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第三章 第三節 進撃の魔法少女
第504話 イシカワさん、さすがですね
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中空から映し出されているライブ映像が、兵士たちの姿をとらえる。
口元に逞しい髭を生やした兵士が、空を舞っている魔法少女へ攻撃を指示をしていた。本人もマシンガンのような銃で、盛大に銃弾をぶちまけている。その銃撃で数体の魔法少女が地面に落ちて行くのが確認できた。すぐさま待機している別の隊員が、とどめをさすために近づいていき、至近距離で心臓付近へ銃弾を撃ち込みはじめる。
「イシカワさん、さすがですね」
トグロが映像ごしに髭の兵士へ声をかけると、イシカワが怒鳴ってきた。
「トグロ、ぼさっとみてねぇで、こっちへ援軍をよこせ。ずいぶん弾丸を使っちまったから、こっちはそろそろ撤退だぜ」
「了解です。すぐそちらにむか……」
そのとき、ふいに室内に影が落ちた。
閉められていたブラインドのむこうにいるなにかの影だった。
「ふたりとも窓から離れて!」
トグロが李子とブライトにむかって叫ぶと、銃を身構えながら窓側に進み出た。ブラインドの向こう側にいるなにかの影が、うすくなったり濃くなったりする。李子は近寄ったり、遠ざかったりして、こちらの様子をうかがっているのだと、すぐにわかった。
李子はいつのまにかゴクリと唾を飲み込んでいた。
「敵は全部で三十一体。そのうち十体を殲滅」
兵士のひとりがスクリーンのなかの映像を注視しながら、トグロにむかって報告した。
「あと二十体……。残りの武器では掃討しきれないか……」
トグロはボソリと呟くと、ブライトのほうを見て言った。
「一条中将。ここには魔法少女に気づかれずに抜け出せるような通路はありますか?」
「いや、残念ながらそんなものはない。中佐、『パニック・ルーム』に逃げ込んではどうかね。『瞑想室』とおなじようにロンズデーライト合金製でできていて……」
「いや、ろう城は危険です。どんなに強固な作りだろうと、やつらはバラしてしまうでしょうし、あの『分解光線』が遮蔽物を通り抜けないという保証はまだありません」
「ならば屋上に向かおう。スカイ・モービルのガレージがある。それに乗ってなら逃げられる」
「了解しました。ですが中将、相手は空を飛ぶ生き物です。電磁誘導パルスレーンのある高度までたどり着ければ、追ってこれないでしょうが、そこまでをどう切り抜けるかに課題が残ります」
「今、AIにスカイモービルのスタンバイをさせた。とりあえずわたしとアイダ先生はそちらへ向かわせてもらう」
「では護衛を2人つけましょう」
そのときブラインドの向こう、窓の外からキュルキュルと何かがきしむ音が聞こえてきた。 けっして騒々しくはないし、不快に嘖まれる音ではない。
だが、李子はそれがなにかわかっていた。足がガクガクと震えて、椅子の背もたれに手を掴んでいないと倒れそうだった。
あれは窓枠を固定していたネジがゆっくりと、引き抜かれてはずれていく音——。
そしてわたしたちの命をこれから千々に削っていこうとする音だ。
口元に逞しい髭を生やした兵士が、空を舞っている魔法少女へ攻撃を指示をしていた。本人もマシンガンのような銃で、盛大に銃弾をぶちまけている。その銃撃で数体の魔法少女が地面に落ちて行くのが確認できた。すぐさま待機している別の隊員が、とどめをさすために近づいていき、至近距離で心臓付近へ銃弾を撃ち込みはじめる。
「イシカワさん、さすがですね」
トグロが映像ごしに髭の兵士へ声をかけると、イシカワが怒鳴ってきた。
「トグロ、ぼさっとみてねぇで、こっちへ援軍をよこせ。ずいぶん弾丸を使っちまったから、こっちはそろそろ撤退だぜ」
「了解です。すぐそちらにむか……」
そのとき、ふいに室内に影が落ちた。
閉められていたブラインドのむこうにいるなにかの影だった。
「ふたりとも窓から離れて!」
トグロが李子とブライトにむかって叫ぶと、銃を身構えながら窓側に進み出た。ブラインドの向こう側にいるなにかの影が、うすくなったり濃くなったりする。李子は近寄ったり、遠ざかったりして、こちらの様子をうかがっているのだと、すぐにわかった。
李子はいつのまにかゴクリと唾を飲み込んでいた。
「敵は全部で三十一体。そのうち十体を殲滅」
兵士のひとりがスクリーンのなかの映像を注視しながら、トグロにむかって報告した。
「あと二十体……。残りの武器では掃討しきれないか……」
トグロはボソリと呟くと、ブライトのほうを見て言った。
「一条中将。ここには魔法少女に気づかれずに抜け出せるような通路はありますか?」
「いや、残念ながらそんなものはない。中佐、『パニック・ルーム』に逃げ込んではどうかね。『瞑想室』とおなじようにロンズデーライト合金製でできていて……」
「いや、ろう城は危険です。どんなに強固な作りだろうと、やつらはバラしてしまうでしょうし、あの『分解光線』が遮蔽物を通り抜けないという保証はまだありません」
「ならば屋上に向かおう。スカイ・モービルのガレージがある。それに乗ってなら逃げられる」
「了解しました。ですが中将、相手は空を飛ぶ生き物です。電磁誘導パルスレーンのある高度までたどり着ければ、追ってこれないでしょうが、そこまでをどう切り抜けるかに課題が残ります」
「今、AIにスカイモービルのスタンバイをさせた。とりあえずわたしとアイダ先生はそちらへ向かわせてもらう」
「では護衛を2人つけましょう」
そのときブラインドの向こう、窓の外からキュルキュルと何かがきしむ音が聞こえてきた。 けっして騒々しくはないし、不快に嘖まれる音ではない。
だが、李子はそれがなにかわかっていた。足がガクガクと震えて、椅子の背もたれに手を掴んでいないと倒れそうだった。
あれは窓枠を固定していたネジがゆっくりと、引き抜かれてはずれていく音——。
そしてわたしたちの命をこれから千々に削っていこうとする音だ。
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