上 下
126 / 1,035
第一章 最終節 決意

第125話 春日博士。レイの『共命率』が急上昇してます

しおりを挟む
「そういうことか!」
 アルはレイが亜獣にアンカーを打ち込んだのを見て、額に手をあてうめくように言った。
「ちょっとお、アル、どういうこと」
 春日リンがアルがひとり合点している様子に、 口をはさんできた。
 リンに噛みつかれて、アルはハッとしたが、それと同時にいつもの『春日リン』の口調にすっかり戻っていることに安堵した。レイの母親の幻影が跋扈した大騒動から、リンはすっかり落ちつきをとりもどしているようだ。
 アルはあの時、まったく役に立てなかった忸怩たる思いがあり、当分、リンの顔を正面から見れそうもなかった。
 アルはモニタに映るレイのコックピットの映像を見ながら答えた。
「あ、 いえ、すんませんね、この間、レイに頼まれたんで すよ。新しい武器を装備したいって……」
「それがあの武器。よく短時間で」
「あれはセラ・ウラヌスのものを流用したんですよ」
「ああ、なるほど」
「相手の体に突き刺さると同時に、五本の爪が開いて、フックがひっかかるように改良し てありますがね」
 その時、ミライが大きな声をあげた。
「春日博士!!。レイの『共命率』が急上昇してます」
「どういうこと?」
「100%を超えそうです」
「レイが暴走してるの?」
 そのことばにブライトが不安げな顔をむけた。アルにはこれ以上、余計な懸案事項を増やすのは勘弁してくれ、という顔つきにみえた。
「リン、どういうことだ」
「ブライト、レイが暴走しかかっているの。『共命率』が高まりすぎて、本来のポテンシャル以上の力が発動しようとしている」
 アルはリンが伝えようとしている意図に気づいた。
「そりゃ、まずい。レイを押さえてもらわんと」
「アル、きさまも何か気づいたのか!」
「申し訳ありません、ブライトさん。あんまりにもすごい活躍に目を奪われてて、失念してしまいました。レイが『クロックス』だってことに……」
「クロックスだから、どうというんだ?」
「99・9《スリーナイン》のタケルとはちがうということ.」 
 リンが助け船を出すように、ブライトに訴えた 。
「だから何がだ!」
「とにかく、まずいん……」
 その時、レイが映るモニタをみていたリンの叫び声で、アルのことばは遮られた。

「レイ、戻ってきて。大変なことになる!」

  ------------------------------------------------------------
 
「ははっ、おまえももうすぐ終りだな」
 カミナアヤトはヤマトの足元で苦しそうにのたうち回りながらも、満足げな表情で言った。ヤマトはアヤトの挑発に奥歯をぐっと噛みしめながら返答した。
「は、アヤト兄ぃ、あんたのほうが終わりそうに見えるけどな」
 プルートからの光の剣の圧力はさらに強くなり、ヤマトの抵抗も限界になってきた。スロットルを握り続ける手の痺れは、すでに感覚がなくなるところまできている。
「楽になれよ。タケル、楽によぉ」
「そんな苦しそうに言われても説得力ないけどね」
 元々、溶けていた部分は、すでに原形をとどめないほど溶け落ち、アヤトの体は縦でまっぷたつに切断した半身だけの存在に近くなっている。
「レイ!。さっさとアトンを始末してくれ」
 レイの映像をちらりと見やって叫んだ。アヤトへのこれ見よがしの当てつけだ。
 驚いたことに、レイが律義に反応してきた。
「タケル、待つデス。もうちょっとで、息の根がとまるデス」
「聞いたか。アヤト兄ぃ」
 アヤトは恨めしげな目をヤマトに向けたかと思うと、大声で叫んだ。
「プルートゥ、おまえもさっさとマンゲツを始末しろ!」
 その声に呼応するように、光の剣の刀身が輝きを増し、マンゲツをさらに下に押し込む。
「くっ!」
 ヤマトがおもわず奥歯を噛みしめる。
 プルートの剣の切っ先がマンケツの前立《まえだて》に食いこみはじめた。外側のプロテクタの一部が弾けとぶ。
「タケル、こちらのほうが先に終わりそうだな」
 ヤマトはアヤトの捨て台詞に恨めしげな目をむけるのが勢いっぱいだった。とても無駄口を叩くために口を開いている余裕はない。
「うははははは」
 アヤトが半分しかない口を大きく開いて高笑いをした。笑い声がコックピット内に反響する。
 その時、プルートゥのからだが一瞬震えた。同時にサムライ・ソードを押し込んでくる力がふっと緩んだ。
 プルートゥの背中に槍が突き刺さっていた。刃は体を貫き通せるほど深くもなく、目標場所からも数メートル上に外れた。一撃必殺という威力からはほど遠かったが、プルートゥをほんのわずか怯《ひる》ませるだけの力はあった。
 それだけでヤマトには充分だった。

 ヤマトがプルートゥのサムライ・ソードを弾き飛ばした。
 プルートゥの右腕が、パーンと勢いよく上に跳ねあがる。
 その下を縫うようにマンゲツがからだを左側に泳がせ、プルートゥの正面から抜け出た。
 と同時に、サムライ・ソードをプルートゥの右の肩口から、背中の方へ抜けるように円弧を描く。鮮やかな軌跡。一瞬、時間がとまったかと思えるほどの静寂ののちプルートの右肩口から、青い血が霧のように吹きだした。
 プルートが咆哮とも叫び声ともしれない、ウォォォォンという呻き声をあげて、身悶えした。
 プルートゥの右腕がサムライ・ソードの柄を掴んだままドサリとおちた。
 これで終わりだ。
 ヤマトは返す刀で追い討ちをかけようと、マンゲツのからだを反転した。
 が、マンゲツはその場で膝をおって崩れおちた。マンゲツは地面に膝をつけると、前のめりのまま身動きできなくなった。
「くそぉ、どうなってる!!」
 ヤマトは腹立ちまぎれの怒声をあげた。
「タケル君、さっきの戦いで足に痺れが生じてるの。無理させないで」
 リンがヤマトに助言したが、この乾坤一擲の勝負に水をさされた憤りは収まらなかった。
「ここは無理する場面でしょうがぁぁ」
 ヤマトが渾身の力でアクセルを踏みこむ。
 まだ頼りない動作ながらマンゲツが左脚の膝を立て、からだを起こしはじめた。
「マンゲツ、とどめをうてぇぇぇ」
 ぐっと腰をもちあげ、前のめりになりながら、マンゲツが立ち上がった。
『そうはさせぬえよ』
 床に這いつくばっている半身のアヤトが、息も絶え絶えに言った。
 ヤマトがハッとして正面のモニタをみる。
 プルートゥが落ちた自分の右腕を左腕で拾いあげていた。その手にはまだサムライ・ソードが握られていた。プルートゥが右肩の切り口に、切断された右腕の傷口を押しつけはじめた。
『なにをするつもりだ……』
 プルートゥの肩の傷痕から青い菌糸状のようなものが生えてくるのが見えた。それは無数に沸いてでたかと思うと、一気に吹き出し右腕の傷を包み込む。みるみるうちに肩と腕をつなぎとめはじめた。
 ヤマトは信じられない思いで、息を飲んだ。


「まさか……、つなぎ直せるのか……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』

佐野信人
SF
 学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』の艦長である仮面の男タイラーは、とある病室で『その少年』の目覚めを待っていた。4000年の時を超え少年が目覚めたとき、宇宙歴の物語が幕を開ける。  少年を出迎えるタイラーとの出会いが、遥かな時を超えて彼を追いかけて来た幼馴染の少女ミツキとの再会が、この時代の根底を覆していく。  常識を常識で覆す遥かな未来の「彼ら」の物語。避けようのない「戦い」と向き合った時、彼らは彼らの「日常」でそれを乗り越えていく。  彼らの敵は目に見える確かな敵などではなく、その瞬間を生き抜くという事実なのだった。 ――――ただひたすらに生き残れ! ※小説家になろう様、待ラノ様、ツギクル様、カクヨム様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、セルバンテス様、ツギクル様、LINEノベル様にて同時公開中

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...