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19.とんでもない勘違い
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「あんな危険な思い、初めてだったぜ!」
「……そうだな」
危険と口にしながらも、何故かファンダの声色は明るい。とりあえずこちらは適当に相槌を打つ。
「しかし! アタシらは生きてる!」
「……そうだな」
まあ、助かったのだから生きている。当たり前だ。
「しかもアタシは、知らぬ間にゴブリンを退治していたんだ!」
「……そうだ……ん?」
この言葉で、やっとファンダの意図が読めた。コイツ、あのゴブリンの集団の相手を、自分もしていたと思い込んでいるんだ。
「やっと冒険者らしいことが出来た!」
「……そ……ん?」
そんなことはないよファンダ。君は、恐怖におののき、死に怯え、白目向いて失神していました。
「とうとう……勇者としての第一歩を踏み出せたんだぜ!」
「……ん?」
すごい。とんでもない勘違い甚だしい。これほどまで自分を勇者だと信じ抜ける、その自信はどこから湧いてくるのか。
……ファンダ。言葉ではたぶん伝えられないから、もう一度、心の中で繰り返す。
君の中からは、冒険者の才能が見えない。
そして無いものは未来永劫、開花することは……ない。
「……っと、こうしちゃいらんない! クウの着替えを貰いにいくんだった!」
すると彼女は、アバヨ! のハンドサインも程々に、階段を駆け下りていった。
「……『これ』が見えんのか」
俺がいま、手に持っているものは何だ? 桶と着替えだろう。これが俺のランチにでも見えたのだろうか?
本当に、猪突猛進という言葉が似合う女である。
「まったく」
そんな彼女の乱雑さと、底なしの明るさに充てられながら、俺は改めて、クウの部屋に入った。
「入るぞ、クウ」
しかし返事はなかった。彼は、ベッドで寝息を立てていた。
俺がハッカの花(こっちの世界ではシラッグという)を使って、『なんちゃって湿布』を作って、ファンダに渡しておいていた。
患部──体全体だが──に貼られた湿布がどうやら、意外に功を奏しているみたいだ。
「よっと」
ゴトン、と、水で満たされた桶を、ベッド横の小机に置いた。そして、手ぬぐいを濡らし固く絞る。
(……やっと、眠れたみたいで良かった)
ここに俺が来た目的は、あのときの出来事──俺の能力について説明をするためだったが、寝ている人物を叩き起こしてまで話すことではない。それはまた、後の機会で語ろう。
「ありがとうな、クウ」
それでも俺は、彼の体を拭くことにした。まだ、あのときの感謝も十分に伝えられていないのだ。
額に浮かぶ汗を優しく拭う。近くで見ると、メガネを外した彼は、思った以上に小顔で、睫毛は長く整っていた。童顔なこともあり、まるで……。
(ぶっwww まるで、女の子だなコイツ)
ふっと吹き出しながら、手ぬぐいを首元へ持っていく。すると、彼の服がしっとりと濡れているほど、結構な寝汗をかいていた事に気づいた。
「このままだと、風邪ひいちゃうな」
親切心だった。他意はない。マジで。
俺はクウの服を緩め、着替えさせることにした。前開きの服は、引っかかり部分を外すだけで、簡単に脱がすことができる。
しかしここで俺は、違和感を覚える。
(……あれ? 俺、なんでこんなドキドキしてるんだ……?)
俺には男色の気はこれっぽっちもない。ノンケです。
しかし、何故か、彼の──クウの肌に触れるたび、まるで、触れてはならない禁足領域に踏み込んだような感覚に陥る。
俺は気づけば、自然と鼻息が荒くなり、心音が高鳴っていた。わずかに発汗も見られた。
(いやいやいや!! 何を考えているんだ!!)
どうしてしまったのだろう。たしかに最近『ご無沙汰』ではあるが……。
などと思考がよぎるも、俺は頭を強く振った。男に発情してどうするんだ!
俺は大きく深呼吸をして、心を落ち着かせた。
そして意を決して(?)、俺は、彼の服を脱がせた。
「──あれ?」
前開きの服を開けたその時。俺は、第二の違和感に襲われ、そして、それを理解した。
彼の上半身は、男性の特徴とは、少しばかり異なっていた。
特に胸筋部分に、男性とは違う特徴が見られた。
ここで初めて俺は、とんでもない勘違いをしていたことに気がついたのだった。
「……そうだな」
危険と口にしながらも、何故かファンダの声色は明るい。とりあえずこちらは適当に相槌を打つ。
「しかし! アタシらは生きてる!」
「……そうだな」
まあ、助かったのだから生きている。当たり前だ。
「しかもアタシは、知らぬ間にゴブリンを退治していたんだ!」
「……そうだ……ん?」
この言葉で、やっとファンダの意図が読めた。コイツ、あのゴブリンの集団の相手を、自分もしていたと思い込んでいるんだ。
「やっと冒険者らしいことが出来た!」
「……そ……ん?」
そんなことはないよファンダ。君は、恐怖におののき、死に怯え、白目向いて失神していました。
「とうとう……勇者としての第一歩を踏み出せたんだぜ!」
「……ん?」
すごい。とんでもない勘違い甚だしい。これほどまで自分を勇者だと信じ抜ける、その自信はどこから湧いてくるのか。
……ファンダ。言葉ではたぶん伝えられないから、もう一度、心の中で繰り返す。
君の中からは、冒険者の才能が見えない。
そして無いものは未来永劫、開花することは……ない。
「……っと、こうしちゃいらんない! クウの着替えを貰いにいくんだった!」
すると彼女は、アバヨ! のハンドサインも程々に、階段を駆け下りていった。
「……『これ』が見えんのか」
俺がいま、手に持っているものは何だ? 桶と着替えだろう。これが俺のランチにでも見えたのだろうか?
本当に、猪突猛進という言葉が似合う女である。
「まったく」
そんな彼女の乱雑さと、底なしの明るさに充てられながら、俺は改めて、クウの部屋に入った。
「入るぞ、クウ」
しかし返事はなかった。彼は、ベッドで寝息を立てていた。
俺がハッカの花(こっちの世界ではシラッグという)を使って、『なんちゃって湿布』を作って、ファンダに渡しておいていた。
患部──体全体だが──に貼られた湿布がどうやら、意外に功を奏しているみたいだ。
「よっと」
ゴトン、と、水で満たされた桶を、ベッド横の小机に置いた。そして、手ぬぐいを濡らし固く絞る。
(……やっと、眠れたみたいで良かった)
ここに俺が来た目的は、あのときの出来事──俺の能力について説明をするためだったが、寝ている人物を叩き起こしてまで話すことではない。それはまた、後の機会で語ろう。
「ありがとうな、クウ」
それでも俺は、彼の体を拭くことにした。まだ、あのときの感謝も十分に伝えられていないのだ。
額に浮かぶ汗を優しく拭う。近くで見ると、メガネを外した彼は、思った以上に小顔で、睫毛は長く整っていた。童顔なこともあり、まるで……。
(ぶっwww まるで、女の子だなコイツ)
ふっと吹き出しながら、手ぬぐいを首元へ持っていく。すると、彼の服がしっとりと濡れているほど、結構な寝汗をかいていた事に気づいた。
「このままだと、風邪ひいちゃうな」
親切心だった。他意はない。マジで。
俺はクウの服を緩め、着替えさせることにした。前開きの服は、引っかかり部分を外すだけで、簡単に脱がすことができる。
しかしここで俺は、違和感を覚える。
(……あれ? 俺、なんでこんなドキドキしてるんだ……?)
俺には男色の気はこれっぽっちもない。ノンケです。
しかし、何故か、彼の──クウの肌に触れるたび、まるで、触れてはならない禁足領域に踏み込んだような感覚に陥る。
俺は気づけば、自然と鼻息が荒くなり、心音が高鳴っていた。わずかに発汗も見られた。
(いやいやいや!! 何を考えているんだ!!)
どうしてしまったのだろう。たしかに最近『ご無沙汰』ではあるが……。
などと思考がよぎるも、俺は頭を強く振った。男に発情してどうするんだ!
俺は大きく深呼吸をして、心を落ち着かせた。
そして意を決して(?)、俺は、彼の服を脱がせた。
「──あれ?」
前開きの服を開けたその時。俺は、第二の違和感に襲われ、そして、それを理解した。
彼の上半身は、男性の特徴とは、少しばかり異なっていた。
特に胸筋部分に、男性とは違う特徴が見られた。
ここで初めて俺は、とんでもない勘違いをしていたことに気がついたのだった。
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