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第三章 第二節 魔法少女大戦
第324話 人間と魔法少女の死体、区別つきませんよ
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「正直、人間の死体と魔法少女の死体、区別つきやせんや」
武漢に派遣されてきた国際連邦軍の中華合衆国支部の隊長が言った。おもしろい冗談のつもりなのだろう。
エドは『素体』に憑依した状態で、連邦軍隊長のうしろについて、イオージャとの戦いのあとを検証していた。どこの所属のどの部隊がその任務に割り当てられたか知らなかったが、気安く話しかけるその隊長の口調は、エドはあまり好きではなかった。宗教的な戒律によるものだろうが、たくわえられた顎髭が、とても暑苦しく感じられる。『天気予告』で今日は、真夏日になることは告げられていただろうにと思う。
あらためて戦場になった街中を『素体』で歩くと、どうしても足がすくむ瞬間がある。
それは視覚ではなく嗅覚がもっとも最初に感知する。
すぐ隣をおなじように『素体』に憑依して歩いていた春日リンがそれを察して声をかけてきた。
「エド。この先、かなりの惨状がひろがってそうよ」
「春日博士。わたしもそれは感じています。とんでもない死臭がね。なにせ『素体』に憑依したときの『嗅覚』の感度はかなり増幅されていますからね」
「遠隔から臭いの情報を体感させようとするから、どうしてもね……」
「それにしても、これは強烈な血の……」
そこまで言ったところで、その現場が目に飛込んできた。もう感想を口にする必要もなかった。そこはイオージャが魔法少女の群れを守るように、『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』から登場した場所だった。
宇宙から『SOL740』が地上にあるすべてのものを原子レベルで消滅させた場所で、破壊された街並みは瓦礫らしい瓦礫もなく、直径50メートルほどの広場があるだけになっていた。だが、その周りの街並みは悲惨を極めていた。『SOL740』が直撃しなかったから消失は免れていたが、そのとき発生した爆風であらゆるものが放射状に破壊されつくされていた。
そしてその瓦礫のなかに夥しい数の死体が転がっていた。いや、爆風に巻かれて壁や地面に叩きつけられて、潰れていたり、貼り付いていたりしていた。それはもう人間の死体というより、人間だったものの欠片でしかなく、血塗れの肉片があたりにぶちまけられているという状態だった。
エドはおもわず嘔吐きそうになって、あわてて口元をおさえた。
「ひどい臭い……」
リンは臭いに辟易することもなく、たんたんと感想だけを口にした。
「春日先生は大丈夫なんですか?」
「まぁ、慣れでしょうね。デミリアンの体臭や体液の臭いも強烈ですからね」
「確かに、あれも目が痛くなるほどですが……」
正面で立ち働いている隊員たちは、ぐちゃぐちゃになった死体の欠片を丁寧に採取しているところだった。隊員たちはみな口元をマスクで覆っており、臭いに顔をしかめる様子もなく、手際よく作業をすすめていた。
武漢に派遣されてきた国際連邦軍の中華合衆国支部の隊長が言った。おもしろい冗談のつもりなのだろう。
エドは『素体』に憑依した状態で、連邦軍隊長のうしろについて、イオージャとの戦いのあとを検証していた。どこの所属のどの部隊がその任務に割り当てられたか知らなかったが、気安く話しかけるその隊長の口調は、エドはあまり好きではなかった。宗教的な戒律によるものだろうが、たくわえられた顎髭が、とても暑苦しく感じられる。『天気予告』で今日は、真夏日になることは告げられていただろうにと思う。
あらためて戦場になった街中を『素体』で歩くと、どうしても足がすくむ瞬間がある。
それは視覚ではなく嗅覚がもっとも最初に感知する。
すぐ隣をおなじように『素体』に憑依して歩いていた春日リンがそれを察して声をかけてきた。
「エド。この先、かなりの惨状がひろがってそうよ」
「春日博士。わたしもそれは感じています。とんでもない死臭がね。なにせ『素体』に憑依したときの『嗅覚』の感度はかなり増幅されていますからね」
「遠隔から臭いの情報を体感させようとするから、どうしてもね……」
「それにしても、これは強烈な血の……」
そこまで言ったところで、その現場が目に飛込んできた。もう感想を口にする必要もなかった。そこはイオージャが魔法少女の群れを守るように、『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』から登場した場所だった。
宇宙から『SOL740』が地上にあるすべてのものを原子レベルで消滅させた場所で、破壊された街並みは瓦礫らしい瓦礫もなく、直径50メートルほどの広場があるだけになっていた。だが、その周りの街並みは悲惨を極めていた。『SOL740』が直撃しなかったから消失は免れていたが、そのとき発生した爆風であらゆるものが放射状に破壊されつくされていた。
そしてその瓦礫のなかに夥しい数の死体が転がっていた。いや、爆風に巻かれて壁や地面に叩きつけられて、潰れていたり、貼り付いていたりしていた。それはもう人間の死体というより、人間だったものの欠片でしかなく、血塗れの肉片があたりにぶちまけられているという状態だった。
エドはおもわず嘔吐きそうになって、あわてて口元をおさえた。
「ひどい臭い……」
リンは臭いに辟易することもなく、たんたんと感想だけを口にした。
「春日先生は大丈夫なんですか?」
「まぁ、慣れでしょうね。デミリアンの体臭や体液の臭いも強烈ですからね」
「確かに、あれも目が痛くなるほどですが……」
正面で立ち働いている隊員たちは、ぐちゃぐちゃになった死体の欠片を丁寧に採取しているところだった。隊員たちはみな口元をマスクで覆っており、臭いに顔をしかめる様子もなく、手際よく作業をすすめていた。
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