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第三章 第三節 進撃の魔法少女
第475話 進撃の魔法少女4
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「あなた、わたしの視界共有してるでしょ。わたしの見ているものが見えてるはずよ」
「えぇ。見えていますとも。ムハンマドさんは大変元気でいらっしゃいますよ」
「元気ですってぇ?」
「はい。心拍数、呼吸数、血圧も正常ですし、脳内にメラトニンが分泌されているようですから、今は睡眠中らしいですね」
「そんなはずないでしょう。今、目の前に首がない姿で廊下に転がってるのよ。わたしの目の映像を至急解析して!」
「はい。すでに解析しております。大変リラックスされた状態でお休みになってるかと」
「そんなバカな!。どうなってるの?」
アイシェはさきほどまでの恐怖の感情がすっかり消し飛んでいた。むしろ今は怒りの感情のほうが優位になっている。
その時、ムハンマドの部屋でガチャっと音がした。
誰かがいる——。
それが犯人かもしれないと感じたが、ムハンマドには奥さんがいることを思い出して、開いたままのドアの内側に、ゆっくりと顔を突っ込んだ。
とたんになにか饐えた臭いが鼻をついた。嗅いだことがないような悪臭で、アイシェはおもわず嘔吐きそうになった。
臭覚をシャットダウンして!。
彼女はあわてて口元を覆うと同時に、こころで念じて臭覚の感知機能をオフにした。臭いはほぼ気にならないレベルに軽減したが、目には涙が滲んでいた。それくらい強力な臭気だった、ということだ。彼女はその臭いの正体が気になったが、奥のキッチンのほうから聞こえてくる、ガサゴソとした音のほうに注意を奪われた。
おなじアパートメント、おなじフロアなので、部屋の間取りはアイシェの部屋とほとんど変わらない。だから奥のほうから聞こえてくる音が、ダイニングからしていると確信できた。彼女は壁に背中をつけるようにして、ゆっくりと奥のほうへ足を踏み入れた。
ドアに近づくとドアノブ付近に手をかざした。だが、ドアは開かなかった。アイシェはこころのなかで舌打ちした。どうやらドアを自動開閉設定にしていないらしい。原理主義者のなかには、できるだけ人間らしい、生活をしようという運動があって、極力、AIや自動化システムを利用しないというひとびとがいると聞いていたが、この部屋の住人、ムハンマド夫妻はそれを実践しているようだった。
馬鹿馬鹿しい!。
生体チップ埋込者であることを望んだのだから、ベーシック・インカムを得られているのだ。いまさら小手先の科学技術を拒んだからと言って、なにになるというのだ。
ガチャンと激しい音がした。
「えぇ。見えていますとも。ムハンマドさんは大変元気でいらっしゃいますよ」
「元気ですってぇ?」
「はい。心拍数、呼吸数、血圧も正常ですし、脳内にメラトニンが分泌されているようですから、今は睡眠中らしいですね」
「そんなはずないでしょう。今、目の前に首がない姿で廊下に転がってるのよ。わたしの目の映像を至急解析して!」
「はい。すでに解析しております。大変リラックスされた状態でお休みになってるかと」
「そんなバカな!。どうなってるの?」
アイシェはさきほどまでの恐怖の感情がすっかり消し飛んでいた。むしろ今は怒りの感情のほうが優位になっている。
その時、ムハンマドの部屋でガチャっと音がした。
誰かがいる——。
それが犯人かもしれないと感じたが、ムハンマドには奥さんがいることを思い出して、開いたままのドアの内側に、ゆっくりと顔を突っ込んだ。
とたんになにか饐えた臭いが鼻をついた。嗅いだことがないような悪臭で、アイシェはおもわず嘔吐きそうになった。
臭覚をシャットダウンして!。
彼女はあわてて口元を覆うと同時に、こころで念じて臭覚の感知機能をオフにした。臭いはほぼ気にならないレベルに軽減したが、目には涙が滲んでいた。それくらい強力な臭気だった、ということだ。彼女はその臭いの正体が気になったが、奥のキッチンのほうから聞こえてくる、ガサゴソとした音のほうに注意を奪われた。
おなじアパートメント、おなじフロアなので、部屋の間取りはアイシェの部屋とほとんど変わらない。だから奥のほうから聞こえてくる音が、ダイニングからしていると確信できた。彼女は壁に背中をつけるようにして、ゆっくりと奥のほうへ足を踏み入れた。
ドアに近づくとドアノブ付近に手をかざした。だが、ドアは開かなかった。アイシェはこころのなかで舌打ちした。どうやらドアを自動開閉設定にしていないらしい。原理主義者のなかには、できるだけ人間らしい、生活をしようという運動があって、極力、AIや自動化システムを利用しないというひとびとがいると聞いていたが、この部屋の住人、ムハンマド夫妻はそれを実践しているようだった。
馬鹿馬鹿しい!。
生体チップ埋込者であることを望んだのだから、ベーシック・インカムを得られているのだ。いまさら小手先の科学技術を拒んだからと言って、なにになるというのだ。
ガチャンと激しい音がした。
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