71 / 1,035
第一章 第四節 誓い
第70話 神に祈りを棒げていたら、リョウマは助かっただろうか?
しおりを挟む
「おいおい、ずいぶんものものしいな」
アルがあきれたような顔で言ってきた
今夜未明の国防軍との合同訓練の前に、各自、自分の機体の最終チェックをするようにとアルから連絡があったので、アスカはヤマトとレイと連れだって、出撃レーンに足を運んだ。
ヤマトがうんざりとしたような表情を作ってみせた。
「そうだろ。一人につき三人。九人もの護衛がついてくるんだぜ」
アスカは自分の回りにチラリと目をはせた。銃をもったフル装備の兵士たちが三人をとり囲んでいる。
「いやぁ、アル。お騒がしてすまんね。草薙大佐の命令なんでね」
先頭にいたバットーがアルに詫びを入れた。たわいもない口調だったが、周囲に鋭い視線をむけ続け、あたりの整備員や修理ロボたちから目をはなそうとはしない。
アスカには儀礼的なエクスキューズはどうでも良かった。
「アル、あたしのセラ・ヴィーナスを、さっさとチェックさせてもらうわよ」
「あぁ、いいぜ。たぶん非の打ちどころがないほど、ばっちりメンテナンスされてると思うけどな」
「それでも心配!。自分でチェックする」
アルがなにか不都合があればなくなりと捜してみるがいい、と言わんばかりの余裕の表情を浮べた。
アスカはくるりとふりむくと、後方の警護についていた兵士たちに言った。
「あんたたち、あたしがコックピットをチェック中は、下で待機しててよね。うしろにぴったりくっつかれたりしたら、気が散るから」
その剣幕に兵士たちはどうしたものかと戸惑っていたが、先頭のバットーが彼らのことばを代弁するように言った。
「レイ、わかったよ。彼らにそうさせる。だが、先に内部をチェックさせてくれ」
アスカーはバットーの方を見た。その目が『そこが落し所だぞ』と訴えていた。
アスカは両手を広げて降参のサインをおくった。
「了解。あなたたちにも、任務があるものね」
「でも早くしてちょうだいね!」
最後のことばは、バットーに対するあたしの落し所はここだよ、という宣言にほかならなかった。バットーはその意をすばやく察して、目と手ぶりで、部下達にデミリアンの方へ行くよう促した。
少しの間、待ち時間ができたので、アスカはゲームで時間でも潰そうと、中空に指を這わせようとしたが、その先にある光景に気づいて手をとめた。
出撃レーンの一番奥、今は格納するデミリアンがないので、空になっているドックの脇に、おどろくほどの人だかりができていた。どうやら日本国防軍の兵士らしい。会議の席で見たフィールズ中将と似た制服を着ている。
二百メートルほど離れていたが、人々のざわめきがこちらに聞こえてくるほどで、目につくだけで数百人はいるのではないかと、アスカは推察した。
「教会だよ」
ヤマトが言った。
「教会?。こんなところに」
「すぐ裏手には神社やモスクもある」
「何するの?」
「お祈り」
レイがぼそりと補足した。
「お祈り?」
アスカはそこまで言って、ことばに詰まった。そういう習慣がなかった自分としては、ことばの意味は知っていても、なぜお祈りをするのか理由がわからなかった。
その様子に、ヤマトが苦笑を交えながら言った。
「むかしのパイロットたちは亜獣と戦う前に、それぞれが信じる神にお祈りしたらしい」
「でも、あの人たちはどうして?」
「今夜、実戦形式の亜獣撃滅訓練あるだろ。危険な実弾演習なんだ。だから、神に祈りを捧げている」
アスカはレイの方を見た。レイは今のヤマトの説明に、完全に納得してはいなさそうだった。アスカもおなじだった。行為の目的は理解できても、そうしたから、どうなるのか、という、心情がまったく理解できないのだ。
では、もし前回の出撃の時、神に祈りを棒げていたら、リョウマは助かっただろうか?
そう、助かるはずがない。
もし、それで助かるようなら、亜獣に七十年以上も苦しめられてなんかない。
アルがあきれたような顔で言ってきた
今夜未明の国防軍との合同訓練の前に、各自、自分の機体の最終チェックをするようにとアルから連絡があったので、アスカはヤマトとレイと連れだって、出撃レーンに足を運んだ。
ヤマトがうんざりとしたような表情を作ってみせた。
「そうだろ。一人につき三人。九人もの護衛がついてくるんだぜ」
アスカは自分の回りにチラリと目をはせた。銃をもったフル装備の兵士たちが三人をとり囲んでいる。
「いやぁ、アル。お騒がしてすまんね。草薙大佐の命令なんでね」
先頭にいたバットーがアルに詫びを入れた。たわいもない口調だったが、周囲に鋭い視線をむけ続け、あたりの整備員や修理ロボたちから目をはなそうとはしない。
アスカには儀礼的なエクスキューズはどうでも良かった。
「アル、あたしのセラ・ヴィーナスを、さっさとチェックさせてもらうわよ」
「あぁ、いいぜ。たぶん非の打ちどころがないほど、ばっちりメンテナンスされてると思うけどな」
「それでも心配!。自分でチェックする」
アルがなにか不都合があればなくなりと捜してみるがいい、と言わんばかりの余裕の表情を浮べた。
アスカはくるりとふりむくと、後方の警護についていた兵士たちに言った。
「あんたたち、あたしがコックピットをチェック中は、下で待機しててよね。うしろにぴったりくっつかれたりしたら、気が散るから」
その剣幕に兵士たちはどうしたものかと戸惑っていたが、先頭のバットーが彼らのことばを代弁するように言った。
「レイ、わかったよ。彼らにそうさせる。だが、先に内部をチェックさせてくれ」
アスカーはバットーの方を見た。その目が『そこが落し所だぞ』と訴えていた。
アスカは両手を広げて降参のサインをおくった。
「了解。あなたたちにも、任務があるものね」
「でも早くしてちょうだいね!」
最後のことばは、バットーに対するあたしの落し所はここだよ、という宣言にほかならなかった。バットーはその意をすばやく察して、目と手ぶりで、部下達にデミリアンの方へ行くよう促した。
少しの間、待ち時間ができたので、アスカはゲームで時間でも潰そうと、中空に指を這わせようとしたが、その先にある光景に気づいて手をとめた。
出撃レーンの一番奥、今は格納するデミリアンがないので、空になっているドックの脇に、おどろくほどの人だかりができていた。どうやら日本国防軍の兵士らしい。会議の席で見たフィールズ中将と似た制服を着ている。
二百メートルほど離れていたが、人々のざわめきがこちらに聞こえてくるほどで、目につくだけで数百人はいるのではないかと、アスカは推察した。
「教会だよ」
ヤマトが言った。
「教会?。こんなところに」
「すぐ裏手には神社やモスクもある」
「何するの?」
「お祈り」
レイがぼそりと補足した。
「お祈り?」
アスカはそこまで言って、ことばに詰まった。そういう習慣がなかった自分としては、ことばの意味は知っていても、なぜお祈りをするのか理由がわからなかった。
その様子に、ヤマトが苦笑を交えながら言った。
「むかしのパイロットたちは亜獣と戦う前に、それぞれが信じる神にお祈りしたらしい」
「でも、あの人たちはどうして?」
「今夜、実戦形式の亜獣撃滅訓練あるだろ。危険な実弾演習なんだ。だから、神に祈りを捧げている」
アスカはレイの方を見た。レイは今のヤマトの説明に、完全に納得してはいなさそうだった。アスカもおなじだった。行為の目的は理解できても、そうしたから、どうなるのか、という、心情がまったく理解できないのだ。
では、もし前回の出撃の時、神に祈りを棒げていたら、リョウマは助かっただろうか?
そう、助かるはずがない。
もし、それで助かるようなら、亜獣に七十年以上も苦しめられてなんかない。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~
独立国家の作り方
SF
ドグミス国連軍陣地に立て籠もり、全滅の危機にある島民と共に戦おうと、再上陸を果たした陸上自衛隊警備中隊は、条約軍との激戦を戦い抜き、遂には玉砕してしまいます。
今より少し先の未来、第3次世界大戦が終戦しても、世界は統一政府を樹立出来ていません。
南太平洋の小国をめぐり、新世界秩序は、新国連軍とS条約同盟軍との拮抗状態により、4度目の世界大戦を待逃れています。
そんな最中、ドグミス島で警備中隊を率いて戦った、旧陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一の弟、三枝龍二は、兄の志を継ぐべく「国防大学校」と名称が変更されたばかりの旧防衛大学校へと進みます。
しかし、その弟で三枝家三男、陸軍工科学校1学年の三枝昭三は、駆け落ち騒動の中で、共に協力してくれた同期生たちと、駐屯地の一部を占拠し、反乱を起こして徹底抗戦を宣言してしまいます。
龍二達防大学生たちは、そんな状況を打破すべく、駆け落ちの相手の父親、東京第1師団長 上条中将との交渉に挑みますが、関係者全員の軍籍剥奪を賭けた、訓練による決戦を申し出られるのです。
力を持たない学生や生徒達が、大人に対し、一歩に引くことなく戦いを挑んで行きますが、彼らの選択は、正しかったと世論が認めるでしょうか?
是非、ご一読ください。
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』
佐野信人
SF
学園都市型超弩級宇宙戦闘艦『つくば』の艦長である仮面の男タイラーは、とある病室で『その少年』の目覚めを待っていた。4000年の時を超え少年が目覚めたとき、宇宙歴の物語が幕を開ける。
少年を出迎えるタイラーとの出会いが、遥かな時を超えて彼を追いかけて来た幼馴染の少女ミツキとの再会が、この時代の根底を覆していく。
常識を常識で覆す遥かな未来の「彼ら」の物語。避けようのない「戦い」と向き合った時、彼らは彼らの「日常」でそれを乗り越えていく。
彼らの敵は目に見える確かな敵などではなく、その瞬間を生き抜くという事実なのだった。
――――ただひたすらに生き残れ!
※小説家になろう様、待ラノ様、ツギクル様、カクヨム様、ノベルアップ+様、エブリスタ様、セルバンテス様、ツギクル様、LINEノベル様にて同時公開中
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
ゴミ惑星のクズ
1111
SF
捨てられた人類が住むゴミ惑星「クローム」で、男たちは生存のため、そして名声のために「アーマーリング」と呼ばれる競技に命を懸けていた。
主人公 クズ はかつてその競技で頂点を目指したが、大敗を喫して地位を失い、今はゴミ漁りで細々と生計を立てる日々を送っていた。
ある日、廃棄されたゴミ山を漁っていたクズは、一人の少女を発見する。彼女は イヴ と名乗り、ネオヒューマンとして設計された存在だった。機械と完全に同化し、自らの身体を強化する能力を持つ彼女は、廃棄された理由も知らぬままこの惑星に捨てられたのだという。
自分の目的を果たすため、イヴはクズに協力を求める。かつての栄光を失ったクズは、彼女の頼みに最初は興味を示さなかった。しかし、イヴが持つ驚異的な能力と、彼女の決意に触れるうちに、彼は再びアーマーリングの舞台に立つことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる