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第三章 第四節 エンマ・アイ

第610話 アスカさん、武器をうしなうのが早すぎです

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 アスカはたけっていた——。

 憤怒の声とともに、手のなかに残された短い棒っきれを地面にたたきつける。

 アスカは急襲してきた第一陣の魔法少女に、間髪をいれずスピアをくりだした。が、その槍をあっという間にバラバラにされたのだ。
 からだ自体は『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベールで守られていても、武器そのものは『分解光線』の脅威にさらされるというのはもちろん理解していた。
 それでもアスカにはそれをすり抜けてダメージを与える自信はあった。
 だが、一番槍を繰り出したところで、あっけなく武器を駄目にされるとは思わなかった。右腕をおもうように動かせず、動作が緩慢になったところを狙われた。

「アスカさん、武器をうしなうのが早すぎです」
 武器責任者の玄野介くろの・けいが、アスカの失態をとがめる声がとんできた。
「言われなくてもわかってる!。だいたい魔法少女に長ひょろい武器は相性がわるいでしょうがぁ」
「それもおりこみ済みのはずですよ」
「はん、武器なんか、こいつらには必要ないのよ」
 アスカはセラ・ヴィーナスをトップギアにいれダッシュさせた。
「あたしがこいつらを下にたたき落とす!。バットー、あんたたちはうち漏らしたやつらを始末して!」
 セラ・ヴィーナスは勢いをつけたまま、なにかの庁舎だったらしい低層ビルの屋上に足をかけ、渾身の力をこめてジャンプした。
 セラ・ヴィーナスの巨体が宙を舞う。
 急降下をしていた魔法少女の群れに飛び込むと、手を空中で振り回して魔法少女たちを平手でなぎはらい、下方にむかって叩き落とした。
 その姿はまるで空中で手をバタバタさせて、もがいているように見えたが、アスカはそんな見てくれにはこだわるつもりはなかった。
 さっきの今のひともがきで20から30体の魔法少女を、地面に叩きつけることができた。地表付近の地面や建物の壁にパッと赤い花が飛び散る。
 全部潰せたわけではなかったが、すくなくとも機先を削ぐことには成功した。
 地面にたたきつけられた魔法少女たちはからだの各所から、内臓や骨や筋肉がはみださせて血まみれになっていたが、それでも立ちあがろうとしていた。
 そこをトグロの部隊が『マジカル・スピア』でとどめをさしにむかった。心臓をえぐりとるように突く。四肢がぶらぶらになりながらも、けなげに立ちあがろうとした魔法少女が動きをとめた。

 その様子をモニタで確認しながらも、アスカは続けざまに次のビルの上をジャンプしていた。何度目かの跳躍でセラ・ヴィーナスの身長の倍ほどの100メートル超のビルの上に着地すると、アスカは屋上のへりに指をかけた。
 屋上に立てないかとさぐったが、セラ・ヴィーナスが両足を揃えてたてるほど、ビルの屋上はひろくなかった。
 それどころか飛び移ったときの勢いのせいで、ビルの屋上の隅の一角が崩落し、バランスをくずしそうになる。
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