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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦

第197話 きさまが、ヤマトタケルか?

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 ひとしきりクルーとの歓談が終ったところで、ミサトがみんなを整列させて、自分の背後に立っている人物を紹介した。

「こちらにおられるのが、総司令に就任される、ウルスラ・勝枝大将です」 
 一旦ほぐれた空気が、またたく間にひきしまるのがわかった。
 
 ヤシナ・ミライは驚きを隠せなかった。唖然とした表情で、ウルスラの顔をみた。
 まったく、聞かされていない——。
 わけがわからずミライは手元のシート端末を、みっともないほど闇雲に見返しはじめた。
 ミライの驚きは『大将』という雲の上の上長がそこにいたことだけではなかった。ミサトとのあれほどのやりとりが面前で展開されていたにもかかわらず、一言を発しないどころか、気配すら忘れさせられていたことがおそろしかった。

「私が、ここの総司令官として着任したウルスラ・勝枝大将だ」
「カツライ・ミサト司令と一緒に、この亜獣退治の任にあたらせてもらう。ぜひ、みな協力を願いたい」
 そのことばには途方もない威圧感があった。大柄な体駆とあいまって、誰もを畏怖させるような重厚感がにじみでていた。その証拠に誰もがことばを発せずにいる。あのアスカでさえ、本能的に手に負えないと感じとったのだろうか、押し黙ったまま様子をうかがっている。
 ウルスラはスタッフたちを睥睨へいげいすると、ゆっくりとヤマトの方に歩いてきた。だれもが一直線にヤマトの方へむかうウルスラを直立不動のまま目で追う。

 ヤマトは目の前に立つウルスラを見あげた。
「きさまが、ヤマトタケルか?」
「再確認するまでもないだろ。さっきうしろで見ていたと思うけど」

「未明に、輸送船を襲ったのは貴様か!」

 その場の空気がびりびりとふるえたのがミライにはわかった。
 なんと高圧的。現場の最高位の階級であることを差し引いても、あまりにも無遠慮なことばだと、ミライは思った。
 もうすでに、この指揮官に、嫌悪感を抱いている自分がいるのに気づいた。

「輸送船が襲われた?。へぇ、いまはじめて知ったよ」
 ヤマトはきょとんとした顔つきでウルスラに答えた。
「で、なにが狙われたんです?」
「知っているはずだ。アスカ少尉の兄、龍リョウマ少尉のコックピット・データだよ」
 ウルスラはあからさまな威嚇いかくをしかけてきていたが、ヤマトは冷静にいなした。 
「大尉ですよ、ウルスラ大将……
 リョウマの階級は大尉です。殉職で二階級特進していますから……」
「そんなことはどうでもいい。昨夜、この基地から飛び立った宇宙経由ルートの輸送船が襲われたことを言っている」
「へー、そいつを奪われたんですか?」
「いいや、奪われてない。そうになった、というのが正しい。優秀なパイロットが強奪を阻止してくれたよ」
「それなら良かったじゃないですか」
「ヤマト・タケル、うそぶくのはやめたまえ。君が関与しているはずだ」
 ヤマトは一歩前にすすみでると、ウルスラを真下から見あげた。ウルスラもその視線に対して、これ以上ないほどの圧をかけてくる。
 お互い一歩もひかない、という不退転の態度。
 雲の上の上長に、そのような姿勢をみせるヤマトに、ミライは心ならずも胸躍る気持ちをおさえきれずにいた。

「ぼくなら強奪できてる」
「なに?」
「そいつらは奪えなかったんでしょ……。なら、ぼくじゃない」
「では関与していないと言い張るのか」
「関与している証拠がある?」
 ウルスラがヤマトをにらみつけた。ミライはいまにも、ウルスラがヤマトを殴りつけるのではないか、という気がした。
 それならそれでいい。
 上長が部下を殴りつければ、それだけで軍法会議ものだ。
 そうなればいい。

「なるほど、そうかもしれんな……」

 ウルスラはそういうなり、表情をニュートラルの状態にふっと戻した。
 いままでの感情に操られるままに表情をゆがめた顔が、一瞬にして、怒るでも、笑うでもなく素の状態に戻った。ミライはその切り替えの素早さに、目を見張った。

 この世界で上に立つためには、こういう芸当を身につけねばならないのだろうか。
 金と地位のちからで、長足飛びした自分にはおよびもつかない。上を目指すつもりなら、ここから先は自分も、このようなあざとさを身につけねばならないのだろうか……。

 ウルスラはクルーたちのほうへ向き直ると、大きな声で言った。
 
「君たちの新しい仲間を紹介しよう」
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