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第三章 第三節 進撃の魔法少女

第472話 進撃の魔法少女1

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 アイシェは窓からのぞむ世界遺産の『アヤ・ソフィア聖堂』の屋根を眺めながら、大きく伸びをした。イスタンブールという古都に住んでいるのだから、これくらいの光景が目に入ってくるのは当然であるべきだ。
 アイシェはつねにそう思っていた。
 眺めながら——?。
 いやいや、それはいささか見栄を張りすぎだ。
 彼女はそうひとりごちた。
 この部屋の窓から見えるアヤ・ソフィア聖堂は窓から顔をつきだして、からだをおもいっきりかしがせて、遠めになんとか垣間見えるというレベルだ。
 西洋と東洋の建築様式が融合したこの有名な聖堂は、毎日表面サーフェスが変化する、見栄え優先のオシャレな演出がほどこされたことで、最近日に日に人気が高まっている。半年前、AIロボットの不動産屋の口車にのって、この部屋に引っ越してきたが、案外ラッキーだったのかもしれない。
 ベーシックインカムだけで生きている『定・所得者』の身としては、これでも充分贅沢すぎるくらいだ。
 問題はこの地域はけっして治安がいいとは言えないことだ。

 もちろん犯罪はない。あるはずがない——。
 なにものかが犯罪を実行しようとした時、それが窃盗であれ、不法侵入であれ、また万が一にもレイプだったとしても、犯人はそれをくわだてた段階で、生体管理局のAI管理官にロックオンされ、遂行直前で未然に防がれる。アイシェもここに来る前には、店舗や大型施設内で、身動きできず床に転がったまま、醜態をさらさせられている連中をよく見た。
 だが、このアパートメントには勝手気ままに歌ったり、踊ったりして大騒ぎするや、珍妙な料理を作って、その日いちにちの気分が台無しになってしまう臭いをフロア中に平気で蔓延まんえんさせるやからがいる。
 もう少し高級な地域のマンションにでも越せれば、そんな嫌な思いもしなくなるのにと思うと、それだけが不満だった。

 実際、昨夜も隣の部屋がガタガタとうるさかったし、どこからかアパートメント中に聞こえるような悲鳴をあげている者もいた。いや、それだけじゃない。昼夜となくいつでも騒がしい商店街のほうは、いつにもなくおおきな音が聞こえたし、真夜中にコーランを唱える声がひっきりなしに聞こえていたような気がする。

 アイシェはいつものように安物の合成麻薬でラリって、泥のように眠っていたから、何が起きていたのかは知らない。わざわざ覗きにいかなかったし、あらゆるコンタクトをシャットダウンしていたので、どこからも情報がはいってきていない。

『今日のニュースを教えて』

 アイシェは頭のなかでそう念じた。とたんにアイシェの目の前の空中に、ニュース映像が投影された。 

『世界各地で魔法少女が出没』

 12に分割された画面のすべてに、その文字が踊っていた。
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