上 下
297 / 1,035
第三章 第一節 魔法少女

第296話 囮になるのはわたし

しおりを挟む
「レイさん。薙刀なぎなた引き抜けますか?」

 十回連続ほどムチをふるってからクララが訊いてきた。
 レイはぐっと柄をひっぱってみた。今度は簡単にひき戻すことができた。薙刀なぎなた柄部へいぶにはすでに数体しか魔法少女は取りついていなかった。その数体もしがみついているというより、飛び散った血糊ちのり柄部へいぶに貼り付いている状態だった。そのなかにすでに原型をとどめている者はいない。
 レイはそのの柄部へいぶをもう一方の手の指でしごいた。こびりついた魔法少女の頭や腕などの部位が飛び散り、組織片などの残りかすがはらはらと地面に舞い落ちていった。
「クララ、あなたの剣で、イオージャ本体を狙える?」
「もちろん。おとりになって、イオージャをおびき寄せればよろしいですか?」
「いえ、囮になるのはわたし。クララ、あなたがやって!」
「わたしが?」
「初陣であなたを囮なんかにさせられない。タケルやリンに叱られる」
「では、どうすれば……」
「クララ、わたしがイオージャの胴を狙うふりをして、残りの魔法少女をそこへ集める。あなたは背後からとびだして、あいつの無防備の首をかっさばいて」
「了解です。なんとなくイメージは掴めましたわ」
「じゃあ、うしろに続いて!」
 そう言うなり、レイは薙刀なぎなたを横に寝かして、イオージャに突っかかっていった。胴体部分を狙う気満々の仕草をする。
 イオージャのからだの周りにまとわりついていた魔法少女たちが、わらわらと正面に展開しはじめ、手をひろげてイオージャの正面に空中で立ちはだかった。
 胴体周りを二重に取り囲んで帯状に広がっている。
 まさに狙い通りだった。
 レイは薙刀なぎなたを思い切り横に振り抜こうとした。
 その瞬間本部の誰かが叫んだ——。

「レイ。上!」
 ナギナタを遠心力にまかせてぶん回した体勢のまま、上のカメラに目を這わせる。 
 中空にあらたな空間の裂け目があった。
 そこからあっという間に、数百人もの新たな魔法少女たちが飛び出してきた。

 なに——?。

 振り抜いた薙刀なぎなたの刃が、イオージャの胴体部分を覆っていた魔法少女たちを撫で斬る。十人以上の少女のからだが切断され、おびただしい血飛沫ちしぶきとともに吹き飛ぶ。
 が、その瞬間、イオージャの背後の空間に閃光がまたたいた。

 しまった——、と思った時には間に合わなかった。セラ・サターンのからだは前のめりに突っ込んでいて、その動きをとめることができなかった。
 
 あたらしく現れた魔法少女全員がステッキを前に突き出していた。
「まじかるぅぅぅぅぅ……」


 セラ・サターンは魔法少女がかざすステッキからはなたれた電撃の真正面にいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ゴミ惑星のクズ

1111
SF
捨てられた人類が住むゴミ惑星「クローム」で、男たちは生存のため、そして名声のために「アーマーリング」と呼ばれる競技に命を懸けていた。 主人公 クズ はかつてその競技で頂点を目指したが、大敗を喫して地位を失い、今はゴミ漁りで細々と生計を立てる日々を送っていた。 ある日、廃棄されたゴミ山を漁っていたクズは、一人の少女を発見する。彼女は イヴ と名乗り、ネオヒューマンとして設計された存在だった。機械と完全に同化し、自らの身体を強化する能力を持つ彼女は、廃棄された理由も知らぬままこの惑星に捨てられたのだという。 自分の目的を果たすため、イヴはクズに協力を求める。かつての栄光を失ったクズは、彼女の頼みに最初は興味を示さなかった。しかし、イヴが持つ驚異的な能力と、彼女の決意に触れるうちに、彼は再びアーマーリングの舞台に立つことを決意する。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

処理中です...