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第一幕 板東編
譲れない願い
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朱雀帝の突然の大声に、言い争っていた千紗と忠平はびっくりした様子で朱雀帝を振り返る。
「お………お待ち下さい、帝っ! それでは皇太后様が……隠子様が心配なさいま」
「母上など関係ない! 我は、我の意思で動く! もう母上の籠の中で飼い馴らされるような子供ではない!!」
忠平の言葉を遮り朱雀帝はきっぱりと言い放つ。
朱雀帝の宣言に、今度は忠平が言葉を失う番だった。
「忠平、口答えは許さぬぞ。これはもう決定事項だ。我は千紗姫を連れて坂東へ行く!」
「寛明様……それは余りにも強引ではございませんか?」
「父上、千紗も坂東へ行きます! 父上が何と言おうと絶対に、チビ助と坂東へ行きます!!」
「…………」
国の最高権力者と、娘にしつこく迫られて、忠平はただただ、頭を抱えることしか出来なかった。
「まったく……千紗、お主は寛明様にいったい何を吹き込んだのだ?」
「な、父上失礼な。私は何も吹き込んでなど」
「寛明様は昔は聞き分けの良い素直なお子だったはず。なのに、最近はやたらと……お前に似て来て困る」
「失礼な。あの我が儘と千紗のどこが似てると言うのですか父上」
「だから“我が儘”な所が」
「私はこやつ程我が儘ではないです」
「……はぁ、その無自覚な所が厄介なのだ」
忠平は八つ当たりでもするかのように千紗をひとしきり責めた後、深い深いため息をついて、覚悟を決めた。
「分かりました。認めましょう」
二人の申し出に折れる覚悟を。
こうなったらテコでも動かない二人の強情さを、嫌と言う程よく知っていたから。
「はぁ、こうも簡単に娘と甥っ子の我が儘を聞いてしまうようでは、私も甘いな……」
疲れ切った顔で愚痴を零す忠平とは裏腹に、千紗と朱雀帝の二人は互いに顔を見合わせて喜んだ。
「やったぞチビ助! 父上からお許しを頂けた。今回ばかりはお主に感謝せねばならぬな。本当にでかしたぞ、チビ助!」
「ありがとうございます千紗姫様! 千紗姫様に褒めて貰えるなんて嬉しいです。こんな事、初めてですね。では千紗姫様、出発はいつにいたしましょうか?」
「勿論、旅支度が出来しだいすぐにじゃ!そうだなぁ、明日にでも出発しようか」
浮かれた様子の二人の会話に、慌てた様子で忠平が口を挟む。
「待て待て待て、勝手に話を進めるな」
「何だ忠平。今更やっぱり駄目だなどと、ケチくさい事を言うなよ。これはもう決定事項なのだからな」
「分かっております帝。それは勿論分かっておりますけれども……」
「「けれども?」」
「けれども、こちらもいくつかの条件を出させていただきますよ。その条件を帝と千紗が呑むのであれば、私も素直に二人の坂東行きを認めましょう」
「「条件?」」
「はい。二人が無事坂東の地へ行き、帰ってくる為の大切な条件です」
「「…………」」
突然の条件提示に、ぽかんと呆けた顔で、互いの顔を見合わせている千紗と朱雀帝。
だが忠平はそんな二人に構わず先を続けた。
「お………お待ち下さい、帝っ! それでは皇太后様が……隠子様が心配なさいま」
「母上など関係ない! 我は、我の意思で動く! もう母上の籠の中で飼い馴らされるような子供ではない!!」
忠平の言葉を遮り朱雀帝はきっぱりと言い放つ。
朱雀帝の宣言に、今度は忠平が言葉を失う番だった。
「忠平、口答えは許さぬぞ。これはもう決定事項だ。我は千紗姫を連れて坂東へ行く!」
「寛明様……それは余りにも強引ではございませんか?」
「父上、千紗も坂東へ行きます! 父上が何と言おうと絶対に、チビ助と坂東へ行きます!!」
「…………」
国の最高権力者と、娘にしつこく迫られて、忠平はただただ、頭を抱えることしか出来なかった。
「まったく……千紗、お主は寛明様にいったい何を吹き込んだのだ?」
「な、父上失礼な。私は何も吹き込んでなど」
「寛明様は昔は聞き分けの良い素直なお子だったはず。なのに、最近はやたらと……お前に似て来て困る」
「失礼な。あの我が儘と千紗のどこが似てると言うのですか父上」
「だから“我が儘”な所が」
「私はこやつ程我が儘ではないです」
「……はぁ、その無自覚な所が厄介なのだ」
忠平は八つ当たりでもするかのように千紗をひとしきり責めた後、深い深いため息をついて、覚悟を決めた。
「分かりました。認めましょう」
二人の申し出に折れる覚悟を。
こうなったらテコでも動かない二人の強情さを、嫌と言う程よく知っていたから。
「はぁ、こうも簡単に娘と甥っ子の我が儘を聞いてしまうようでは、私も甘いな……」
疲れ切った顔で愚痴を零す忠平とは裏腹に、千紗と朱雀帝の二人は互いに顔を見合わせて喜んだ。
「やったぞチビ助! 父上からお許しを頂けた。今回ばかりはお主に感謝せねばならぬな。本当にでかしたぞ、チビ助!」
「ありがとうございます千紗姫様! 千紗姫様に褒めて貰えるなんて嬉しいです。こんな事、初めてですね。では千紗姫様、出発はいつにいたしましょうか?」
「勿論、旅支度が出来しだいすぐにじゃ!そうだなぁ、明日にでも出発しようか」
浮かれた様子の二人の会話に、慌てた様子で忠平が口を挟む。
「待て待て待て、勝手に話を進めるな」
「何だ忠平。今更やっぱり駄目だなどと、ケチくさい事を言うなよ。これはもう決定事項なのだからな」
「分かっております帝。それは勿論分かっておりますけれども……」
「「けれども?」」
「けれども、こちらもいくつかの条件を出させていただきますよ。その条件を帝と千紗が呑むのであれば、私も素直に二人の坂東行きを認めましょう」
「「条件?」」
「はい。二人が無事坂東の地へ行き、帰ってくる為の大切な条件です」
「「…………」」
突然の条件提示に、ぽかんと呆けた顔で、互いの顔を見合わせている千紗と朱雀帝。
だが忠平はそんな二人に構わず先を続けた。
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