226 / 1,035
第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第225話 撃ち抜いても死なないのですか?
しおりを挟む
クララは心が高ぶる思いを抑えられなかった。
もういちどヤマトに切込み隊長をまかされたのだから。今度は志願ではなく……。
しかし、そのちょっとしたうぬぼれは戦いがはじまるやいなや、あっという間に打ち砕かれた。
クララはヤマトに指示されるまま、大きくジャンプすると、空をふさぐ海と地面のちょうど真ん中あたり三十メートルほどの高さに停止した。その位置で浮遊しながら平原を見下ろすと、ヤマトの言っていたように、地面に夥しい数の穴らしきものが隠れているのがわかった。しかもその穴からはもうすでに、ホワトスと呼ばれるゴーレムたちがぞろぞろと這い出してきている。
自分の仕事はこの上空からそいつらを掃討すること。それは先ほどのステージとそれほど変わることがない。いや、左右や上から襲ってくるイレギュラーなうごきをする敵がいないのだ。むしろたやすいかもしれない。
ちょっと物足りないな——。
クララはそう呟いてガトリング銃の引鉄を絞ると、下の平原にむけて弾丸を放った。ガガガガ、というけたたましい音が平原にこだまして、そのうちの数発、いや何発もがホワトスを撃ち抜く。
だが、ホワトスは倒れなかった。撃ち抜かれたゴーレムの反応は、すこしだけよろめいたというレベルだった。
「クララ、削りとれ!!」
上後方からからヤマトの檄が飛んだ。クララは思わずうしろを振り返った。
「撃ち抜いても死なないのですか?」
ヤマトは十メートルほど上の、海面に髪の毛がつきそうなほどの高さの位置にいた。いつでも剣を抜ける構えのままの姿勢で、浮遊している。
「あいては土塊だ。穴があいたくらいで倒れるもんか」
クララはその物言いにすこしイラッとした。
「じゃあ、どうすれば?」
銃弾を浴びせまくって、弾丸でホワトスのからだを削りとってくれ。それだけでヤツラの動きはとまる。そこをレイが根こそぎ薙ぎ払う」
すっかり舞いあがっていた気分が、それこそ根こそぎ薙ぎ払われたように、意気消沈していくのが、クララにはわかった。
今回の主役はわたしではない——。
自分は主役のレイを援護しろということなのだ。無駄だとわかっていたが、クララはヤマトのほうに強い視線をくれて抗議の声をあげてみた。
「タケルさん、その作戦では、わたしのポイントは減ることはあっても、増えることはありません」
ヤマトはにっこりと顔をほころばせて、屈託のない笑顔をしてみせた。
「だから、さっきのステージで一番多くポイントを稼がせておいたろ」
あぁ……、そういうこと……。
すこし失望感のまじった、それでいて合点がいったような気分が湧いた。だが、その顔には、怒りに満ちたような悔しさにゆがんだ表情が浮かんでいた。クララはそれに気づいて、あわてて前に顔をもどした。
今のをタケルに見られてなければいいけど——。
クララは自分の失態を悔いると同時に、ひとの扱いにぞんざいなヤマトの態度に腹立ってもいた。ヤマト・タケルという男は亜獣を倒すために、どんな犠牲をもいとわない、と理解していたが、実際に自分にそれがふりかかると、やはりネガティブな感情が先にたつ。 うわさでは亜獣をたおすために、仲間を見捨てたとか父親を殺したとか、まことしやかに囁かれていたが、案外ただの噂ではないのかもしれないと痛感した。
そのとき、下の平原からレイが声を張りあげてきた。
「クララ、弾幕薄いわよ。どうなってるの!」
クララはすぐさま平原を見下した。考え事に手元がおろそかになっている間に、手がつけられないほどのゴーレムどもがレイの前にたちふさがっていた。
ざっと見渡しただけで四、五十体ほどいるだろうか。
どこから湧いてでたの?。
そんな疑問がうかんだが、そのときには反射的に引き鉄をひいていた。だが残りの弾はわずかで十発程度がゴーレムの表皮をすこし削ったていどだった。
クララは舌打ちをした。弾丸の補充を忘れていた。
「レイさん、ちょっと待ってていただけますか?」
クララは手元のガトリング銃に手をかざした。光が灯ったかと思うと、弾倉部分に弾丸ベルトが出現した。そのとたん、クララの頭のうえに表示されていた数字が、一気にカウントダウンしはじめた。数字が減るにつれて、弾丸ベルトのながさがどんどん伸びていく。数字が一気に3000減っても、クララはまだ弾丸の補充をとめようとしない。やがて弾丸ベルトは、三十メートル上空から地面にまで到達した。
だがそれでもクララはまだとめない。
行き場をうしなった弾丸ベルトは、その場にとぐろを巻き始めた。
クララが顔をあげた。口角がきゅっとあがって、すこし企みに満ちた表情を浮かべている。
わたしすこし気負っている——。
クララは自分でそれをすこし自覚しながら、一気に引き鉄を引き絞った。
十門ある回転式銃口が高速回転し、膨大な数の弾丸が吐き出された。空から吊るされた弾丸ベルトがみるみる上へと引き揚げられていく。と同時に、飛びだす薬きょうが、土砂降りの雨のように落下していく。
レイの前に立ちはだかっていたホワトスの数体が消し飛んだ。いくら土塊と言っても、これだけの集中砲火を浴びると、表面を削り取られるだけではすまない。
クララがとどめを刺しきれなかったホワトスは、レイが手早く片づけた。レイはほんのひと振りするだけでよかった。それでポイントはすべてレイのものだ。それでもレイの太刀筋は見事なものだった。銃弾を浴びて弱くなった敵だけでなく、自分で描いた導線に沿って、流れるような太刀筋でもっとも効率のいい戦い方をしていた。 無駄をまったく感じさせないおそろしいほどの手際。クララは弾丸を撃ちまくりながら、その手腕におもわずため息をついた。
さすがレイ。最善手でこの『ゲーム』をクリアするつもりなんだわ。
もういちどヤマトに切込み隊長をまかされたのだから。今度は志願ではなく……。
しかし、そのちょっとしたうぬぼれは戦いがはじまるやいなや、あっという間に打ち砕かれた。
クララはヤマトに指示されるまま、大きくジャンプすると、空をふさぐ海と地面のちょうど真ん中あたり三十メートルほどの高さに停止した。その位置で浮遊しながら平原を見下ろすと、ヤマトの言っていたように、地面に夥しい数の穴らしきものが隠れているのがわかった。しかもその穴からはもうすでに、ホワトスと呼ばれるゴーレムたちがぞろぞろと這い出してきている。
自分の仕事はこの上空からそいつらを掃討すること。それは先ほどのステージとそれほど変わることがない。いや、左右や上から襲ってくるイレギュラーなうごきをする敵がいないのだ。むしろたやすいかもしれない。
ちょっと物足りないな——。
クララはそう呟いてガトリング銃の引鉄を絞ると、下の平原にむけて弾丸を放った。ガガガガ、というけたたましい音が平原にこだまして、そのうちの数発、いや何発もがホワトスを撃ち抜く。
だが、ホワトスは倒れなかった。撃ち抜かれたゴーレムの反応は、すこしだけよろめいたというレベルだった。
「クララ、削りとれ!!」
上後方からからヤマトの檄が飛んだ。クララは思わずうしろを振り返った。
「撃ち抜いても死なないのですか?」
ヤマトは十メートルほど上の、海面に髪の毛がつきそうなほどの高さの位置にいた。いつでも剣を抜ける構えのままの姿勢で、浮遊している。
「あいては土塊だ。穴があいたくらいで倒れるもんか」
クララはその物言いにすこしイラッとした。
「じゃあ、どうすれば?」
銃弾を浴びせまくって、弾丸でホワトスのからだを削りとってくれ。それだけでヤツラの動きはとまる。そこをレイが根こそぎ薙ぎ払う」
すっかり舞いあがっていた気分が、それこそ根こそぎ薙ぎ払われたように、意気消沈していくのが、クララにはわかった。
今回の主役はわたしではない——。
自分は主役のレイを援護しろということなのだ。無駄だとわかっていたが、クララはヤマトのほうに強い視線をくれて抗議の声をあげてみた。
「タケルさん、その作戦では、わたしのポイントは減ることはあっても、増えることはありません」
ヤマトはにっこりと顔をほころばせて、屈託のない笑顔をしてみせた。
「だから、さっきのステージで一番多くポイントを稼がせておいたろ」
あぁ……、そういうこと……。
すこし失望感のまじった、それでいて合点がいったような気分が湧いた。だが、その顔には、怒りに満ちたような悔しさにゆがんだ表情が浮かんでいた。クララはそれに気づいて、あわてて前に顔をもどした。
今のをタケルに見られてなければいいけど——。
クララは自分の失態を悔いると同時に、ひとの扱いにぞんざいなヤマトの態度に腹立ってもいた。ヤマト・タケルという男は亜獣を倒すために、どんな犠牲をもいとわない、と理解していたが、実際に自分にそれがふりかかると、やはりネガティブな感情が先にたつ。 うわさでは亜獣をたおすために、仲間を見捨てたとか父親を殺したとか、まことしやかに囁かれていたが、案外ただの噂ではないのかもしれないと痛感した。
そのとき、下の平原からレイが声を張りあげてきた。
「クララ、弾幕薄いわよ。どうなってるの!」
クララはすぐさま平原を見下した。考え事に手元がおろそかになっている間に、手がつけられないほどのゴーレムどもがレイの前にたちふさがっていた。
ざっと見渡しただけで四、五十体ほどいるだろうか。
どこから湧いてでたの?。
そんな疑問がうかんだが、そのときには反射的に引き鉄をひいていた。だが残りの弾はわずかで十発程度がゴーレムの表皮をすこし削ったていどだった。
クララは舌打ちをした。弾丸の補充を忘れていた。
「レイさん、ちょっと待ってていただけますか?」
クララは手元のガトリング銃に手をかざした。光が灯ったかと思うと、弾倉部分に弾丸ベルトが出現した。そのとたん、クララの頭のうえに表示されていた数字が、一気にカウントダウンしはじめた。数字が減るにつれて、弾丸ベルトのながさがどんどん伸びていく。数字が一気に3000減っても、クララはまだ弾丸の補充をとめようとしない。やがて弾丸ベルトは、三十メートル上空から地面にまで到達した。
だがそれでもクララはまだとめない。
行き場をうしなった弾丸ベルトは、その場にとぐろを巻き始めた。
クララが顔をあげた。口角がきゅっとあがって、すこし企みに満ちた表情を浮かべている。
わたしすこし気負っている——。
クララは自分でそれをすこし自覚しながら、一気に引き鉄を引き絞った。
十門ある回転式銃口が高速回転し、膨大な数の弾丸が吐き出された。空から吊るされた弾丸ベルトがみるみる上へと引き揚げられていく。と同時に、飛びだす薬きょうが、土砂降りの雨のように落下していく。
レイの前に立ちはだかっていたホワトスの数体が消し飛んだ。いくら土塊と言っても、これだけの集中砲火を浴びると、表面を削り取られるだけではすまない。
クララがとどめを刺しきれなかったホワトスは、レイが手早く片づけた。レイはほんのひと振りするだけでよかった。それでポイントはすべてレイのものだ。それでもレイの太刀筋は見事なものだった。銃弾を浴びて弱くなった敵だけでなく、自分で描いた導線に沿って、流れるような太刀筋でもっとも効率のいい戦い方をしていた。 無駄をまったく感じさせないおそろしいほどの手際。クララは弾丸を撃ちまくりながら、その手腕におもわずため息をついた。
さすがレイ。最善手でこの『ゲーム』をクリアするつもりなんだわ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
狭間の世界
aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。
記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、
過去の彼を知る仲間たち、、、
そして謎の少女、、、
「狭間」を巡る戦いが始まる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる