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第二章 第一節 四解文書争奪
第171話 今回の作戦はぼくらだけの極秘行動だ
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その日の真夜中ごろになって、ヤマト、アスカ、レイの三人はキッチンに集まった。
「この部屋は基地内部の人間には、知られていない場所です」
沖田十三はキッキンの奥の隠し部屋の入り口を指し示した。そこは腰を曲げなければ、通り抜けられないほど低かったが、三人はなにも言わずにくぐり抜けた。
いざというときのために整備をかかさずにいたが、この部屋を使う日がまた来ようとは、十三は思ってもいなかった。かつて数回だけこの部屋が活用されたことがあった。だがパイロットがヤマトたった一人になってからは、封鎖されているも同然となっていた。
アスカが中に入ってくるなり、「狭いわね」と言った。十三はアスカはそういう類いの不満をかならず口にすると予想していたので、「ご不便かけますかどうか我慢ください」とすぐに詫びた。
次にレイが、部屋の中央にお互いが向かい合って配置された六基のリアル・バーチャリティマシンをちらりとだけ見て、「ずいぶん旧式」とだけ言った。
これも十三の予想した反応だった。
「レイ様、ここは隠し部屋です。外部にこの部屋のことが漏れるような真似はできません」
レイはRV機器のシートに指を這わせながら、じっくりと検分するとシートに座った。
「いい。旧型は月基地ので馴れているから問題ない」
こんどはアスカが壁面を指し示しながら、大きな声で尋ねてきた。
「十三、この壁に埋め込まれてるの、もしかしてモニタ画面?」
「はい、旧式の壁型埋め込み型です」
「ちょっとぉ、投影型はないの?。これじゃあ、自動追尾で目の正面に映像がこないじゃないの。
「あいにく、ここでは」
「ーってことは、十三、戦闘中に別角度のカメラを確認するには、あたしの方が目をむけないといけないのね」
アスカが、『あたし』を強調して言った。
「申し訳ありません……」
十三がを下げると、それまで押し黙っていたヤマトが口を開いた。
「アスカ、十三はよくやってくれている。今回の作戦はぼくらだけの極秘行動だ。よけいな動きをして、万が一にも気取られるわけにはいかない」
「わかった……」
ヤマトのことばにアスカは肩をすくめると、一番近くにあったRV機器のシートにどんと荒々しく腰を落とした。
「十三、説明してくれ」
十三はまず重装機甲兵が置かれている山小屋を壁面のモニタに映しだした。雪山に立つ古びた倉庫のライブ映像が映し出された。一見するだけで誰もいない廃屋とわかる、バラック小屋。カメラロボットが内部に入っていくと、それが外見だけではなく内部も荒れ果てていることがわかってくる。鉄材や木材があたりに散らばっていて、完全にうち捨てられた場所という印象を強くする。
「こちらは地下です」
カメラがふっと切り替わると、突然眩い光で満たされた工場内の映像が飛び込んできた。
そこに重装機甲兵が四体並んでいた。デミリアンと同等サイズ、どれも同じ機体のはずだったが、四体それぞれカラーリングや装甲や武器が異なっていた。一部は左右でちがう素材のパーツがとりつけられている。
「ちょっと待ってよ。これジャンク品じゃない」
アスカが訴えた文句は、十三の予想の範疇だった。
「アスカさん、最初から申しあげていたかと存じますが、闇ルートの品を寄せあつめてリストアしていると……」
「これ高度、どこまでとべる?」
レイの質問はあいかわらず前向きだった。十三はレイがそういう資質の人種であることは理解していたが、その口調に非難や落胆めいたものがないことに、すこしほっとした。
根っからのパイロット……、あるいはゲーマー。
「あ、はい、この機体は成層圏を超えることができる設計にはなっていますが、いかんせんあの状態ですので、気密性を保証できません」
「じゃあ、成層圏内であれば問題ないのね」
「あ、はい。そこまでは万全に整備されております」
「じゃあ、やれるわ」
「ちょ、ちょっとぉ。十三、あの機体はどこから飛び立つのよぉ!」
あわててアスカが前向きな質問をしてきた。レイが具体的な戦術を頭に描いた質問をしているのに刺激されたのだろうと、と十三は推察した。
「はい、国際連邦本部があるスイス国境近くの山のなかに……」
「つまり、私たちはあれに直接乗るわけじゃないのね」
レイがぼそりとつぶやいた。
「はい。あの機体には『素体』が……、いえ、『カバード』が搭乗しています」
別のカメラがコックピットの映像を映し出した。コックピットにはまっしろなプレーンな状態の、アンドロイドが座っているのが見えた。
「今からボクらは、ここにあるRV操置で、あの『カバード』に意識を憑依させて、間接的にあの機体を操縦する」
ヤマトがRV装置のゴーグルを頭上から引き下げながら言った。それを見て、レイとアスカもおなじようにスタンバイをはじめる。
「お互いの通信は無線を使いません。この場のローカル回線を使います」
十三があわてて補足情報を言うと、アスカがゴーグルを引き下げながらウィンクした。
「十三、こここんなに狭いのよ。いざという時は大声で叫ぶか、足で蹴飛ばして合図するわよ」
十三はおもわず破顔した。
さすが、エル様のお眼鏡にかなったふたりだ。
ここにいたっても、なんの気負いもない。
むしろ緊張しているのは自分のほうかもしれない。
「この部屋は基地内部の人間には、知られていない場所です」
沖田十三はキッキンの奥の隠し部屋の入り口を指し示した。そこは腰を曲げなければ、通り抜けられないほど低かったが、三人はなにも言わずにくぐり抜けた。
いざというときのために整備をかかさずにいたが、この部屋を使う日がまた来ようとは、十三は思ってもいなかった。かつて数回だけこの部屋が活用されたことがあった。だがパイロットがヤマトたった一人になってからは、封鎖されているも同然となっていた。
アスカが中に入ってくるなり、「狭いわね」と言った。十三はアスカはそういう類いの不満をかならず口にすると予想していたので、「ご不便かけますかどうか我慢ください」とすぐに詫びた。
次にレイが、部屋の中央にお互いが向かい合って配置された六基のリアル・バーチャリティマシンをちらりとだけ見て、「ずいぶん旧式」とだけ言った。
これも十三の予想した反応だった。
「レイ様、ここは隠し部屋です。外部にこの部屋のことが漏れるような真似はできません」
レイはRV機器のシートに指を這わせながら、じっくりと検分するとシートに座った。
「いい。旧型は月基地ので馴れているから問題ない」
こんどはアスカが壁面を指し示しながら、大きな声で尋ねてきた。
「十三、この壁に埋め込まれてるの、もしかしてモニタ画面?」
「はい、旧式の壁型埋め込み型です」
「ちょっとぉ、投影型はないの?。これじゃあ、自動追尾で目の正面に映像がこないじゃないの。
「あいにく、ここでは」
「ーってことは、十三、戦闘中に別角度のカメラを確認するには、あたしの方が目をむけないといけないのね」
アスカが、『あたし』を強調して言った。
「申し訳ありません……」
十三がを下げると、それまで押し黙っていたヤマトが口を開いた。
「アスカ、十三はよくやってくれている。今回の作戦はぼくらだけの極秘行動だ。よけいな動きをして、万が一にも気取られるわけにはいかない」
「わかった……」
ヤマトのことばにアスカは肩をすくめると、一番近くにあったRV機器のシートにどんと荒々しく腰を落とした。
「十三、説明してくれ」
十三はまず重装機甲兵が置かれている山小屋を壁面のモニタに映しだした。雪山に立つ古びた倉庫のライブ映像が映し出された。一見するだけで誰もいない廃屋とわかる、バラック小屋。カメラロボットが内部に入っていくと、それが外見だけではなく内部も荒れ果てていることがわかってくる。鉄材や木材があたりに散らばっていて、完全にうち捨てられた場所という印象を強くする。
「こちらは地下です」
カメラがふっと切り替わると、突然眩い光で満たされた工場内の映像が飛び込んできた。
そこに重装機甲兵が四体並んでいた。デミリアンと同等サイズ、どれも同じ機体のはずだったが、四体それぞれカラーリングや装甲や武器が異なっていた。一部は左右でちがう素材のパーツがとりつけられている。
「ちょっと待ってよ。これジャンク品じゃない」
アスカが訴えた文句は、十三の予想の範疇だった。
「アスカさん、最初から申しあげていたかと存じますが、闇ルートの品を寄せあつめてリストアしていると……」
「これ高度、どこまでとべる?」
レイの質問はあいかわらず前向きだった。十三はレイがそういう資質の人種であることは理解していたが、その口調に非難や落胆めいたものがないことに、すこしほっとした。
根っからのパイロット……、あるいはゲーマー。
「あ、はい、この機体は成層圏を超えることができる設計にはなっていますが、いかんせんあの状態ですので、気密性を保証できません」
「じゃあ、成層圏内であれば問題ないのね」
「あ、はい。そこまでは万全に整備されております」
「じゃあ、やれるわ」
「ちょ、ちょっとぉ。十三、あの機体はどこから飛び立つのよぉ!」
あわててアスカが前向きな質問をしてきた。レイが具体的な戦術を頭に描いた質問をしているのに刺激されたのだろうと、と十三は推察した。
「はい、国際連邦本部があるスイス国境近くの山のなかに……」
「つまり、私たちはあれに直接乗るわけじゃないのね」
レイがぼそりとつぶやいた。
「はい。あの機体には『素体』が……、いえ、『カバード』が搭乗しています」
別のカメラがコックピットの映像を映し出した。コックピットにはまっしろなプレーンな状態の、アンドロイドが座っているのが見えた。
「今からボクらは、ここにあるRV操置で、あの『カバード』に意識を憑依させて、間接的にあの機体を操縦する」
ヤマトがRV装置のゴーグルを頭上から引き下げながら言った。それを見て、レイとアスカもおなじようにスタンバイをはじめる。
「お互いの通信は無線を使いません。この場のローカル回線を使います」
十三があわてて補足情報を言うと、アスカがゴーグルを引き下げながらウィンクした。
「十三、こここんなに狭いのよ。いざという時は大声で叫ぶか、足で蹴飛ばして合図するわよ」
十三はおもわず破顔した。
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