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第三章 第一節 魔法少女
第297話 クララは何もできずにいた
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「あぶない!」
クララは目の前で魔法少女に狙いをさだめられた、レイのセラ・サターンを見てとっさに叫んでいた。あの至近距離では、さすがのレイでもどうしようもない!。
だが、よけきれなかったのはクララ・ゼーゼマンの搭乗するセラ・ジュピターのほうだった。
レイのセラ・サターン薙刀を振り抜いた回転を利用して、そのまま地面に転がった。転がったという鮮やかなものではなく、ひっくりこけたというべき、とても無様な避け方だった。だが、それでも魔法少女たちが放った電撃の軸線上から、かろうじて免れていた。
レイがなりふり構わずに、自機のセラ・サターンのからだを無理やりに沈み込ませていくのを、クララは冷静な目で見ていた。まるでスローモーションでも見ているかのように、クララはその動きの隅々まで目を這わせることができた。かけねなしに端々まで神経が行き届いていた。なんならセラ・サターンがなぎ倒した人工街路樹の数まで言えるほどだ。
だが、それをすこし斜め前の眼下におさめながら、クララは何もできずにいた——。
その電撃が放たれた時、クララはイオージャに一撃を浴びせようとセラ・ジュピターの体躯を駆って、空中へジャンプしたところだった。
レイの号令でうまく立ち回っていたはずだった。実際にそのスピードとタイミングはすべてが過不足なく完璧で、クララは自我自賛の快哉を叫びだしそうなほどだった。
あと0コンマ何秒……、切っ先が四分の一、円弧を描いただけでイオージャ首を切り落としていた——。いや、どんなにしくじっても、喉の表面だけでも切り裂くくらいはできていたはずだった。
だが、クララにはスプーン一杯分ほどの『運』が足りてなかった——。
空中に体を躍らせたセラ・ジュピターは、全身全霊でイオージャの首を刎ねるつもりでいた。中途半端な攻撃など毛頭考えていない。受け身や防御にさく労力をかなぐり捨てて、斬りかかったのだ。
クララには魔法少女たちがステッキをこちらにむけて、なにか呪文を叫んでいたのは目に入っていたが、なにを言っているのか、まったく耳にはいらなかった。その代わりに聞こえてきたのは、自分の悲鳴だった。
脳天を貫く——。いや脳幹をねじ切られるような、強力な電撃に背中がそっくりかえる。
そのままへし折れるのではないかと思うほどに背骨が軋んだ。反動でからだが一気に脱力して、前に荒々しく沈み込む。
AI制卸のシートベルトが重心や傾きを検知して、クララが前方に放りだされそうになった体をひきとめる。
クララの意識が遠のく——。
クララは目の前で魔法少女に狙いをさだめられた、レイのセラ・サターンを見てとっさに叫んでいた。あの至近距離では、さすがのレイでもどうしようもない!。
だが、よけきれなかったのはクララ・ゼーゼマンの搭乗するセラ・ジュピターのほうだった。
レイのセラ・サターン薙刀を振り抜いた回転を利用して、そのまま地面に転がった。転がったという鮮やかなものではなく、ひっくりこけたというべき、とても無様な避け方だった。だが、それでも魔法少女たちが放った電撃の軸線上から、かろうじて免れていた。
レイがなりふり構わずに、自機のセラ・サターンのからだを無理やりに沈み込ませていくのを、クララは冷静な目で見ていた。まるでスローモーションでも見ているかのように、クララはその動きの隅々まで目を這わせることができた。かけねなしに端々まで神経が行き届いていた。なんならセラ・サターンがなぎ倒した人工街路樹の数まで言えるほどだ。
だが、それをすこし斜め前の眼下におさめながら、クララは何もできずにいた——。
その電撃が放たれた時、クララはイオージャに一撃を浴びせようとセラ・ジュピターの体躯を駆って、空中へジャンプしたところだった。
レイの号令でうまく立ち回っていたはずだった。実際にそのスピードとタイミングはすべてが過不足なく完璧で、クララは自我自賛の快哉を叫びだしそうなほどだった。
あと0コンマ何秒……、切っ先が四分の一、円弧を描いただけでイオージャ首を切り落としていた——。いや、どんなにしくじっても、喉の表面だけでも切り裂くくらいはできていたはずだった。
だが、クララにはスプーン一杯分ほどの『運』が足りてなかった——。
空中に体を躍らせたセラ・ジュピターは、全身全霊でイオージャの首を刎ねるつもりでいた。中途半端な攻撃など毛頭考えていない。受け身や防御にさく労力をかなぐり捨てて、斬りかかったのだ。
クララには魔法少女たちがステッキをこちらにむけて、なにか呪文を叫んでいたのは目に入っていたが、なにを言っているのか、まったく耳にはいらなかった。その代わりに聞こえてきたのは、自分の悲鳴だった。
脳天を貫く——。いや脳幹をねじ切られるような、強力な電撃に背中がそっくりかえる。
そのままへし折れるのではないかと思うほどに背骨が軋んだ。反動でからだが一気に脱力して、前に荒々しく沈み込む。
AI制卸のシートベルトが重心や傾きを検知して、クララが前方に放りだされそうになった体をひきとめる。
クララの意識が遠のく——。
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