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第三章 第一節 魔法少女
第271話 昨夜おまえたちはどこにいた?
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ラウンジに入ってきたウルスラ総司令とミサト司令は、予想したより不機嫌そうな顔をしていなかった。それどころか、ミサトにいたっては、はじめて足を踏み入れたパイロット・エリアの部屋をあちこち興味深そうに見回していた。
それは昨日、ユウキが見せたものとおなじような反応だった。
つい数週間前にここで何人もの兵士が犠牲になったのだ。しかも生々しい爪痕が、そこここに色濃く残っている。事情を知っていれば、興味がかき立てられないほうがおかしい。だが、ウルスラは破壊された部屋を一瞥しただけだった。なんの興味もひかないという態度で、ラウンジのソファにドサリと座った。
「昨夜おまえたちはどこにいた?」
ウルスラがいきなり切り込んできた。
全員が顔色ひとつ変えずに、その質問を受け流した。
事前にうちあわせた手はず通りの反応——。
「なぜそんなことを訊くんです?」
ヤマトはまったく意味がわからないという風を装って尋ねた。
「昨晩、『レガシー・サーバー』の最下層サイトに何者かが侵入した」
「で?」
ウルスラがヤマトを睨みつけた。この場の発言はヤマトが代表して、それ以外の者の発言は受けつけない、という暗黙の了解を察したらい。
「あれは、君たちだ。そうだろう?」
ヤマトは大袈裟に肩をすくめてみせた。
「もしそうだったとしたら、なにか問題でも……」
「軍専用サーバーへの不法侵入、軍の任務の防害行為、越権行為、もろもろの軍規違反をいくつも犯している」
「だから?」
「きさまら、軍法会議ものだぞ!」
ウルスラが高圧そのものの姿勢を露にして、低い声で威嚇してきた。決して声を荒げたわけでないが、重々しい口調に、狭いラウンジの空気が澱む。レイとアスカは自分同様に平然とした態度を崩さなかったが、ユウキとクララはいささか気圧されているようで、チラリと不安げな目をこちらにむけてきた。その態度にアスカがすこし苛立ったような視線をくれている。
「ヤマト・タケル。貴様、どこから、侵入した。この施設のどこかにアクセスする装置があるはずだ、どこにあるか教えてもらおう」
相変わらず、遠慮とか婉曲とかいうこともなしに、ずかずかと懐に踏み込んでいくウルスラの態度にヤマトはむかついた。こういうおとなの示威や恫喝は、ブライトで慣れっこだったが、だからといって寛容になれるものでもなかった。
「ウルスラ総司令。それ以上はやめたほうがいい」
静かだが威圧感のあるヤマトのことばを聞いて、部屋にいる全員がヤマトに刮目した。
「このパイロット・エリアに関しては、『国際連邦』にも『国際連邦軍』の管轄にもない。ここは世界中のどんな国や機関の、いかなる権限をもってしても捜査も監視もできない、最上級の『治外法権』エリアだ。知ってるよね。ウルスラ総司令」
ウルスラがぐっと挙を握りしめたのがわかった。ヤマトは追い討ちをかけた。
「デミリアンのパイロットは、地球上のあらゆる権利に優先する権利を有してる。だから、たとえこの場で、ぼくがあなたを殺したとしても罪に問われることはない……」
「ただし……、最後の亜獣を倒すまではね」
口ごもったウルスラのすぐ横で、ミサトがヤマトを睨みつけたまま、そう付け加えた。
「えぇ。その通りです。最後の亜獣を駆逐した時点で、ぼくらは用済みだ。すべての優遇措置や権利は消滅する。そんなこと、わかってますよ……。ミ・サ・ト・さん」
ヤマトは脇から喧嘩に口を挟んできた、ミサトを挑発してのけた。その行為に強烈な反応を見せるかと期待したが、ミサトはじっとヤマトの目を見つめたまま、静かに言った。
「仮想世界だけどもね、こっちは戦艦が二隻沈められたのよ。国連軍としての沽券にかかわるのよ。察してしちょうだい」
「戦艦が二隻も?。ずいぶんまぬけな指揮官が乗っていたものですね」
ヤマトはその弩級戦艦にウルスラとミサトが乗艦していたことを、充分知っていたうえで、わざと煽ってみた。たちまちミサトが口をすぼめて黙り込んだ。わかりやすいほど恥じ入っている様子が、すこし愛らしくも思えた。
「では、おまえたちは、昨夜、『軍専用サーバー』に、『マインド・イン』してない、と言い張るのだな」
ウルスラがおさまらない『腹の虫』を無理やり静めるように、センテンスをひとつひとつ区切るような言い方で確認してきた。ヤマトはウルスラの顔を見つめて言った。
「ウルスラ総司令、誰がそう言いました?」
「昨夜、あの場所、『グレーブヤード・サイト』にいたのは、間違いなくぼくらですよ」
それは昨日、ユウキが見せたものとおなじような反応だった。
つい数週間前にここで何人もの兵士が犠牲になったのだ。しかも生々しい爪痕が、そこここに色濃く残っている。事情を知っていれば、興味がかき立てられないほうがおかしい。だが、ウルスラは破壊された部屋を一瞥しただけだった。なんの興味もひかないという態度で、ラウンジのソファにドサリと座った。
「昨夜おまえたちはどこにいた?」
ウルスラがいきなり切り込んできた。
全員が顔色ひとつ変えずに、その質問を受け流した。
事前にうちあわせた手はず通りの反応——。
「なぜそんなことを訊くんです?」
ヤマトはまったく意味がわからないという風を装って尋ねた。
「昨晩、『レガシー・サーバー』の最下層サイトに何者かが侵入した」
「で?」
ウルスラがヤマトを睨みつけた。この場の発言はヤマトが代表して、それ以外の者の発言は受けつけない、という暗黙の了解を察したらい。
「あれは、君たちだ。そうだろう?」
ヤマトは大袈裟に肩をすくめてみせた。
「もしそうだったとしたら、なにか問題でも……」
「軍専用サーバーへの不法侵入、軍の任務の防害行為、越権行為、もろもろの軍規違反をいくつも犯している」
「だから?」
「きさまら、軍法会議ものだぞ!」
ウルスラが高圧そのものの姿勢を露にして、低い声で威嚇してきた。決して声を荒げたわけでないが、重々しい口調に、狭いラウンジの空気が澱む。レイとアスカは自分同様に平然とした態度を崩さなかったが、ユウキとクララはいささか気圧されているようで、チラリと不安げな目をこちらにむけてきた。その態度にアスカがすこし苛立ったような視線をくれている。
「ヤマト・タケル。貴様、どこから、侵入した。この施設のどこかにアクセスする装置があるはずだ、どこにあるか教えてもらおう」
相変わらず、遠慮とか婉曲とかいうこともなしに、ずかずかと懐に踏み込んでいくウルスラの態度にヤマトはむかついた。こういうおとなの示威や恫喝は、ブライトで慣れっこだったが、だからといって寛容になれるものでもなかった。
「ウルスラ総司令。それ以上はやめたほうがいい」
静かだが威圧感のあるヤマトのことばを聞いて、部屋にいる全員がヤマトに刮目した。
「このパイロット・エリアに関しては、『国際連邦』にも『国際連邦軍』の管轄にもない。ここは世界中のどんな国や機関の、いかなる権限をもってしても捜査も監視もできない、最上級の『治外法権』エリアだ。知ってるよね。ウルスラ総司令」
ウルスラがぐっと挙を握りしめたのがわかった。ヤマトは追い討ちをかけた。
「デミリアンのパイロットは、地球上のあらゆる権利に優先する権利を有してる。だから、たとえこの場で、ぼくがあなたを殺したとしても罪に問われることはない……」
「ただし……、最後の亜獣を倒すまではね」
口ごもったウルスラのすぐ横で、ミサトがヤマトを睨みつけたまま、そう付け加えた。
「えぇ。その通りです。最後の亜獣を駆逐した時点で、ぼくらは用済みだ。すべての優遇措置や権利は消滅する。そんなこと、わかってますよ……。ミ・サ・ト・さん」
ヤマトは脇から喧嘩に口を挟んできた、ミサトを挑発してのけた。その行為に強烈な反応を見せるかと期待したが、ミサトはじっとヤマトの目を見つめたまま、静かに言った。
「仮想世界だけどもね、こっちは戦艦が二隻沈められたのよ。国連軍としての沽券にかかわるのよ。察してしちょうだい」
「戦艦が二隻も?。ずいぶんまぬけな指揮官が乗っていたものですね」
ヤマトはその弩級戦艦にウルスラとミサトが乗艦していたことを、充分知っていたうえで、わざと煽ってみた。たちまちミサトが口をすぼめて黙り込んだ。わかりやすいほど恥じ入っている様子が、すこし愛らしくも思えた。
「では、おまえたちは、昨夜、『軍専用サーバー』に、『マインド・イン』してない、と言い張るのだな」
ウルスラがおさまらない『腹の虫』を無理やり静めるように、センテンスをひとつひとつ区切るような言い方で確認してきた。ヤマトはウルスラの顔を見つめて言った。
「ウルスラ総司令、誰がそう言いました?」
「昨夜、あの場所、『グレーブヤード・サイト』にいたのは、間違いなくぼくらですよ」
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