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冬物語
部活動
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「…………やっぱり」
「よ!葵葉!」
――7時間目、待ちに待った部活動の時間。
私が所属する美術部の活動場所である美術室を訊ねると、私の嫌な予感は見事に的中していて、私のお気に入りの席である窓際の一番後ろには、神崎君がニコニコ笑顔を浮かべながら座っていた。
ここまでくると、もう
「ストーカー……」
「誰がストーカーだ!」
「じゃあどうしてあなたがここにいるの?」
「俺も今日から美術部の一員になったからだ。ってなわけでここでも宜しくな、葵葉」
「……はぁ…………」
呆れを通り越して、もう脱力するしかない。
私は、大きな溜息を吐きながら観念して神崎君が座る一つ前の席へと腰掛ける。
と同時に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。
部活動の時間。
それが授業の一環として設けられている、と言っても実際は授業のように堅苦しい事はなく、チャイムが鳴っても顧問の先生の姿はそこにはない。
一応顧問はいるものの、本当に極たまに顔を出す程度で、この時間は皆それぞれが思い思いの時を過ごす。
友達とおしゃべりをする子もいれば、居眠りをしている子もいる。真面目に活動をしているのは、20人程いる部員のうちのほんの一握りだけ。
勿論私は美術部の活動をしたくてここにいるわけだから、周りの子達がおしゃべりを楽しむ中でも、黙々と絵を描く準備を始めた。
私が準備をしている中、神崎君はと言えば、後ろの席で意外にも真剣にスケッチブックと向き合っている。
私をストーカーして美術部に入ったのかもと思ってしまったけれど、それは私の勘違いで、実は偶然にも選んだ部活が一緒だっただけなのかもしれない。
神崎君のスケッチブックと向き合う姿勢に、私の中でほんの少し、彼に対する見る目が変わった。
「……ねぇ、もしかして神崎君も絵を描くのが好きなの?」
彼が美術部に入部した理由が少し知りたくなって、気がつくと私はそんな質問を投げかけていた。
「いんや。別に好きではない。どうして?」
「いや……意外にも真面目に活動してるから。じゃあ、好きでもないのにどうして美術部に入ろうと思ったの? やっぱり私をストーカーして?」
「だから違うって。ただ……絵を描く事が別段好きなわけでもないが、嫌いでもないからさ」
「……ふ~ん」
そう答えた彼の顔はとても穏やかだった。
そして、「嫌いではない」と言う言葉通り、周囲からは話し声が多く聞こえる中、後ろの彼の席からは、シャッシャッと鉛筆を走らせる軽快な音が、耳に心地よく聞こえ続けていた。
何を真剣に描いているのかと、彼の方を振り返る。
ふと視線がぶつかった。
「おいおい、モデルが動くなよ」
「モデル? って、えぇ?! もしかして私を描いてたの?」
「あぁ」
いったいどんな風に描かれているのかと、彼のスケッチブックを覗き込むと、チラリと見えた絵に私は思わず息を呑んだ。
「……凄い……上手」
そこに描かれているのは、本当に自分かと疑ってしまう程、とても綺麗で繊細なタッチで描かれた少女の絵。
「だろう。だから言ったじゃん。嫌いじゃないって。悪いけど、お前より上手いから、俺」
「…………」
本当のこと過ぎて何も返せない。
確かに神崎君の絵は、私なんかより全然上手で、彼の絵を見た後に自分の絵を見ると、溜め息を吐きたくなってしまう程、下手くそに思えた。
「よ!葵葉!」
――7時間目、待ちに待った部活動の時間。
私が所属する美術部の活動場所である美術室を訊ねると、私の嫌な予感は見事に的中していて、私のお気に入りの席である窓際の一番後ろには、神崎君がニコニコ笑顔を浮かべながら座っていた。
ここまでくると、もう
「ストーカー……」
「誰がストーカーだ!」
「じゃあどうしてあなたがここにいるの?」
「俺も今日から美術部の一員になったからだ。ってなわけでここでも宜しくな、葵葉」
「……はぁ…………」
呆れを通り越して、もう脱力するしかない。
私は、大きな溜息を吐きながら観念して神崎君が座る一つ前の席へと腰掛ける。
と同時に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。
部活動の時間。
それが授業の一環として設けられている、と言っても実際は授業のように堅苦しい事はなく、チャイムが鳴っても顧問の先生の姿はそこにはない。
一応顧問はいるものの、本当に極たまに顔を出す程度で、この時間は皆それぞれが思い思いの時を過ごす。
友達とおしゃべりをする子もいれば、居眠りをしている子もいる。真面目に活動をしているのは、20人程いる部員のうちのほんの一握りだけ。
勿論私は美術部の活動をしたくてここにいるわけだから、周りの子達がおしゃべりを楽しむ中でも、黙々と絵を描く準備を始めた。
私が準備をしている中、神崎君はと言えば、後ろの席で意外にも真剣にスケッチブックと向き合っている。
私をストーカーして美術部に入ったのかもと思ってしまったけれど、それは私の勘違いで、実は偶然にも選んだ部活が一緒だっただけなのかもしれない。
神崎君のスケッチブックと向き合う姿勢に、私の中でほんの少し、彼に対する見る目が変わった。
「……ねぇ、もしかして神崎君も絵を描くのが好きなの?」
彼が美術部に入部した理由が少し知りたくなって、気がつくと私はそんな質問を投げかけていた。
「いんや。別に好きではない。どうして?」
「いや……意外にも真面目に活動してるから。じゃあ、好きでもないのにどうして美術部に入ろうと思ったの? やっぱり私をストーカーして?」
「だから違うって。ただ……絵を描く事が別段好きなわけでもないが、嫌いでもないからさ」
「……ふ~ん」
そう答えた彼の顔はとても穏やかだった。
そして、「嫌いではない」と言う言葉通り、周囲からは話し声が多く聞こえる中、後ろの彼の席からは、シャッシャッと鉛筆を走らせる軽快な音が、耳に心地よく聞こえ続けていた。
何を真剣に描いているのかと、彼の方を振り返る。
ふと視線がぶつかった。
「おいおい、モデルが動くなよ」
「モデル? って、えぇ?! もしかして私を描いてたの?」
「あぁ」
いったいどんな風に描かれているのかと、彼のスケッチブックを覗き込むと、チラリと見えた絵に私は思わず息を呑んだ。
「……凄い……上手」
そこに描かれているのは、本当に自分かと疑ってしまう程、とても綺麗で繊細なタッチで描かれた少女の絵。
「だろう。だから言ったじゃん。嫌いじゃないって。悪いけど、お前より上手いから、俺」
「…………」
本当のこと過ぎて何も返せない。
確かに神崎君の絵は、私なんかより全然上手で、彼の絵を見た後に自分の絵を見ると、溜め息を吐きたくなってしまう程、下手くそに思えた。
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