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第二章 第一節 四解文書争奪
第194話 今回の件はぼくが全部責任を負うつもりだ
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クララにこれ以上ないほどに銃弾をぶち込まれて、ヤマトの『壱号機』は空中でばらばらになりながら、レマン湖に落ちていった。
パイロットシートで操縦をしていた『素体』も砕け散っていたので、機能していないリアル・バーチャリティ装置のゴーグルは外していた。壁面のモニタに映し出されている映像で、『壱号機』の墜落の瞬間を確認する。機体が水面にどんどんと近づいていく。そしてそのまま湖面に激突して水しぶきをあげる。
思わずふーっとため息がでる。
「タケル!。あたしは今回の件、根に持つからね」
目の前に顔をつきだして、アスカが声を荒げた。ヤマトがなにか抗弁しようとしたが、アスカは矢継ぎ早に自分の意見を畳みかけてきた。
「タケルは忘れていい!。あたしひとりが、この屈辱を忘れないでいるつもり」
「アスカ、なにをするつもり?」
レイがゴーグルを上にずりあげながら訊いてきた。レイの『零号機』のリアル・バーチャリティ装置はまだ機能していたが、レイは早々と見切りをつけたらしい。
「さぁね。なにをするかは未定。でもあのふたりにはいつか、借りを返してもらうわ。あんただって悔しいでしょう。わざとやられたの?」
「えぇ。あんな甘ちゃんに、勝ちを譲ったのは納得いってない」
ヤマトはシートからからだを起こしながら、ふたりにむかってに言った。
「アスカ、レイ、わるかった。今回の件はぼくが全部責任を負うつもりだ」
いきなりヤマトに謝罪されて、すこしばつが悪くなったのか、アスカがなにか言いかけてもごもごと口ごもった。
「戦力差があったとはいえ、アスナ・ユキという男に完膚無きまでやられた上、正体を見破られたのは、ぼくの作戦ミスだし、そのあとデータの奪取を彼に任せたのは、ぼくの判断だ。もし、このことでなにかがあったら、ボクが責任をとる」
「今回、あの輸送船を襲ったのが、わたしたちだって本部に訴え出たら、わたしたちどうなるの?」
めずらしく不安げな顔つきでレイが訊いてきた。最前線から引き離されるかもしれない、と心配しているのだと、すぐにわかった。
「レイ、心配しなくてもいい。もし告げ口されたとしても、どうにもならないよ」
「どうして?」
「レイ様、大丈夫ですよ。あなた方には代わりがいないのですから。もしレイ様が重大な犯罪をおかしたとしても、人類存亡の危機に比べれば些細なことです。人類はみなさんに頼るしかないのです」
「ムーンベースのアカデミーには、わたしたちの代わりになる可能性のある候補生が、まだいっぱいいる」
「レイ、あんた、ボカぁ。あなたもわたしも、実戦で一体づつ亜獣を倒した実績があるのよ。これって上層部だって簡単には無視できない」
ヤマトはレイとアスカにむけて、決意がこもったまなざしをむけた。
「これはぼくが判断したことだ。もしユウキがぼくを欺いたのなら、ぼくが責任をもって彼に対処する」
「対処って?」
「場合によっては、命をもってあがなってもらうかもしれない」
「は、タケル、大袈裟ね。あいつらは嫌なヤツだけど、パイロットとしては優秀なほうよ。だいたい、そんなつまンないことで、みすみす搭乗のチャンスを逃すようなことはしないわ」
「アスカは、ユウキとクララのこと、信じてるの?」
すこし驚いたような表情で、レイがアスカに尋ねた。
「信じちゃいないわよ。疑ってないだけ!」
ヤマトの口元がおもわずほころんだ。彼らのことをあれほどまでに卑下していたアスカの口から、思いがけないほど肯定的な意見が飛び出すとは思いもしなかった。それは、ヤマトにとっても、すこし肩の荷が下りたように感じられて、ありがたかった。
三人の話し合いに一段落ついたと判断したのだろう、十三が咳払いをしてみんなの注意をひいてきた。
「エル様、アスカ様、レイ様、お疲れのところ、誠に申し訳ございません。出撃前に緊急の連絡がはいっておりまして……」
「出撃前に?」とヤマト。
「あ、はい。明日、早朝8時に駐機エプロンに集合せよ、とのことです。なんでも、あたらしい司令官とパイロットの着任式があるそうです」
「えー、あと3時間くらいしかないじゃないのよ。あたし、くたくたなんだけど——」
アスカがいつものように率先してぶうを垂れたが、レイがそれを一蹴した。
「3時間あれば、シャワー浴びて、仮眠くらいはとれる」
レイの現実的な提案に、ヤマトも同調した。
「あぁ、寝不足の顔は避けたいな。ここでの夜更かしがばれる」
アスカが目をこすりながら、ため息をついた。
「わかったわよ。あたしは化粧ドロイドになんとかしてもらうわ」
「そんなに構えなくてもいいと思う」
レイが不思議そうな顔でアスカに言った。
「そうはいかないの!。あのおんなの……、クララの着任式にくたびれた顔なんか、絶対みせられるわけない!」
パイロットシートで操縦をしていた『素体』も砕け散っていたので、機能していないリアル・バーチャリティ装置のゴーグルは外していた。壁面のモニタに映し出されている映像で、『壱号機』の墜落の瞬間を確認する。機体が水面にどんどんと近づいていく。そしてそのまま湖面に激突して水しぶきをあげる。
思わずふーっとため息がでる。
「タケル!。あたしは今回の件、根に持つからね」
目の前に顔をつきだして、アスカが声を荒げた。ヤマトがなにか抗弁しようとしたが、アスカは矢継ぎ早に自分の意見を畳みかけてきた。
「タケルは忘れていい!。あたしひとりが、この屈辱を忘れないでいるつもり」
「アスカ、なにをするつもり?」
レイがゴーグルを上にずりあげながら訊いてきた。レイの『零号機』のリアル・バーチャリティ装置はまだ機能していたが、レイは早々と見切りをつけたらしい。
「さぁね。なにをするかは未定。でもあのふたりにはいつか、借りを返してもらうわ。あんただって悔しいでしょう。わざとやられたの?」
「えぇ。あんな甘ちゃんに、勝ちを譲ったのは納得いってない」
ヤマトはシートからからだを起こしながら、ふたりにむかってに言った。
「アスカ、レイ、わるかった。今回の件はぼくが全部責任を負うつもりだ」
いきなりヤマトに謝罪されて、すこしばつが悪くなったのか、アスカがなにか言いかけてもごもごと口ごもった。
「戦力差があったとはいえ、アスナ・ユキという男に完膚無きまでやられた上、正体を見破られたのは、ぼくの作戦ミスだし、そのあとデータの奪取を彼に任せたのは、ぼくの判断だ。もし、このことでなにかがあったら、ボクが責任をとる」
「今回、あの輸送船を襲ったのが、わたしたちだって本部に訴え出たら、わたしたちどうなるの?」
めずらしく不安げな顔つきでレイが訊いてきた。最前線から引き離されるかもしれない、と心配しているのだと、すぐにわかった。
「レイ、心配しなくてもいい。もし告げ口されたとしても、どうにもならないよ」
「どうして?」
「レイ様、大丈夫ですよ。あなた方には代わりがいないのですから。もしレイ様が重大な犯罪をおかしたとしても、人類存亡の危機に比べれば些細なことです。人類はみなさんに頼るしかないのです」
「ムーンベースのアカデミーには、わたしたちの代わりになる可能性のある候補生が、まだいっぱいいる」
「レイ、あんた、ボカぁ。あなたもわたしも、実戦で一体づつ亜獣を倒した実績があるのよ。これって上層部だって簡単には無視できない」
ヤマトはレイとアスカにむけて、決意がこもったまなざしをむけた。
「これはぼくが判断したことだ。もしユウキがぼくを欺いたのなら、ぼくが責任をもって彼に対処する」
「対処って?」
「場合によっては、命をもってあがなってもらうかもしれない」
「は、タケル、大袈裟ね。あいつらは嫌なヤツだけど、パイロットとしては優秀なほうよ。だいたい、そんなつまンないことで、みすみす搭乗のチャンスを逃すようなことはしないわ」
「アスカは、ユウキとクララのこと、信じてるの?」
すこし驚いたような表情で、レイがアスカに尋ねた。
「信じちゃいないわよ。疑ってないだけ!」
ヤマトの口元がおもわずほころんだ。彼らのことをあれほどまでに卑下していたアスカの口から、思いがけないほど肯定的な意見が飛び出すとは思いもしなかった。それは、ヤマトにとっても、すこし肩の荷が下りたように感じられて、ありがたかった。
三人の話し合いに一段落ついたと判断したのだろう、十三が咳払いをしてみんなの注意をひいてきた。
「エル様、アスカ様、レイ様、お疲れのところ、誠に申し訳ございません。出撃前に緊急の連絡がはいっておりまして……」
「出撃前に?」とヤマト。
「あ、はい。明日、早朝8時に駐機エプロンに集合せよ、とのことです。なんでも、あたらしい司令官とパイロットの着任式があるそうです」
「えー、あと3時間くらいしかないじゃないのよ。あたし、くたくたなんだけど——」
アスカがいつものように率先してぶうを垂れたが、レイがそれを一蹴した。
「3時間あれば、シャワー浴びて、仮眠くらいはとれる」
レイの現実的な提案に、ヤマトも同調した。
「あぁ、寝不足の顔は避けたいな。ここでの夜更かしがばれる」
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