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第三章 第一節 魔法少女
第315話 ここはヤマトの領域だ
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「これは?」
想像外の状態に面食らって、おもわずリンが呟いた。
「歴代パイロットの私物だよ」
「こんなガラクタが?。あ、いえ、こんなレトロなものが……?」
つい卑下するような言い方になったのを、リンはあわてて訂正した。
「気にしなくてもいいよ。ぼくもいつもそう思っていた。なんでこんなガラクタをって……」
ヤマトは部屋いっぱいに置かれた様々なものを見回しながら言った。
「でも、今ならよくわかる。あんな理不尽な化物と命をかけて戦う不安に打ち勝つのは、結局はどうしようもなくつまらないアナログチックなものなんだって。見慣れたなんの変哲もないものだったり、心やすまる手触りのものだったりね」
「でもなぜ持ち主がいなくなったのに、ここに保管されてるのかしら」
草薙がヤマトに訊いた。
「それはぼくもわからない……」
「でもたぶん、おなじ不安に呵まれるであろう後進のパイロットに、すこしでもヒントになれば、という思いからなんだと思う」
リンは手近にあったロボット・アニメの模型らしきものを手に取ってみた。一部の塗装は剥げ、古くさく変色はしていたが、埃はなく汚れてもいなかった。
「どれも古いものだけど、メンテナンス・ロボットが自動管理してるから、コンディションはいいはずだよ」
ヤマトをそう言いながら、『シンク・バンク』と書かれたドアのほうへ向かっていった。リンはあたりに散らばった品々をもうすこし眺めていたかったが、すぐにヤマトのうしろに続いた。
が、ヤマトはドアの前で足をとめ、『シンク・バンク』のプレートをじっと睨みつけたまま動こうとしなかった。
この後におよんで躊躇している——?。
だがここはヤマトの領域だ——。
自分たちがなにかを先走ることも、なにかを促すことはしてはならない——。
リンは横にいる草薙のほうへ目をやった。
草薙はヤマトの背後にぴたりとついたまま、うしろ手を組み、ただじっとして待っている。リンは胸の前で拱手すると草薙を倣って、ヤマトを待つことにした。
ヤマトが深く息を吸いこんだ。
ドアのセンサーに手のひらをかざすと、スッとドアが横にひらいた。
ヤマトがおおきく息を吐き出した。が、その呼気が白濁する。ふいにドアの向こうから凍てつくような空気が入り込んできた。
ドアのむこうに思いがけない広さの空間が広がっていた。天井は10メートル以上はあるだろうか。だが部屋の広さはゆうにサッカー・コートほどはあった。地下38階の深さにあるのが不自然なほどの広大さだ。壁は無機質なタイルで囲まれ、白一色という印象をうける。
だがこの広いエリアには、いたるところに点々とモニュメントらしきものが建っていた、まるで碁盤目のように、数メートル間隔で縦横にきっちりと並んでいたが、その高さはひとつひとつ異なっていて、見通すとデコボコしているのがわかる。
そこには規則性のようなものがなく、2メートルくらいの高いものから、1メートル50センチ程度の低いものまでが混在して建っていた。
そして、その各モニュメントの台の頂上部分にはガラスの水槽のようなものが乗っかっていて、そのなかにポツンと一点だけなにかが浮いていた。
それは人間の脳——だった。
柱の上に飾られた人間の脳が、サッカーコートほどのエリアにずらりと並んでいた。
想像外の状態に面食らって、おもわずリンが呟いた。
「歴代パイロットの私物だよ」
「こんなガラクタが?。あ、いえ、こんなレトロなものが……?」
つい卑下するような言い方になったのを、リンはあわてて訂正した。
「気にしなくてもいいよ。ぼくもいつもそう思っていた。なんでこんなガラクタをって……」
ヤマトは部屋いっぱいに置かれた様々なものを見回しながら言った。
「でも、今ならよくわかる。あんな理不尽な化物と命をかけて戦う不安に打ち勝つのは、結局はどうしようもなくつまらないアナログチックなものなんだって。見慣れたなんの変哲もないものだったり、心やすまる手触りのものだったりね」
「でもなぜ持ち主がいなくなったのに、ここに保管されてるのかしら」
草薙がヤマトに訊いた。
「それはぼくもわからない……」
「でもたぶん、おなじ不安に呵まれるであろう後進のパイロットに、すこしでもヒントになれば、という思いからなんだと思う」
リンは手近にあったロボット・アニメの模型らしきものを手に取ってみた。一部の塗装は剥げ、古くさく変色はしていたが、埃はなく汚れてもいなかった。
「どれも古いものだけど、メンテナンス・ロボットが自動管理してるから、コンディションはいいはずだよ」
ヤマトをそう言いながら、『シンク・バンク』と書かれたドアのほうへ向かっていった。リンはあたりに散らばった品々をもうすこし眺めていたかったが、すぐにヤマトのうしろに続いた。
が、ヤマトはドアの前で足をとめ、『シンク・バンク』のプレートをじっと睨みつけたまま動こうとしなかった。
この後におよんで躊躇している——?。
だがここはヤマトの領域だ——。
自分たちがなにかを先走ることも、なにかを促すことはしてはならない——。
リンは横にいる草薙のほうへ目をやった。
草薙はヤマトの背後にぴたりとついたまま、うしろ手を組み、ただじっとして待っている。リンは胸の前で拱手すると草薙を倣って、ヤマトを待つことにした。
ヤマトが深く息を吸いこんだ。
ドアのセンサーに手のひらをかざすと、スッとドアが横にひらいた。
ヤマトがおおきく息を吐き出した。が、その呼気が白濁する。ふいにドアの向こうから凍てつくような空気が入り込んできた。
ドアのむこうに思いがけない広さの空間が広がっていた。天井は10メートル以上はあるだろうか。だが部屋の広さはゆうにサッカー・コートほどはあった。地下38階の深さにあるのが不自然なほどの広大さだ。壁は無機質なタイルで囲まれ、白一色という印象をうける。
だがこの広いエリアには、いたるところに点々とモニュメントらしきものが建っていた、まるで碁盤目のように、数メートル間隔で縦横にきっちりと並んでいたが、その高さはひとつひとつ異なっていて、見通すとデコボコしているのがわかる。
そこには規則性のようなものがなく、2メートルくらいの高いものから、1メートル50センチ程度の低いものまでが混在して建っていた。
そして、その各モニュメントの台の頂上部分にはガラスの水槽のようなものが乗っかっていて、そのなかにポツンと一点だけなにかが浮いていた。
それは人間の脳——だった。
柱の上に飾られた人間の脳が、サッカーコートほどのエリアにずらりと並んでいた。
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