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第一幕 京•帰還編
潰えた夢
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そんな秋成の隣で小次郎は――
つい数日前まで、当たり前に側にいた筈の千紗が、今は手を伸ばしても届かない場所にいる。
その現実が信じられず、受け入れられず、戸惑いと悲しみに瞳を震わせていた。
――『必ずお前に釣り合う男になって、お前のもとに帰ってくる。だから、それまで待っていてくれ』
千紗にそう誓って、位を求め、力を求め、今までがむしゃらに走ってきた。
自分の願いは叶わないかもしれない。
何度もそう思って諦めかけた事もあった。
――『結婚なんて出来るはずがない。……身分が違いすぎるんだよ。俺なんかが千紗と釣り合うわけない……。分かるだろ?千紗……』
――『坂東へ帰れ。ここはお前がいるべき場所じゃない』
千紗を遠ざけ、彼女を突き放した事もあった。
――『私も何かお前の役に立ちたい。お前の痛みを知りたい。私に、お前の苦しみをわけてくれ』
でも、その度に自分を追いかけてきてくれた千紗。
自分を励まし、側で支えてくれた千紗。
彼女の優しさに、小次郎はいつの間にか勘違いしてしまっていた。
このままずっと千紗と共にいたい。その願いはこの先もずっと叶うのではないかと。
だが、今目の前で完全にその夢は断たれてしまった。
千紗の隣に立つのは、田舎者で荒くれ者の自分なんかではなく、この国の頂に立つ帝。
自分なんかより、よっぽど釣り合いの取れた人の元へと行ってしまった。
分かってた筈なのに。
千紗と自分では住む世界が違うのだから、いつかこんな日が来ると、分かってたいた筈なのに……
突然、突きつけられた現実に、小次郎の心は悲鳴を上げている。
込み上げてくる寂しさに堪えきれず、小次郎は千紗達から視線を反らし、空を見上げた。
目にいっぱいの涙を溜めて、真っ青に晴れ渡る空をどこまでも高く、高く見上げた。
そんな小次郎の様子を、一歩下がった後ろから楽しげに観察している一人の男がいた。
平太郎貞盛。小次郎の従兄弟であり、友であった男だ。
貞盛は、不適な笑みを浮かべながら傷心しきった様子の小次郎に向け声を掛けた。
「小次郎。お前、何をそんなに悲しんでいる? 千紗姫様を帝に取られた事がそんなに悔しいか?」
「……貞盛……」
「そもそも、太政大臣様の姫君であらせられるあの方が、今までお前達と共にいた事の方がおかしかったのだ。帝の隣にいる今こそが、あの方の正しき姿。そうは思わぬか、小次郎?」
「……………」
貞盛の浴びせる嫌味に、何の反応も示さない。
……いや、示す気力もない小次郎。
小次郎の受けた悲しみの深さを感じて、貞盛は更に楽しげに笑った。
「そう悲しむな小次郎。千紗姫様はな、お前を助ける為に帝の后になられたのだから。お前が悲しんでいては千紗姫様が浮かばれない」
「っ?!」
貞盛の言葉に、それまで何の反応も示さなかった小次郎が、思わず後ろを振り返り、貞盛を見た。
「どういう事だ? お前……何を知っている?」
つい数日前まで、当たり前に側にいた筈の千紗が、今は手を伸ばしても届かない場所にいる。
その現実が信じられず、受け入れられず、戸惑いと悲しみに瞳を震わせていた。
――『必ずお前に釣り合う男になって、お前のもとに帰ってくる。だから、それまで待っていてくれ』
千紗にそう誓って、位を求め、力を求め、今までがむしゃらに走ってきた。
自分の願いは叶わないかもしれない。
何度もそう思って諦めかけた事もあった。
――『結婚なんて出来るはずがない。……身分が違いすぎるんだよ。俺なんかが千紗と釣り合うわけない……。分かるだろ?千紗……』
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千紗を遠ざけ、彼女を突き放した事もあった。
――『私も何かお前の役に立ちたい。お前の痛みを知りたい。私に、お前の苦しみをわけてくれ』
でも、その度に自分を追いかけてきてくれた千紗。
自分を励まし、側で支えてくれた千紗。
彼女の優しさに、小次郎はいつの間にか勘違いしてしまっていた。
このままずっと千紗と共にいたい。その願いはこの先もずっと叶うのではないかと。
だが、今目の前で完全にその夢は断たれてしまった。
千紗の隣に立つのは、田舎者で荒くれ者の自分なんかではなく、この国の頂に立つ帝。
自分なんかより、よっぽど釣り合いの取れた人の元へと行ってしまった。
分かってた筈なのに。
千紗と自分では住む世界が違うのだから、いつかこんな日が来ると、分かってたいた筈なのに……
突然、突きつけられた現実に、小次郎の心は悲鳴を上げている。
込み上げてくる寂しさに堪えきれず、小次郎は千紗達から視線を反らし、空を見上げた。
目にいっぱいの涙を溜めて、真っ青に晴れ渡る空をどこまでも高く、高く見上げた。
そんな小次郎の様子を、一歩下がった後ろから楽しげに観察している一人の男がいた。
平太郎貞盛。小次郎の従兄弟であり、友であった男だ。
貞盛は、不適な笑みを浮かべながら傷心しきった様子の小次郎に向け声を掛けた。
「小次郎。お前、何をそんなに悲しんでいる? 千紗姫様を帝に取られた事がそんなに悔しいか?」
「……貞盛……」
「そもそも、太政大臣様の姫君であらせられるあの方が、今までお前達と共にいた事の方がおかしかったのだ。帝の隣にいる今こそが、あの方の正しき姿。そうは思わぬか、小次郎?」
「……………」
貞盛の浴びせる嫌味に、何の反応も示さない。
……いや、示す気力もない小次郎。
小次郎の受けた悲しみの深さを感じて、貞盛は更に楽しげに笑った。
「そう悲しむな小次郎。千紗姫様はな、お前を助ける為に帝の后になられたのだから。お前が悲しんでいては千紗姫様が浮かばれない」
「っ?!」
貞盛の言葉に、それまで何の反応も示さなかった小次郎が、思わず後ろを振り返り、貞盛を見た。
「どういう事だ? お前……何を知っている?」
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