315 / 1,035
第三章 第一節 魔法少女
第314話 降りかかってきた問題のほうが強大すぎる
しおりを挟む
ほんとッ、覚悟が足りない——。
春日リンはヤマトとふたりで、パイロット専用エレベータで下降しながら、何度も何度も心のなかで反芻した。エレベータの回数を示す数字は地下20階を超えている。長年この国際連邦軍日本支部に勤務しながら、リンすらはじめて足を踏み入れるエリアだった。いやそれどころか存在すらあやしいとされていた、不可侵エリアなのだ。
たしかにリンは興奮を隠しきれなかった。だが、同時に膝がふるえるのも止めきれない。そのみっともなさに『覚悟が足りない』と再び自分を痛烈に叱咤した。
いや、誰だってそうなるはずだ。あのヤマト・タケルですら覚悟を決めきれずにいたのだから。自分が非力なのではない。降りかかってきた問題のほうが強大すぎるのだ。身の丈170cm程度サイズの個体が、受け止められる範囲を超えている——。
だから、春日リンは草薙素子大佐を呼ぶことを条件にした。
腹立たしいが、このような事態でこれほど心強い者はいない。あの時のトップ・シークレットを共有し、ヤマトに対する責任を負っている点でも適任だ。もしかしたら、今回の件、草薙大佐にも責任の一部があるかもしれない……。
地下38階——。
おそらく国際連邦軍、日本支部の最下層エリアにエレベータが到着した。ドアをでるとすでに『シンク・バンク』と呼ばれる部屋の前に草薙が待っていた。すくなくとも彼女はこの場所の存在を知っていて、ここまで来る権限が与えられているらしい。おそらくヤマトを護衛して、ここまで来たことがあるのだろう。リンは草薙に思考通話『テレパス・ライン』で語りかけた。
『草薙大佐、ありがとう。助かります』
わかってはいたが、本人を目の前にすると、やはり頼もしく感じられほっとする。
『いえ、仕事ですから……』
『そうね。で、ここに呼ばれた意味はわかるわよね?。覚悟はできてる?』
『ご安心を。さきほどの連絡で、概要を聞いてますので』
草薙の顔色はまったく変わる様子がなかった。万事つつがなく運ぶから大丈夫だ、という冷静さがみてとれた。それだけでどれほど肩の荷が軽くなることか。
「じゃあ、行きましょう」
三人は『シンク・バンク』と書かれたおおきな壁の方へ向かい、その手前にあるゲートの床に四角く区切られた認証エリアの中に立った。
「デミリアン・パイロット、ヤマト・タケル」
ヤマトがそう叫ぶと、認証エリア全体に光が照射され、ヤマトのからだが瞬時にスキャンされる。数秒後に『ふぁん』というふぬけた音とともに認証が済んだことを知らせてきた。
「春日リン博士と草薙大佐を同室させることの許可を求める」
ヤマトが続けざまに言うと、今度はリンと草薙のからだに光が照射され、すぐに『ふぁん』という音がした。無事に認証手続きが終わったらしい。おそらくふたりの生体チップをAI管理局の登録と紐付けしたのだろう。
ふいに正面の壁の一部に穴があいた。扉だった。みあげるほど大きな壁のわりには、ひとひとり通れる程度のこじんまりとしたサイズで、壁面とシームレスになる構造なので、開くまではそこに入り口があるとはまったくわからない。
春日リンはその入り口から室内に足を踏み入れた。
おどろいたことに、そこはちいさな小部屋に続いてた。
『保管室』とプレートが下がっているその部屋は、天井も低く、こぢんまりという表現したくなるほど、外側のいかめしい壁からは想像できないものだった。
そこには、古くさいボードゲーム、薄汚れた動物のマスコットのぬいぐるみ、アンティークな家具(しかもほとんどがどこかに破損があった)——、そして年代ものとおもわしき食器類があった。
どれもとても25世紀末とは思えない、かなり前時代のものばかりだった。
春日リンはヤマトとふたりで、パイロット専用エレベータで下降しながら、何度も何度も心のなかで反芻した。エレベータの回数を示す数字は地下20階を超えている。長年この国際連邦軍日本支部に勤務しながら、リンすらはじめて足を踏み入れるエリアだった。いやそれどころか存在すらあやしいとされていた、不可侵エリアなのだ。
たしかにリンは興奮を隠しきれなかった。だが、同時に膝がふるえるのも止めきれない。そのみっともなさに『覚悟が足りない』と再び自分を痛烈に叱咤した。
いや、誰だってそうなるはずだ。あのヤマト・タケルですら覚悟を決めきれずにいたのだから。自分が非力なのではない。降りかかってきた問題のほうが強大すぎるのだ。身の丈170cm程度サイズの個体が、受け止められる範囲を超えている——。
だから、春日リンは草薙素子大佐を呼ぶことを条件にした。
腹立たしいが、このような事態でこれほど心強い者はいない。あの時のトップ・シークレットを共有し、ヤマトに対する責任を負っている点でも適任だ。もしかしたら、今回の件、草薙大佐にも責任の一部があるかもしれない……。
地下38階——。
おそらく国際連邦軍、日本支部の最下層エリアにエレベータが到着した。ドアをでるとすでに『シンク・バンク』と呼ばれる部屋の前に草薙が待っていた。すくなくとも彼女はこの場所の存在を知っていて、ここまで来る権限が与えられているらしい。おそらくヤマトを護衛して、ここまで来たことがあるのだろう。リンは草薙に思考通話『テレパス・ライン』で語りかけた。
『草薙大佐、ありがとう。助かります』
わかってはいたが、本人を目の前にすると、やはり頼もしく感じられほっとする。
『いえ、仕事ですから……』
『そうね。で、ここに呼ばれた意味はわかるわよね?。覚悟はできてる?』
『ご安心を。さきほどの連絡で、概要を聞いてますので』
草薙の顔色はまったく変わる様子がなかった。万事つつがなく運ぶから大丈夫だ、という冷静さがみてとれた。それだけでどれほど肩の荷が軽くなることか。
「じゃあ、行きましょう」
三人は『シンク・バンク』と書かれたおおきな壁の方へ向かい、その手前にあるゲートの床に四角く区切られた認証エリアの中に立った。
「デミリアン・パイロット、ヤマト・タケル」
ヤマトがそう叫ぶと、認証エリア全体に光が照射され、ヤマトのからだが瞬時にスキャンされる。数秒後に『ふぁん』というふぬけた音とともに認証が済んだことを知らせてきた。
「春日リン博士と草薙大佐を同室させることの許可を求める」
ヤマトが続けざまに言うと、今度はリンと草薙のからだに光が照射され、すぐに『ふぁん』という音がした。無事に認証手続きが終わったらしい。おそらくふたりの生体チップをAI管理局の登録と紐付けしたのだろう。
ふいに正面の壁の一部に穴があいた。扉だった。みあげるほど大きな壁のわりには、ひとひとり通れる程度のこじんまりとしたサイズで、壁面とシームレスになる構造なので、開くまではそこに入り口があるとはまったくわからない。
春日リンはその入り口から室内に足を踏み入れた。
おどろいたことに、そこはちいさな小部屋に続いてた。
『保管室』とプレートが下がっているその部屋は、天井も低く、こぢんまりという表現したくなるほど、外側のいかめしい壁からは想像できないものだった。
そこには、古くさいボードゲーム、薄汚れた動物のマスコットのぬいぐるみ、アンティークな家具(しかもほとんどがどこかに破損があった)——、そして年代ものとおもわしき食器類があった。
どれもとても25世紀末とは思えない、かなり前時代のものばかりだった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
ヒトの世界にて
ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」
西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。
その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。
そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており……
SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。
ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。
どうぞお楽しみ下さい。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
怪獣特殊処理班ミナモト
kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる