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第三章 第四節 エンマ・アイ
第553話 わたしは国際連邦軍のウルスラ・カツエ中将です
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その物体は、二メートルほどもあるおおきな体躯に、装甲をまとった兵士のように見えた。
兵士は手におおきな銃を構えていて、さらに肩口から飛び出したアームのようなものが何本も飛び出し、そのどれもの先端に銃のような武器がついていた。
「わたしに攻撃をさせないでください」
その兵士が言った。目から下ほどしか見えなかったが、装甲の下から女性の顔が覗いていた。
「あなたがた夫婦はもう逃げることはできません。二人とも『国際優生法違反』です」
母は忌々しそうな顔つきをしたかと思うと、そのまま車を降りた。向こうからゆっくりと歩いてくる兵士にむかって訊いた。
「ねぇ。わたしたちひとに迷惑をかけてないわ。見逃してくれないかしら?」
「わかっているはずでしょう。わたしの口からそれを説明させないで下さい」
その兵士はアイの乗った車の後部座席付近に視線をむけてから続けた。
「とくにその子の目の前では……」
おどろいたことに母はそのことばを真摯に受けとった。
「えぇ……、そうね。わかった」
「手慌なまねはしたくありません。素直に従って下さい。このアンドロイドのからだでは思いがけない怪力を発揮することもあるんです」
「ここまでってことなのね……」
そのことばを聞いて、父が銃をもったまま母のそばにむかった。そして兵隊のアンドロイドに、指をつきつけながら言った。
「あんたが何者か知らないが、わたしたち家族はだれにも迷惑をかけずに、ただ生活していたいだけだ。それくらいの幸せも許されないというのか!」
アンドロイド兵は困った顔をしてから、すこし背筋をのばして言った。
「わたしは国際連邦軍のウルスラ・カツエ中将です。『生体管理局』の最高判定AIの依頼を受けて、あなたがたの逮捕に参りました」
「中将……。そんなお偉いさんが……」
「ええ。今回はとくにお嬢さんの問題がありますから……」
それを聞くなり母は悔しそうに顔を歪めさせたかと思うと、手で顔をおおった。
「あの子は……、アイはこれからどうなるの?」
「ご安心下さい。あの子は国連軍保護下におかれ、大切に育てられます」
ガチャンとおおきな音がした。父が手にした銃を取り落とした音だった。父は涙で目を潤ませていた。
「なあ、わたしが……、わたしだけが責任をとる。それじゃあだめなのか……」
ウルスラが横にゆっくりと首をふった。
「大変残念ですが、あなたひとりでは罪はまかないきれません。諦めて下さい」
父はその場にがくりと膝をついた。
アイはなにもできず、言われるがままの両親の姿にショックを受けていた。車の中と外ではまるで違う時間が流れているような気がしてならなかった。
車の中にずっと留まっているだけで、外にいる父や母だけがどんどんどこかへ行ってしまう、という恐怖に襲われた。
兵士は手におおきな銃を構えていて、さらに肩口から飛び出したアームのようなものが何本も飛び出し、そのどれもの先端に銃のような武器がついていた。
「わたしに攻撃をさせないでください」
その兵士が言った。目から下ほどしか見えなかったが、装甲の下から女性の顔が覗いていた。
「あなたがた夫婦はもう逃げることはできません。二人とも『国際優生法違反』です」
母は忌々しそうな顔つきをしたかと思うと、そのまま車を降りた。向こうからゆっくりと歩いてくる兵士にむかって訊いた。
「ねぇ。わたしたちひとに迷惑をかけてないわ。見逃してくれないかしら?」
「わかっているはずでしょう。わたしの口からそれを説明させないで下さい」
その兵士はアイの乗った車の後部座席付近に視線をむけてから続けた。
「とくにその子の目の前では……」
おどろいたことに母はそのことばを真摯に受けとった。
「えぇ……、そうね。わかった」
「手慌なまねはしたくありません。素直に従って下さい。このアンドロイドのからだでは思いがけない怪力を発揮することもあるんです」
「ここまでってことなのね……」
そのことばを聞いて、父が銃をもったまま母のそばにむかった。そして兵隊のアンドロイドに、指をつきつけながら言った。
「あんたが何者か知らないが、わたしたち家族はだれにも迷惑をかけずに、ただ生活していたいだけだ。それくらいの幸せも許されないというのか!」
アンドロイド兵は困った顔をしてから、すこし背筋をのばして言った。
「わたしは国際連邦軍のウルスラ・カツエ中将です。『生体管理局』の最高判定AIの依頼を受けて、あなたがたの逮捕に参りました」
「中将……。そんなお偉いさんが……」
「ええ。今回はとくにお嬢さんの問題がありますから……」
それを聞くなり母は悔しそうに顔を歪めさせたかと思うと、手で顔をおおった。
「あの子は……、アイはこれからどうなるの?」
「ご安心下さい。あの子は国連軍保護下におかれ、大切に育てられます」
ガチャンとおおきな音がした。父が手にした銃を取り落とした音だった。父は涙で目を潤ませていた。
「なあ、わたしが……、わたしだけが責任をとる。それじゃあだめなのか……」
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「大変残念ですが、あなたひとりでは罪はまかないきれません。諦めて下さい」
父はその場にがくりと膝をついた。
アイはなにもできず、言われるがままの両親の姿にショックを受けていた。車の中と外ではまるで違う時間が流れているような気がしてならなかった。
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