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第一幕 京•帰還編
もどかしくも穏やかな時間②
しおりを挟む「こ、小次郎っ!? お主、何故ここに? 内裏に呼ばれて行ったのではないのか?」
「あぁ、行ったぞ。だが今日はもう終わった。時間ができたからお前達に会いに来たんだ。が……千紗お前、まぁた我儘言って秋成を困らせていたのか?」
「なっ……わ、我儘? 我儘とはなんだ! 私は小次郎、お前の事を心配して内裏へ連れて行けと」
「それで騒いでいたのか。相変わらずお転婆な所は変わらないな。あまり皆を困らせるなよ、千紗」
「なっ、なななっ……!? 小次郎まで私が悪いと申すのか?!」
わなわなと千紗の手が震える。
「あ~あ~そうか! 何もかも私が悪いのだな! どいつもこいつも私の事を馬鹿にしおって! みんなみんな大っ嫌いじゃ~~~!!」
ついに怒りを大爆発させた千紗は、一番近くにいた秋成へ飛び掛かり、羽交い締めすると、思いきり秋成の首を締め付けた。
「ちょっと、急に何すんですかっ! 苦し……やめ……」
もがき苦しむ秋成。
主に痛め付けられる秋成の姿に、思わず簀子縁から庭に飛び降りたヒナ。
二人の元へ駆け寄ると千紗から秋成を助けようと奮闘する。
キヨと小次郎はと言えば、千紗を止める気は無さそうで、
どこか楽しそうに3人の様子を見守った。
「こらこら、お前達はいったい、何をやっているんだ?」
するとそこに、今度はたまたま渡殿を通りかかった屋敷の主、忠平が、庭で騒ぐ千紗達に気付いて、呆れた様子で声を掛けてきた。
「ち、父上っ!? 内裏へ行っていたのでは?」
「た、忠平様っ!お帰りになられていたのですか」
「お、お邪魔しております、忠平様」
突然の忠平の登場に、千紗、秋成、小次郎の3人はそれぞれ驚いた様子で返事をする。
「仲が良いのは微笑ましい事だが、今から来客の予定があるのだ。頼むから少しの間、静にしていてくれ。分かったな、千紗」
「う゛……」
とどめとばかりに忠平にまで注意を受けて、もう反論する気力もなくなった千紗は“しゅん”と項垂れる。
そんな娘の姿に苦笑いを浮かべながら、忠平はその場を後にした。
忠平が遠ざかって行く後ろ姿を見送りながら
「さて。では俺も行こうかな」
来たばかりだと言うのに、小次郎がそう口にした。
「えぇ? もう行ってしまうのか?」
さっき来たばかりだと言うのに、もう帰ると言う小次郎に、千紗は慌てて彼の元へと駆け寄る。
「あぁ。忠平様に用事があったのだがお忙しそうだ。また日を改めるよ」
「………そうか。もう行ってしまうのか……」
“しゅん”と、また更に小さくなる千紗に、小次郎は楽しそうに笑いながら、そっと千紗の頭を撫でてやる。
「そんな顔するな。まだ暫くは京に留まる事になりそうだから、また遊びに来る。またいつでも会えるさ」
「暫くは? とはどんな審判が下ったのだ?」
「まだ何もくだされてはいないさ。今は叔父上達と俺と、互いの言い分を聞き取り調査しいる所。もう暫く双方の話を聞いて、慎重に判決を吟味して行くのだと言われた。だからまだ暫くは、京にいる事になるだろう」
「………そうか」
小次郎の話に、少し安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす千紗。
そして、自分の頭に乗っていた小次郎の手をギュッと掴むと、甘えるような上目づかいで、「門まで送っていく」と小さく呟いた。
一瞬驚いた顔をした後、小次郎はどこか照れ臭そうに、でもどこか嬉しそうに微笑んでいた。
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