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第三章 第四節 エンマ・アイ

第583話 だれの映像なんだ! 

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 だがそのあとになにかが起きることはなかった。

 たとえば稲妻による『洗礼』や、内側から起きる体躯の変貌など、目に見えるイベントはなにもなかった。そして映像はその人物がきびすを返して、その場を去っていったところで終っていた。

「これじゃあ、だれが魔法少女と契約したのかわからない。セイント、これで終わりなのか?」
「いいえ。もうひとつ……」
 そうセイントが言ったとたん、網膜スクリーンに別の映像が強制的に再生されはじめた。
 エドはつい抗議の声をあげようとした。自分の意に反して、他人の生体チップ内にアクセスして、命令を送り込んできたのだ。
 これは国際法違反でれっきとした犯罪——。

 だがエドは目の奥に映し出された映像に目を奪われ、声帯をふるわせなかった。
 それは何者かの『網膜ログ』だった。その人物は責任者しか入室できない『データ・アーカイブ・ルーム』で、中空に浮かんだ操作画面に指を這わせていた。その人物は複雑な承認手順の操作を、よどみなく実行していることがわかった。
「こ、これは……」
「そ、さっきの『監視データ』を隠匿しようとした上位者権限を持つヤツの網膜の映像さ。せっかく『生体管理局』のサーバーをハッキングしたんで、そいつの『網膜ログ』をいただいてきたんだ」
「だ、だれのなんだ!」
 エドは自分でもはしたないと思うほど、詰問するように叫んでいた。
「おい、おい、焦りなさんな。自分の目で確かめてくれよ」
「セイント!。本人の『網膜ログ』じゃあ、それがだれなのかわかる……」
 怒りにまかせてセイントに強い口調を叩きつけたが、エドはすぐに口ごもった。
 アーカイブ・ルームの正面コンソールに貼り付いていた鏡面仕上げのパネル——。

 アルだった。

 アルがいやに神妙な面持ちで操作画面に集中している顔がそこに映り込んでいた。
「まさか……。ア、アル……なのか?」
「別のだれかに見えるのかい?」
「あぁ、あぁ、そうだね……。だがセイント、ぼくはどうすればいい?」
 エドはうろたえているさまを悟られまいと、眼鏡に手をのばしてずりあげながら訊いた。
「エド、すまないな」
 セイントはやけにさばさばとした口調で答えた。
「こちらが依頼された仕事は、データのハッキングだけだ。わるいが人生相談はふくまれていない。キミの未来には興味があるから忠告するけど……、まぁ、深い入りしないほうがいいんじゃないかな」
「ど、どうしてだ……?」


「エド、キミの未来から、友人をうしなわれることになるだろうから」
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