198 / 1,035
第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第197話 きさまが、ヤマトタケルか?
しおりを挟む
ひとしきりクルーとの歓談が終ったところで、ミサトがみんなを整列させて、自分の背後に立っている人物を紹介した。
「こちらにおられるのが、総司令に就任される、ウルスラ・勝枝大将です」
一旦ほぐれた空気が、またたく間にひきしまるのがわかった。
ヤシナ・ミライは驚きを隠せなかった。唖然とした表情で、ウルスラの顔をみた。
まったく、聞かされていない——。
わけがわからずミライは手元のシート端末を、みっともないほど闇雲に見返しはじめた。
ミライの驚きは『大将』という雲の上の上長がそこにいたことだけではなかった。ミサトとのあれほどのやりとりが面前で展開されていたにもかかわらず、一言を発しないどころか、気配すら忘れさせられていたことがおそろしかった。
「私が、ここの総司令官として着任したウルスラ・勝枝大将だ」
「カツライ・ミサト司令と一緒に、この亜獣退治の任にあたらせてもらう。ぜひ、みな協力を願いたい」
そのことばには途方もない威圧感があった。大柄な体駆とあいまって、誰もを畏怖させるような重厚感が滲みでていた。その証拠に誰もがことばを発せずにいる。あのアスカでさえ、本能的に手に負えないと感じとったのだろうか、押し黙ったまま様子をうかがっている。
ウルスラはスタッフたちを睥睨すると、ゆっくりとヤマトの方に歩いてきた。だれもが一直線にヤマトの方へむかうウルスラを直立不動のまま目で追う。
ヤマトは目の前に立つウルスラを見あげた。
「きさまが、ヤマトタケルか?」
「再確認するまでもないだろ。さっきうしろで見ていたと思うけど」
「未明に、輸送船を襲ったのは貴様か!」
その場の空気がびりびりとふるえたのがミライにはわかった。
なんと高圧的。現場の最高位の階級であることを差し引いても、あまりにも無遠慮なことばだと、ミライは思った。
もうすでに、この指揮官に、嫌悪感を抱いている自分がいるのに気づいた。
「輸送船が襲われた?。へぇ、いまはじめて知ったよ」
ヤマトはきょとんとした顔つきでウルスラに答えた。
「で、なにが狙われたんです?」
「知っているはずだ。アスカ少尉の兄、龍リョウマ少尉のコックピット・データだよ」
ウルスラはあからさまな威嚇をしかけてきていたが、ヤマトは冷静にいなした。
「大尉ですよ、ウルスラ大将……
リョウマの階級は大尉です。殉職で二階級特進していますから……」
「そんなことはどうでもいい。昨夜、この基地から飛び立った宇宙経由ルートの輸送船が襲われたことを言っている」
「へー、そいつを奪われたんですか?」
「いいや、奪われてない。そうになった、というのが正しい。優秀なパイロットが強奪を阻止してくれたよ」
「それなら良かったじゃないですか」
「ヤマト・タケル、嘯くのはやめたまえ。君が関与しているはずだ」
ヤマトは一歩前にすすみでると、ウルスラを真下から見あげた。ウルスラもその視線に対して、これ以上ないほどの圧をかけてくる。
お互い一歩もひかない、という不退転の態度。
雲の上の上長に、そのような姿勢をみせるヤマトに、ミライは心ならずも胸躍る気持ちをおさえきれずにいた。
「ぼくなら強奪できてる」
「なに?」
「そいつらは奪えなかったんでしょ……。なら、ぼくじゃない」
「では関与していないと言い張るのか」
「関与している証拠がある?」
ウルスラがヤマトを睨みつけた。ミライはいまにも、ウルスラがヤマトを殴りつけるのではないか、という気がした。
それならそれでいい。
上長が部下を殴りつければ、それだけで軍法会議ものだ。
そうなればいい。
「なるほど、そうかもしれんな……」
ウルスラはそういうなり、表情をニュートラルの状態にふっと戻した。
いままでの感情に操られるままに表情をゆがめた顔が、一瞬にして、怒るでも、笑うでもなく素の状態に戻った。ミライはその切り替えの素早さに、目を見張った。
この世界で上に立つためには、こういう芸当を身につけねばならないのだろうか。
金と地位のちからで、長足飛びした自分にはおよびもつかない。上を目指すつもりなら、ここから先は自分も、このようなあざとさを身につけねばならないのだろうか……。
ウルスラはクルーたちのほうへ向き直ると、大きな声で言った。
「君たちの新しい仲間を紹介しよう」
「こちらにおられるのが、総司令に就任される、ウルスラ・勝枝大将です」
一旦ほぐれた空気が、またたく間にひきしまるのがわかった。
ヤシナ・ミライは驚きを隠せなかった。唖然とした表情で、ウルスラの顔をみた。
まったく、聞かされていない——。
わけがわからずミライは手元のシート端末を、みっともないほど闇雲に見返しはじめた。
ミライの驚きは『大将』という雲の上の上長がそこにいたことだけではなかった。ミサトとのあれほどのやりとりが面前で展開されていたにもかかわらず、一言を発しないどころか、気配すら忘れさせられていたことがおそろしかった。
「私が、ここの総司令官として着任したウルスラ・勝枝大将だ」
「カツライ・ミサト司令と一緒に、この亜獣退治の任にあたらせてもらう。ぜひ、みな協力を願いたい」
そのことばには途方もない威圧感があった。大柄な体駆とあいまって、誰もを畏怖させるような重厚感が滲みでていた。その証拠に誰もがことばを発せずにいる。あのアスカでさえ、本能的に手に負えないと感じとったのだろうか、押し黙ったまま様子をうかがっている。
ウルスラはスタッフたちを睥睨すると、ゆっくりとヤマトの方に歩いてきた。だれもが一直線にヤマトの方へむかうウルスラを直立不動のまま目で追う。
ヤマトは目の前に立つウルスラを見あげた。
「きさまが、ヤマトタケルか?」
「再確認するまでもないだろ。さっきうしろで見ていたと思うけど」
「未明に、輸送船を襲ったのは貴様か!」
その場の空気がびりびりとふるえたのがミライにはわかった。
なんと高圧的。現場の最高位の階級であることを差し引いても、あまりにも無遠慮なことばだと、ミライは思った。
もうすでに、この指揮官に、嫌悪感を抱いている自分がいるのに気づいた。
「輸送船が襲われた?。へぇ、いまはじめて知ったよ」
ヤマトはきょとんとした顔つきでウルスラに答えた。
「で、なにが狙われたんです?」
「知っているはずだ。アスカ少尉の兄、龍リョウマ少尉のコックピット・データだよ」
ウルスラはあからさまな威嚇をしかけてきていたが、ヤマトは冷静にいなした。
「大尉ですよ、ウルスラ大将……
リョウマの階級は大尉です。殉職で二階級特進していますから……」
「そんなことはどうでもいい。昨夜、この基地から飛び立った宇宙経由ルートの輸送船が襲われたことを言っている」
「へー、そいつを奪われたんですか?」
「いいや、奪われてない。そうになった、というのが正しい。優秀なパイロットが強奪を阻止してくれたよ」
「それなら良かったじゃないですか」
「ヤマト・タケル、嘯くのはやめたまえ。君が関与しているはずだ」
ヤマトは一歩前にすすみでると、ウルスラを真下から見あげた。ウルスラもその視線に対して、これ以上ないほどの圧をかけてくる。
お互い一歩もひかない、という不退転の態度。
雲の上の上長に、そのような姿勢をみせるヤマトに、ミライは心ならずも胸躍る気持ちをおさえきれずにいた。
「ぼくなら強奪できてる」
「なに?」
「そいつらは奪えなかったんでしょ……。なら、ぼくじゃない」
「では関与していないと言い張るのか」
「関与している証拠がある?」
ウルスラがヤマトを睨みつけた。ミライはいまにも、ウルスラがヤマトを殴りつけるのではないか、という気がした。
それならそれでいい。
上長が部下を殴りつければ、それだけで軍法会議ものだ。
そうなればいい。
「なるほど、そうかもしれんな……」
ウルスラはそういうなり、表情をニュートラルの状態にふっと戻した。
いままでの感情に操られるままに表情をゆがめた顔が、一瞬にして、怒るでも、笑うでもなく素の状態に戻った。ミライはその切り替えの素早さに、目を見張った。
この世界で上に立つためには、こういう芸当を身につけねばならないのだろうか。
金と地位のちからで、長足飛びした自分にはおよびもつかない。上を目指すつもりなら、ここから先は自分も、このようなあざとさを身につけねばならないのだろうか……。
ウルスラはクルーたちのほうへ向き直ると、大きな声で言った。
「君たちの新しい仲間を紹介しよう」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
狭間の世界
aoo
SF
平凡な日々を送る主人公が「狭間の世界」の「鍵」を持つ救世主だと知る。
記憶をなくした主人公に迫り来る組織、、、
過去の彼を知る仲間たち、、、
そして謎の少女、、、
「狭間」を巡る戦いが始まる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる