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第三章 第二節 魔法少女大戦

第396話 あんなにいっぱいの人を殺した

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 ヤマトが今日の戦いを思いかえしているとふいにドアをノックする音がした。モニタ画面を見ると、ドアの外にアイが立っているのがわかった。AIに命じてドアをあけさせようと思ったが、思い直してベッドから跳ね起きると、わざわざ歩いていき自分の手でドアをあけた。
「どうしたのさ。アイ」
 ヤマトがそう言うと、アイが突然しがみついてきた。
「眠れないの……」
 ヤマトはアイの豊かな胸が自分のからだに押しつけられている感触を意識した。あわてて「ど、どうしたんだい」と声をかけた。アイはヤマトのからだに顔をうずめたままぼそりと言った。
「あんなに……、あんなに、いっぱいの人を殺したのよ」
「いっぱいって……。正確には4856人。でもしかたないだろ。父さんの……、ヤマト隊長の命令だったんだから」
「それでも5000人は多すぎる……」
「アイはいままで亜獣と戦ったときに、何人もの人を犠牲にしてきたけど、そんなの気にしたことなかったじゃないか」
 アイがヤマトのからだに頭をこすりつけるように、頭を横にふった。
「う、ううん。気にしてた。それじゃあ、パイロット失格ってわかってたけど、気にならないなんてことない」
「じゃあ、今回の犠牲者だって……」
 アイがふいに顔をあげた。ヤマトのすぐ目の前に必死で訴えるアイの顔があった。
「あたしの『デッドマン・カウンター』にきざまれてた犠牲者の数は582人だったの。それは4回の出撃の合計の数字。今回は一回で5000人なのよ」
「まぁ、一桁数は多いけど、おかげであの吸盤のおばけみたいな亜獣は駆逐くちくされたろ」
「たった一体のために犠牲が多すぎる」
「でもその犠牲のおかげで、街中にあの獣人がうろつきまわらずに済んだんだんだ。もし一人、いや一匹でも上陸を許していたら、犠牲者の数は千の桁じゃあ済まなかったと思うよ」
「それはわかってる。頭ではわかってるの」
 そう言ってアイは自分の手のひらを見つめた。
「でも、あたしたち、故意に殺したのよ。亜獣との戦いのさなかに巻き込まれのとは意味合いがちがいすぎる……」
 ヤマトはアイの顔をじっと見た。涙こそ見せることはなかったが、泣きたい気分なのはわかった。だがそんな感情を覚えることも、感情をあらわにすることはない。

 ふたりともそういう訓練を受けている——。後悔の念や自分への失望は感じられても、犠牲者への哀悼や慚愧、罪の意識はまったく感じない。
 だがヤマトは、それでも心の中になにかが蓄積していく、というのを知っていた。
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