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第二幕 千紗の章
傷だらけの少女
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小次郎軍の陣営を抜けた玄明は、松明を片手に、先程逃げて来た道をとりあえず戻ってみる事にした。
どこに敵が潜んでいるともしれないと、細心の注意を払いながら慎重に進む。
だが、慎重に進めば進む程、拍子抜けしてしまう。
敵の姿など、全くどこにも見当たらないのだ。
存在するのは、どこまでも続く静寂のみ。
「こりゃ本気でどう言う事だ?」
敵の姿を探しに、何処へ向かえば良いのかさえもわからなくなる程に、虫の音だげが心地好く耳に聞こえてくるだけ。
完全に行く宛を失った玄明は、ポリポリと頭をかいた。
とりあえず、近くに敵の姿はない。
敵の追撃はなさそうだ。
そう小次郎の元に報せに戻ろうとした時、遠くから微かに人の悲鳴のような声が聞こえてきた。
そんな気がして、玄明は音の正体を確かめようと、声がした方角へ向け走り出した。
その途中、暗闇の中、何か人らしきものとぶつかった。
「おっと、悪い」
右手に持つ松明をぶつかった相手にかざしながら、まじまじと観察する玄明。
ぶつかった相手は、尻餅をつきながら怯えた瞳でこちらを見上げている。見た目から察するに、歳は10歳程といったところだろうか。
更によく目を凝らして見れば、大きな瞳が愛らしい、女の童子だとわかった。
何故こんな暗い夜の道を、こんな子供が――しかも女子の身でありながら、一人歩きしているのか?
玄明は不思議に思った。
そして何より不思議だったのは、彼女の顔には痛々しい見た目の痣が、幾つも存在していること。
「お前、その顔どうした?」
玄明がまだ幼い見た目の娘に向かってそう問いかけると、娘は「ひっ」と短い悲鳴を上げて、怯えたように尻餅をついた状態のまま逃げるように後ずさった。
厳つい風貌の大男に夜道でぶつかったからと言って、いくらなんでも怯えすぎではないかと、思ってしまう程に酷い怯えを示す娘に、思わず玄明は彼女の腕を掴んでしまう。
そして気付いた。
ガリガリに痩せ細った腕にまで広がる無数の痣の存在に。
しかもその痣は、変色する前の、ほんのつい先程ついたばかりのような、赤に近い色をしていた。
「お前っ!何があった? この痣はどうした? 何にそんなに怯えているんだ?」
子供が負うにしてはあまりにも度を越えた、痛々しい傷に、玄明はどこか責めるように娘を問いただす。
幼い娘は玄明のその迫力に、一段と怯えた様子を見せながら、玄明の手を必死に振りほどこと抗った。
「離せ……離せぇぇっっ!」
彼女が初めて叫んだ時、玄明は背後から迫り来る気配を敏感に察知して、慌てて横へと身を反らした。
どこに敵が潜んでいるともしれないと、細心の注意を払いながら慎重に進む。
だが、慎重に進めば進む程、拍子抜けしてしまう。
敵の姿など、全くどこにも見当たらないのだ。
存在するのは、どこまでも続く静寂のみ。
「こりゃ本気でどう言う事だ?」
敵の姿を探しに、何処へ向かえば良いのかさえもわからなくなる程に、虫の音だげが心地好く耳に聞こえてくるだけ。
完全に行く宛を失った玄明は、ポリポリと頭をかいた。
とりあえず、近くに敵の姿はない。
敵の追撃はなさそうだ。
そう小次郎の元に報せに戻ろうとした時、遠くから微かに人の悲鳴のような声が聞こえてきた。
そんな気がして、玄明は音の正体を確かめようと、声がした方角へ向け走り出した。
その途中、暗闇の中、何か人らしきものとぶつかった。
「おっと、悪い」
右手に持つ松明をぶつかった相手にかざしながら、まじまじと観察する玄明。
ぶつかった相手は、尻餅をつきながら怯えた瞳でこちらを見上げている。見た目から察するに、歳は10歳程といったところだろうか。
更によく目を凝らして見れば、大きな瞳が愛らしい、女の童子だとわかった。
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玄明は不思議に思った。
そして何より不思議だったのは、彼女の顔には痛々しい見た目の痣が、幾つも存在していること。
「お前、その顔どうした?」
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厳つい風貌の大男に夜道でぶつかったからと言って、いくらなんでも怯えすぎではないかと、思ってしまう程に酷い怯えを示す娘に、思わず玄明は彼女の腕を掴んでしまう。
そして気付いた。
ガリガリに痩せ細った腕にまで広がる無数の痣の存在に。
しかもその痣は、変色する前の、ほんのつい先程ついたばかりのような、赤に近い色をしていた。
「お前っ!何があった? この痣はどうした? 何にそんなに怯えているんだ?」
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「離せ……離せぇぇっっ!」
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