじゃあありませんからね」

「なにを言っている?」
「ぼくは一万や二万の人命を尊重して、命を落とすわけにはいかないんです。ぼくが死んだら、地球は終わりなんですから。それとも100億人の命と引き換えに、目の前のわずかなひとの命を救えと?。シモンみたいに」

「ヤマト、きさま、脅すつもりか!」

「脅す?。まさか。ブライトさん、ただ覚悟してくださいって言ってるんです」
「覚悟?。何の覚悟だ」

「地球を救うという覚悟です」

 その挑発的態度に不安を覚えたのか、リンが横から口をはさんできた。
「なにをする気、タケルくん、あんまり無茶をしたら……」

「ご心配なく、リンさん。無茶も無理もしませんよ。だから……、犠牲を覚悟して下さいっていうことです!」
「なにをするつもり!」
「はは、きまってるじゃないですか……」

「亜獣を倒すつもりです」

 あたしはタケルがなにをしようとしているのか、ますますわからなくなった。
 ブライトたちへの当てつけなら、出動を拒めばいいだけだし、反省を促したいのなら亜獣と戦わなきゃいいだけ。
 だけどあの物言いは……そう、とてもうしろむきの行動を考えては、でてこないものだ。
 なにかをしかけようとしている——?。

 タケルはいつからこんな尊大な態度をとるようになったのだろう——。

 あたしとツガうというのを拒否したとき?。
 ヤマト隊長とツルゴ叔父さんをうしなったとき?。
 もしかしたら、あたしと出会った時にはすでにそうだったのか?。あたしがお姉さんでタケルに対して、頭ごなしに接していたから気づかなかっただけ——。

 いや、ちがう……。
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