上 下
111 / 1,035
第一章 最終節 決意

第110話 レディたちを助ける方法がわかった

しおりを挟む
 殴れだと!
 パニックを終息させる方法をヤマトから告げられたブライトは、困惑をさらに重ねる気分になった。目の前に喉元をおさえてのたうちまわる春日リンの姿があり、その横ではシートに体を深く沈め、朦朧としているミライもいる。
 確かに客観的にみれば見えない何ものかに襲われているように見えなくもない。だが、さらに部外者として客観視すれば、そんな寸劇にしかみえないに違いない。それに自分も加わり、見えない何者かを殴りつけるふりをするとなれば、それはもう茶番でしかないではないか。
 ブライトは躊躇のうえ、躊躇をした。
 それはほんの一瞬でしかなかったが、自分の心の中ではこの上なく優柔不断のうえでの判断だった。 
 ブライトは腰から下げていた銃をひき抜くと、それをひっくり返して銃身をつかんだ。 仰けになって悶だえ苦しむ春日リンの頭上で、それを思っきりふりまわした。その一撃はただ空を切っただけだった。
 まったくまぬけな姿だ。
 ブライトはおのれの醜態を心の底から呪った。が、兄元に倒れていた春日リンは、大きな咳をすると、咽をおさえながら半身をゆっくりと起こした。
 あたったのか?
 狐につつまれたような気分で握った銃に目をやった。
「リン、大丈夫なのか?」
 リンは大きく息を吸い込みながら、手を前に突き出し、ブライトのことばを制した。息をととのえるまで待って、という合図だった。
「ええ、大丈夫……」
「ありがとう、ブライト」
 ブライトは自分のまぬけな攻撃が奏功したことにホッとした。
「あたっ……たのか?」
「ええ、さすがね。お見事よ」
「その……、レイの母親は消えたのか?」
 春日リンはよろよろと立ちあがりながら、五メートルほど離れた位置にいたアルの足元の方を指さしながら言った。
「いいえ、あそこに吹っ飛んでいったわ」
 ブライトはちらりとその場所に目をやっただけだった。
 どうせ目をこらして見ても何も見えない。
 ブライトはクルーたちの注意をひくために、パンと手を打つなり凜然として叫んだ。
「男ども、聞けぇぇぇ」
 男性クルーたちが驚いた表情で、ブライトのほうに顔をむけた。
「レディたちを助ける方法がわかった!!。今幻影に攻撃されている女性クルーの空間を、どこでもいいから、殴るふりをしてくれ!」
 だが、誰もが言っている意味がわからない様子で、みなポカーンとしたままだった。
 やっぱりな。
 ブライトはつかつかと、椅子のシートの上でぐったりしていたヤシナ・ミライの元へ近寄った。ブライトは先ほどのように銃を逆向きに持つと、台尻をミライのからだの上で思いっきり振りまわした。
 男性クルーたちが、気でもちがったのか、といわんばかりに目をむいた。
「みんな、ばかばかしいと思わないで、おなじようにやってくれ」
 ブライトが声を張ったが、だれも動き出そうとしなかった。
 やはり、簡単にはいかんか……。 
 ブライトはすこし苛立ちながら、もう一度声を張ろうした。その時、ミライがおおきく息をはきだして、からだを動かすのが見えた。
 それを見るなり、ブライトの意図に合点したらしい。
 おのおのが、雄叫びをあげながら、自分のちかくにいる女性クルーの元にむかい、見えない敵を打ち倒そうとしはじめた。
 ブライトはシートから身を起こそうとしているミライの姿をながめながら、ほっと胸をなで下ろした。
 だが、その時、ブライトはある不都合な事実に思いあたった。
 レイの母親をかいま見た女性陣が、今のように直接的に襲われたのなら、カミナアヤトと言葉をかわした自分にも同じことが起こるのではないか。


 その時、自分はどうすればいい、どうふるまえば良いのだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~

ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。 それは現地人(NPC)だった。 その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。 「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」 「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」 こんなヤバいやつの話。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

スタートレック クロノ・コルセアーズ

阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。 これはスタートレックの二次作品です。 今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分のオリジナルキャラクターで話を作り本家で出てくるキャラクターを使わせて頂いています。 新版はモリソンというキャラクターをもう少し踏み込んで書きました。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

処理中です...