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第三章 第四節 エンマ・アイ

第603話 一千万地下都市の在りし日の名残り

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 見あげるほど高い廃虚の集まりでしかなかったが、どこまでも先に続いていて、端まで見通せないのはたしかに驚きだった。
 富士山麓に設置された亜獣対戦の『シミュレーション・エリア』も街をまるまる再現できるだけの広さがあり、相当広いはずだったが、ここはその数倍はゆうにあると感じられた。

「あたりまえだろ。二百年ほど前にゃあ、一千万人ほどが避難してここで生活してたんだぜ。一千万人って考えりゃあ、けっして広いとは言えやせんさ」
 バットーが見てきたように説明してきたので、アスカはついでに尋ねてみた。
「バットー中佐。あのビル、なんかいくつものパーツが積み重なってできてるみたいだけどどうしてあんな構造になってンの?」
「ああ、あれな。聞いた話だと、その当時は『フレキシブル・タイル』や『ヴァーサタイル・ブロック』なんて便利なもんはなかったんで、地上で組み建てたユニットを現場で積み重ねる方式をとらざるをえなかったらしい」
「地下に建設したんじゃないの?」
「この場所では組立アッセンブルするだけさ。なにせこの地下空間で最大限に注意をはらうべきは、空気の汚染だからな。粉塵が舞うような作業はご法度はっとだったんだろうよ」
「はーん、でもちょっとしたアートみたいじゃない。天井を支える柱としての役割りもあるみたいだけど、このちょっといびつな感じ嫌いじゃないわ」
「そうですね、わたしもこの荒廃した感じも含めて気にいりましたよ。ここが遺跡として一般公開されてないのが不思議でならないですね」
 今度はアスカの意見にユウキが同調を示してきた。なにか無理に自分に気をつかっているように感じて煩わしかった。
 ユウキはまだ素の自分を出しきれていない。
 好感度を高めることで、兵士たちから良く思われようとしている、という印象を拭えないでいる。タケルが指摘していた、一目置かれたい、という欲望を振り切れないでいるのだろうか……。
「ユウキ、わざとバカ言ってるんだろ。おめえだって知ってんだろうに……」
 バットーはなかばあきれ気味に言った。
「ここは『高レベル核廃棄物』の最終処分場として使われてんだ。危なっかしくて人を近寄らせるわけにはいかねぇだろ。なんのため、みんな特殊装備していると思っている」
 そう言いながらバットーは、ヘルメットの上からからだ全体をおおっている、透明のぶよぶよとしたシールドを指でつまんでみせた。
「いえ、それは理解してますよ。バットーさん。ただ『高レベル核廃棄物』が貯蔵されていると言っても超高密シールドで密閉されているので、人体に悪影響を与えるほどの放射能は漏れでていないと聞いていますが……?」

「あぁ、計算上はな。だが半減期が一万年なんてシロモンもあンだ。注意をはらいすぎるくらいのほうがいいだろう?」
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