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第一幕 京•帰還編
迫られる選択
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「………何?」
「朕は、あの男を助ける事が出来ます。と同時に、陥れる事も出来るのですよ。罪をおかしていようがいまいが関係ない。朕の言葉一つでこの世の中はどうとでも動かす事が出来る」
朱雀帝の言葉に更に怒りが高まった千紗は、再び朱雀帝を振り返ると、興奮気味に声を荒げて言った。
「っ……お主!今自分がいったい何を申しておるか分かっているのか?!」
「……勿論」
「お主は、自分の都合で世の理を曲げても良いと申すのか? 自分の我儘で、何の罪もない者を不幸にしても良いと? そんな事、許されるはずがない!」
怒りに震える千紗とは対照的に、朱雀帝は淡々とした口調で言葉を返す。
「いいえ、朕ならば許される。天皇である朕ならば」
「…………何……を」
「千紗姫は坂東で訊いた話をお忘れですか?」
「……坂東での話?」
「はい。天皇とは、この国を作りし神の末裔であると」
『この国はね、高天原と呼ばれる神々の住まう地より、イザナギとイザナミの夫婦が降り立ち、生み出された国だと、この国の歴史書は伝えているんだ。そう。そしてイザナギとイザナミ夫の夫婦は、国だけでなく、人の形を成した子をも産み落とした。その子供がまた子供を産み――そうして始まったのが今の天皇家だと言われている」
板東で四郎が教えてくれた、国の成り立ちに関する話を思い出す。
「つまり朕は神にも等しい存在。神ならば、世の理を変える事など造作もない」
「……チビ助……お主……本気で言っているのか?」
「…………その呼び方……」
「何?」
「…………その呼び方、もうやめて下さい。私はもう、子供じゃない」
朱雀帝は立ち上がると、千紗の元へと歩いて行く。
すぐ側まで来たかと思うと、強引に千紗の腕を引いて自分の元へと引き寄せた。
そして千紗を少し下に見る。
「背丈だってほら、もう貴方より上だ」
「っ…………」
今目の前にいる朱雀帝が突然、今までとは全くの別人に思えて、千紗は言い知れぬ恐怖を感じた。
知らない。こんな強引な朱雀帝の姿など、千紗は知らない。
その恐怖心から、キツく握りしめられた朱雀帝の手を必死に振りほどこうと抵抗を示すも、男の力の前にびくともしない。
「…………放せ」
それでも朱雀帝の力に屈しまいと、必死に抵抗を続ける千紗は、彼をきつく睨み付けた。
「いいえ放しません。私は……どうしようもなく貴方が好きなのです。貴方が欲しい」
「…………」
息がかかる程の距離から熱い視線を向けられる。
「お願いです。どうか……我が后になって下さい」
吸い込まれそうな程の真剣な瞳に、ついに千紗は堪えきれずに朱雀帝から視線を反らした。
ゆっくりゆっくりと下へ降りていく視線。
と同時に抵抗する力も緩められて行く。
「……もし、私がこの話を断ったら?」
「あの男は国家に楯突いた謀反の罪で裁かれることになるでしょう。罪人の行く末は、処刑か島流しか……」
「小次郎を殺すつもりなのか?」
「それは、貴方様次第です。千紗姫様」
「……何故だ? お主には力がある。力があると言うのに、何故その力を正しき道に使おうとしない? 何故力ある者は己の欲ばかりを優先させようとする。貴族とはどうしてこうも身勝手なのだ……」
最後の力を振り絞って、千紗は再び朱雀帝を見つめ返す。
その瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙の粒が溜まっていた。
「朕は、あの男を助ける事が出来ます。と同時に、陥れる事も出来るのですよ。罪をおかしていようがいまいが関係ない。朕の言葉一つでこの世の中はどうとでも動かす事が出来る」
朱雀帝の言葉に更に怒りが高まった千紗は、再び朱雀帝を振り返ると、興奮気味に声を荒げて言った。
「っ……お主!今自分がいったい何を申しておるか分かっているのか?!」
「……勿論」
「お主は、自分の都合で世の理を曲げても良いと申すのか? 自分の我儘で、何の罪もない者を不幸にしても良いと? そんな事、許されるはずがない!」
怒りに震える千紗とは対照的に、朱雀帝は淡々とした口調で言葉を返す。
「いいえ、朕ならば許される。天皇である朕ならば」
「…………何……を」
「千紗姫は坂東で訊いた話をお忘れですか?」
「……坂東での話?」
「はい。天皇とは、この国を作りし神の末裔であると」
『この国はね、高天原と呼ばれる神々の住まう地より、イザナギとイザナミの夫婦が降り立ち、生み出された国だと、この国の歴史書は伝えているんだ。そう。そしてイザナギとイザナミ夫の夫婦は、国だけでなく、人の形を成した子をも産み落とした。その子供がまた子供を産み――そうして始まったのが今の天皇家だと言われている」
板東で四郎が教えてくれた、国の成り立ちに関する話を思い出す。
「つまり朕は神にも等しい存在。神ならば、世の理を変える事など造作もない」
「……チビ助……お主……本気で言っているのか?」
「…………その呼び方……」
「何?」
「…………その呼び方、もうやめて下さい。私はもう、子供じゃない」
朱雀帝は立ち上がると、千紗の元へと歩いて行く。
すぐ側まで来たかと思うと、強引に千紗の腕を引いて自分の元へと引き寄せた。
そして千紗を少し下に見る。
「背丈だってほら、もう貴方より上だ」
「っ…………」
今目の前にいる朱雀帝が突然、今までとは全くの別人に思えて、千紗は言い知れぬ恐怖を感じた。
知らない。こんな強引な朱雀帝の姿など、千紗は知らない。
その恐怖心から、キツく握りしめられた朱雀帝の手を必死に振りほどこうと抵抗を示すも、男の力の前にびくともしない。
「…………放せ」
それでも朱雀帝の力に屈しまいと、必死に抵抗を続ける千紗は、彼をきつく睨み付けた。
「いいえ放しません。私は……どうしようもなく貴方が好きなのです。貴方が欲しい」
「…………」
息がかかる程の距離から熱い視線を向けられる。
「お願いです。どうか……我が后になって下さい」
吸い込まれそうな程の真剣な瞳に、ついに千紗は堪えきれずに朱雀帝から視線を反らした。
ゆっくりゆっくりと下へ降りていく視線。
と同時に抵抗する力も緩められて行く。
「……もし、私がこの話を断ったら?」
「あの男は国家に楯突いた謀反の罪で裁かれることになるでしょう。罪人の行く末は、処刑か島流しか……」
「小次郎を殺すつもりなのか?」
「それは、貴方様次第です。千紗姫様」
「……何故だ? お主には力がある。力があると言うのに、何故その力を正しき道に使おうとしない? 何故力ある者は己の欲ばかりを優先させようとする。貴族とはどうしてこうも身勝手なのだ……」
最後の力を振り絞って、千紗は再び朱雀帝を見つめ返す。
その瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙の粒が溜まっていた。
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