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第三章 第一節 魔法少女
第312話 それは人類滅亡の足音を聞いた瞬間だった
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イオージャは、ユウキにレイが助け出されたあとも、武漢市約1時間近く暴れ回ってから、魔法少女とともに『移行領域( トランジショナル・ゾーン)』のむこうに消えた。
春日リンは今回の作戦がとりあえず終了した瞬間、ふぅーっとおおきく長嘆息した。
速報値ではあったが今回の武漢の死者数は4000人、損害があったビルや建物は300棟ほどであったと報告があった。あれだけ強力な兵器を使ったことを考慮すると、まずまずの損害と言っていいのかもしれない。
だが、リンには死者数や建物の損害状況よりも、電撃をくらったセラ・ジュピターとセラ・サターンの状態が気になっていた。電気ショックによる痺れは一時的なものと推測されたが、万が一にもデミリアンの脊髄——(人類とは構造が異なるので便宜的に脊髄と呼んでいるものだが)に損傷が生じてしまっていては、その再生・復活は絶望的な時間を要する危惧すらある。
だが、リンには今回だけは、それよりも気掛かりなことがあった。
ヤマト・タケル——。
本来なら先陣を切って——、たとえそれがどんなに危険な敵であろうと、マンゲツを駆ってでるはずだった。それがヤマト・タケルという『生き物』の存在意義なのだから。
だが、今回、いろんな理由を、提案という形にかこつけて、クララとレイ、そしてユウキに戦場を託した。だが三人のうち二人は亜獣戦の初陣なのだ。結果次第では龍リョウマをうしなった、ブライト前司令官とおなじ判断だ、とそしりをうけたに違いない。
このタイミングで出撃を回避した理由——。それはわかっている。
リンは先日のできごとを思い出していた。
もしかしたら、リンの長い人生のなかでも、もっとも恐怖と絶望を感じた瞬間——。
いや……、人類滅亡の足音を聞いた瞬間、だったかもしれない……。
------------------------------------------------------------
「えぇ」
そのときヤマト・タケルはそうひと言だけ言って、それ以上なにも言おうとしなかった。
「いやに潔いのね」
春日リンはわざと驚きの色を付加して言った。
リンとヤマトは『スペクトル遮膜』のなかで、ふたりきりでひざ詰めで話をしていた。アスカとクララに相談を持ちかけられた次の日に、リンは行動を起こした。人類にとって膝が震えるほどの非常事態を、自分がひとり背負うことになることを想像して、決心が固まるまでにまるまる24時間を要した。
自分の腹の括り方の甘さに反吐がでる思いもまじえて、今、この場所に臨んでいる。
「あの時を思い出した……でいいのよね」
「えぇ。でも……、思い出すとは思わなかった。いや、それ以上に自分のからだに変調が起きるなんて……」
「わたしもアスカとクララからそれを聞いて驚いたわ。ふたりに真相を話せと詰め寄られてね……」
「で、どうしたんです、リンさんは?」
リンはパフォーマンスじみた仕草で、自分のこめかみを指で叩いてみせた。
「安心しなさい。あなたに過去の記憶の一部にロックをかけられているのよ。しゃべれるはずがないでしょう」
「無理すれば筆談で、なんとか伝えられたでしょう」
春日リンは今回の作戦がとりあえず終了した瞬間、ふぅーっとおおきく長嘆息した。
速報値ではあったが今回の武漢の死者数は4000人、損害があったビルや建物は300棟ほどであったと報告があった。あれだけ強力な兵器を使ったことを考慮すると、まずまずの損害と言っていいのかもしれない。
だが、リンには死者数や建物の損害状況よりも、電撃をくらったセラ・ジュピターとセラ・サターンの状態が気になっていた。電気ショックによる痺れは一時的なものと推測されたが、万が一にもデミリアンの脊髄——(人類とは構造が異なるので便宜的に脊髄と呼んでいるものだが)に損傷が生じてしまっていては、その再生・復活は絶望的な時間を要する危惧すらある。
だが、リンには今回だけは、それよりも気掛かりなことがあった。
ヤマト・タケル——。
本来なら先陣を切って——、たとえそれがどんなに危険な敵であろうと、マンゲツを駆ってでるはずだった。それがヤマト・タケルという『生き物』の存在意義なのだから。
だが、今回、いろんな理由を、提案という形にかこつけて、クララとレイ、そしてユウキに戦場を託した。だが三人のうち二人は亜獣戦の初陣なのだ。結果次第では龍リョウマをうしなった、ブライト前司令官とおなじ判断だ、とそしりをうけたに違いない。
このタイミングで出撃を回避した理由——。それはわかっている。
リンは先日のできごとを思い出していた。
もしかしたら、リンの長い人生のなかでも、もっとも恐怖と絶望を感じた瞬間——。
いや……、人類滅亡の足音を聞いた瞬間、だったかもしれない……。
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「えぇ」
そのときヤマト・タケルはそうひと言だけ言って、それ以上なにも言おうとしなかった。
「いやに潔いのね」
春日リンはわざと驚きの色を付加して言った。
リンとヤマトは『スペクトル遮膜』のなかで、ふたりきりでひざ詰めで話をしていた。アスカとクララに相談を持ちかけられた次の日に、リンは行動を起こした。人類にとって膝が震えるほどの非常事態を、自分がひとり背負うことになることを想像して、決心が固まるまでにまるまる24時間を要した。
自分の腹の括り方の甘さに反吐がでる思いもまじえて、今、この場所に臨んでいる。
「あの時を思い出した……でいいのよね」
「えぇ。でも……、思い出すとは思わなかった。いや、それ以上に自分のからだに変調が起きるなんて……」
「わたしもアスカとクララからそれを聞いて驚いたわ。ふたりに真相を話せと詰め寄られてね……」
「で、どうしたんです、リンさんは?」
リンはパフォーマンスじみた仕草で、自分のこめかみを指で叩いてみせた。
「安心しなさい。あなたに過去の記憶の一部にロックをかけられているのよ。しゃべれるはずがないでしょう」
「無理すれば筆談で、なんとか伝えられたでしょう」
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