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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第262話 そしてなによりも危機を共有した——
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戦艦どうしが空中で衝突するのを、穴の淵の上に足をかけたままヤマトたちは見ていた。
ユウキの偵察艦はドラゴンの争乱を利用して、空中魚雷を喰らう可能性もある危険な距離を見事にかいくぐって、見事に突撃に成功した。
弩級艦のどてっ腹から煙が吹きだした。空の上で火柱があがる。
「よし、今だ。アスカ、今なら逃げられる」
「了解よ」
中空に浮遊にしているアスカが、両手をヤマトとクララの前に垂らした。
「さぁ、つかまんなさいよ」
ヤマトはアスカの左手、クララは右手に、自分の両手をからめた。
アスカがゆっくりと移動し、塔の穴の淵にかかっていた足がはなれると、クララがアスカの腕を更に強くつかんだ。あんな脆弱な足場だったが、なくなると不安定になるのだろう。
「本当は『浮遊魔法』で二人とも浮かせて移動する予定だったけど、こっちもマナを使いすぎて余裕がなくなったわ」
「ごめんなさい。アスカさんに力を使わせすぎましたわ」
「はん、そんなのかまわないわ。あんたがいつだって足手まといなの、知ってるから」
上空で再びドーンと轟音が響いた。戦艦から吹きあがる黒煙がほかの場所でも立ちのぼる。三人がそちらの方向に目をむけた。艦がゆっくりと傾いていき、高度をおとしはじめたのがわかった。
「あの船、こちらに落ちてきたりしませんよね」
クララは漠とした不安を口にした。
「クララ、あんたボカぁ。そんなこと心配するなら足元の方を心配してよね。今、海中のモンスターに引き摺りこまれたら、手のうちようがない。落ちてくる船より、そちらのほうが、今そこにある危機なの!」
そのことばでクララはあわてて、足元に目をむけた。
いや、ちがう。自分から目をそむけたのだ。
アスカはそう思った。
この状態では真上を見あげれば、否が応でも至近距離で自分と目があう。
それを避けたい気持ちはわかる。散々ヘマをやってこちらのマナで助けられているのだ。それにさっきは、女としてタケルの前で、恥ずかしい思いをさせない配慮をしてみせた。それがいたたまれないにちがいない——。
あたしが逆の立場でも屈辱と感謝がないまぜになって、たぶん顔をあわせられない——。
だが本当にそうだろうか……。
クララとタケルはあの閉鎖された空間で二人きりの濃密な時間を過ごしたのだ。不可効力もあったとはいえ、手を握りしめ、体を密着させ、多くを語りあった。
——そしてなによりも危機を共有した。
アスカは思い出した。
兄に擬態した化物からふたり一緒に逃げたこと、亜獣が徘徊する夜の街をゴーストで駆け回ったこと、そしてあちら側に連れていかれそうになった時、間一髪で助けてもらったこと——。
どんな女だってあれだけのことを二人っきりで経験すれば、タケルに惹かれないなんてことはない。
契約者——。
そう、クララはまだタケルと誓いあっていない。それだけがもしかしたら、自分のアドバンテージなのかもしれない。
そう思うと、今、クララのからだを支えているこの右手が急に重たく感じた。
ちょっと手をすべらせて、海に落としてやろうか——。
ふっと浮かんだいじわるな考えをあわてて振り払う。
「アスカさん、重たくないですか」
ふいに、クララが訊いてきた。顔をあげ心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。
なんて整った顔——。
アスカはにっこりと笑った。
「心配ないわ。あんたはあたしの腕にぶらさがってるつもりでいるんでしょうけど、こっちは持ちあげてる状態——」
「あんたの間抜けなガトリング銃と同じで、ほとんど質量を感じてないの」
ユウキの偵察艦はドラゴンの争乱を利用して、空中魚雷を喰らう可能性もある危険な距離を見事にかいくぐって、見事に突撃に成功した。
弩級艦のどてっ腹から煙が吹きだした。空の上で火柱があがる。
「よし、今だ。アスカ、今なら逃げられる」
「了解よ」
中空に浮遊にしているアスカが、両手をヤマトとクララの前に垂らした。
「さぁ、つかまんなさいよ」
ヤマトはアスカの左手、クララは右手に、自分の両手をからめた。
アスカがゆっくりと移動し、塔の穴の淵にかかっていた足がはなれると、クララがアスカの腕を更に強くつかんだ。あんな脆弱な足場だったが、なくなると不安定になるのだろう。
「本当は『浮遊魔法』で二人とも浮かせて移動する予定だったけど、こっちもマナを使いすぎて余裕がなくなったわ」
「ごめんなさい。アスカさんに力を使わせすぎましたわ」
「はん、そんなのかまわないわ。あんたがいつだって足手まといなの、知ってるから」
上空で再びドーンと轟音が響いた。戦艦から吹きあがる黒煙がほかの場所でも立ちのぼる。三人がそちらの方向に目をむけた。艦がゆっくりと傾いていき、高度をおとしはじめたのがわかった。
「あの船、こちらに落ちてきたりしませんよね」
クララは漠とした不安を口にした。
「クララ、あんたボカぁ。そんなこと心配するなら足元の方を心配してよね。今、海中のモンスターに引き摺りこまれたら、手のうちようがない。落ちてくる船より、そちらのほうが、今そこにある危機なの!」
そのことばでクララはあわてて、足元に目をむけた。
いや、ちがう。自分から目をそむけたのだ。
アスカはそう思った。
この状態では真上を見あげれば、否が応でも至近距離で自分と目があう。
それを避けたい気持ちはわかる。散々ヘマをやってこちらのマナで助けられているのだ。それにさっきは、女としてタケルの前で、恥ずかしい思いをさせない配慮をしてみせた。それがいたたまれないにちがいない——。
あたしが逆の立場でも屈辱と感謝がないまぜになって、たぶん顔をあわせられない——。
だが本当にそうだろうか……。
クララとタケルはあの閉鎖された空間で二人きりの濃密な時間を過ごしたのだ。不可効力もあったとはいえ、手を握りしめ、体を密着させ、多くを語りあった。
——そしてなによりも危機を共有した。
アスカは思い出した。
兄に擬態した化物からふたり一緒に逃げたこと、亜獣が徘徊する夜の街をゴーストで駆け回ったこと、そしてあちら側に連れていかれそうになった時、間一髪で助けてもらったこと——。
どんな女だってあれだけのことを二人っきりで経験すれば、タケルに惹かれないなんてことはない。
契約者——。
そう、クララはまだタケルと誓いあっていない。それだけがもしかしたら、自分のアドバンテージなのかもしれない。
そう思うと、今、クララのからだを支えているこの右手が急に重たく感じた。
ちょっと手をすべらせて、海に落としてやろうか——。
ふっと浮かんだいじわるな考えをあわてて振り払う。
「アスカさん、重たくないですか」
ふいに、クララが訊いてきた。顔をあげ心配そうにこちらの顔を覗き込んでいる。
なんて整った顔——。
アスカはにっこりと笑った。
「心配ないわ。あんたはあたしの腕にぶらさがってるつもりでいるんでしょうけど、こっちは持ちあげてる状態——」
「あんたの間抜けなガトリング銃と同じで、ほとんど質量を感じてないの」
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