上 下
488 / 1,035
第三章 第三節 進撃の魔法少女

第487話 あたしは動揺なんかしてやらなかった

しおりを挟む
 ヤマトの衝撃的な告白を聞いてもアスカは動揺しなかった。

 あたりまえだ。
 女の子だったら誰だって気づく。そしてすぐに覚悟する。
 だから動揺しなかった。

 いや、あたしは動揺なんかしてやらなかった——。
 
 だからといって腹を括れているわけではない。不安が毛穴という毛穴から、ひたひたと浸潤してきて、こころをむしばもうとしているのがわかる。
 ちらりとクララを見る。
 彼女は画面のなかのヤマトから目を反らそうともせず、険しい視線をむけたままでいる。

 さすがよ、クララ。

 アスカはヤマトの次のことばを待った。訊きたいことも、言いたいこともごまんとあった。だけど意地でも自分の方から口を開いて、問いただすような真似はしたくなかった。

 女としての矜持だ。

「たしか、ぼくが三歳の時、アイはこの日本支部に引き取られてきた。地球最後の純血の日本人少女、99・0%スリー・ナインとして。それから一緒に育って、12歳の時から一緒に亜獣と戦うようになった。でも3年前、アイは逝った。亜獣に勝てなかった……」
 
 アスカはおおきく息を吸って、肺にいっぱい空気を満たした。思いの丈を一気にぶつけてやるつもりだった。だが、先にヤマトを詰問したのは、クララだった。

「今も愛してるってことですか!」

 さきほどとおなじ姿勢でヤマトを睨みつけているのが見える。でも目がすこし充血していた。アスカはことばを飲み込んだ。
 これはクララの思いの丈だ——、

「愛してる……?」
 ヤマトはそう呟くなり、そのことばを舌先で転がしたかと思うと、弱った顔で答えた。
「ごめん、クララ。ぼくにはわからない。そういう感情がもてないように、もたないように育てられた。だから愛という感情があてはまるか判断がつかない」
「でも、タケルさんは、さっき大切な人だとおっしゃいました」
「ああ、大切な人だった。それは父もそうだったし、テツゴおじさんやシモン、いやカミナ・アヤトもそうだ。今は君たちパイロットも大切だし、ここで話をきいているクルーのみんなも……」
「ごまかさないでください!」

 その非難めいたクララの叫びにアスカは彼女の本気を感じた。頼もしく思えたが、自分のこころなかのひだをわずかばかりかをえぐられたような気がした。

「大切な人と、一番大切な人はちがうでしょう。わたしたちにむけられる通り一遍のものと同等に語らないでください」
 クララはそう言ったまま答えを待った。険しい視線でヤマトに答えを促していた。
「クララの言うとおりかもしれない。ぼくは感情を動かされないよう訓練されているから、そこにどれほどの違いがあるかわからない。でも、そう……、うん、彼女は、エンマ・アイは特別なひとだ」

 アスカはふいに涙がこみあげそうになった。  
 ギッと奥歯を噛みしめてこらえる。デミリアンとの接続は解除されているから、どんな感情をもっても問題はない。
 だからといって、このパイロット・シートの上に座っている限り、ここで感情を露にしていいはずはない。

 これはパイロットとしての矜持だ——。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

狭間の世界

aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。 記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、 過去の彼を知る仲間たち、、、 そして謎の少女、、、 「狭間」を巡る戦いが始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

イヤホン型意識転送装置

廣瀬純一
SF
自分の意識を他人に転送できる世界の話

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

処理中です...