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秋物語
動き出した歯車
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一瞬触れた、温かく柔らかいもの。
はっと我に返る。
「っ?!」
初めての感触に驚き、私は後ろへと飛び退いた。
瞬間、神耶君の視線が私の視線と絡まる。
「………………神耶……君」
「……葵葉、お前……」
「起きて…………」
「…………今……何を……?」
「…………」
「………………」
私達の間に長い長い沈黙が流れる。
その沈黙に堪えかねて、一歩、二歩と後ずさる私の手を神耶君が乱暴に掴む。
捕まれた腕から伝わる神耶君の体温に私の心臓がドクンと大きく跳ねた。
神耶君から向けられている困惑の表情に、私の心臓はまるで警告を鳴らすかのようにドクンドクンと強く、そして早くうち鳴らされる。
「……ごめん……なさい……」
震える声で、絞り出すように謝罪の言葉が零れ落ちる。
と同時に、瞳からはポロポロと涙が零れ落ちてく。
私の涙に、神耶君の力が一瞬緩む。
その一瞬の隙をついて、私は私の腕を掴んでいた神耶君の腕を力一杯振りほどいて逃げた。
全速力で逃げ出した。
何てことを、何てことをしでかしてしまったのだろう。
あれでは神耶君に、私の気持ちが知られてしまう。
知られてしまったら、もう今のまま、友達のままではいられない。
今このタイミングで、私の気持ちを伝えるつもりなんてなかったはずなのに。
神耶君と、もっともっと今の関係を続けていたかったはずなのに。
どうして、どうして自らそれを壊すような事をしてしまったのか。
酷く激しい後悔に襲われる。
思い当たることがあるとすれば――
それはきっと、舞い上がってしまったせいだ。
神耶君に、いつの日か私の気持ちを伝えられる日が来るかもしれないと、師匠さんから可能性の話を聞いて、舞い上がってしまったせいだ。
でも師匠さんが教えてくれた話は、あくまでも可能性の話であって、その可能性も今では決してなかったはず。
それなのに、後先も考えず今、このタイミングで神耶君に自分の気持ちがバレるような行動をとってしまって、私と神耶君の関係はどうなってしまうのだろうか?
「あ……あぁ……あああああ~~~~~~」
考えれば考える程、悪い想像しかできなくて、走りながら私は、声を上げいて泣いていた。
泣いた所でどうしようもない。
どうしようも出来ない。
だって私は無力な人間なのだから。
言葉にできない程の深い後悔と自己嫌悪、そして不安の渦に襲われながら、とにかく私は走った。
いつの間に夕陽は姿を消し、辺りは暗くなっていた。
その薄暗さが余計に私を不安にさせていた。
「きゃっ……」
山を駆け下り、アスファルト舗装が施された道に出た所で私は、足をもつれさせて、その場に手をつき倒れ込む。
先程の余韻か、それとも全速力で山を駆け下りたせいなのか、私の心臓は、今までに感じた事のない程の早さで、ドクンドクンと脈打っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸も速く、息苦しい。
更にとどめを刺すように、じわりじわりと膝の辺りが熱を持ち、じんじんと痛みを訴えてくる。
転んだ拍子に怪我をしてしまったのだろう。
自業自得とは言え、一気に襲う体の不調に私は立ち上がる事ができなくて、胸の辺りを押さえつけながら私はその場にうずくまった。
「嫌だ……嫌だよ……神耶君に、嫌われたくない。離れたくない。神耶君とまだまだ一緒に……いたいよ……」
うずくまりながら、はぁはぁ荒い呼吸に混じって、私は絞り出すような小さな声で、そう呟いていた。
私のつぶやきは、少し肌寒い秋の風に乗って、簡単に空へと消えて行ってしまう。
荒い呼吸音だけが、いつまでも止むことなく、ひとりぼっちの静かな夜の道に響いていた。
どのくらい時間が経った頃だろうか、朦朧としていた意識の中、私を呼ぶ声が聞こえて来る。
「葵葉~! 葵葉~?! どこにいるんだ葵葉~」
「……お兄……ちゃん?」
「葵葉っ! どうしたんだ葵葉! 苦しいのか??」
道に蹲るようにして寝転がる、私の姿に気付いたのか、駆け寄ってくるお兄ちゃんの姿が、ぼんやりとする視界に映った。
一度も家に帰らずに、暗い時間になってしまったから、きっと心配して探しに来てくれたのだろう。
私はお兄ちゃんにこれ以上心配かけないようにと、一生懸命笑ってみせるも、息苦しさに私はそのまま意識を手放した。
「葵葉?! おい、葵葉! しっかりしろ!! 葵葉~~~!!!」
◆◆◆
――その後私は、お兄ちゃんが呼んでくれた救急車に乗せられ、病院へと運ばれた。
翌日目覚めた時、お兄ちゃんが怒りながら私にそう教えてくれた。
そして1週間ほど、久しぶりの入院生活を送ることとなった。
はっと我に返る。
「っ?!」
初めての感触に驚き、私は後ろへと飛び退いた。
瞬間、神耶君の視線が私の視線と絡まる。
「………………神耶……君」
「……葵葉、お前……」
「起きて…………」
「…………今……何を……?」
「…………」
「………………」
私達の間に長い長い沈黙が流れる。
その沈黙に堪えかねて、一歩、二歩と後ずさる私の手を神耶君が乱暴に掴む。
捕まれた腕から伝わる神耶君の体温に私の心臓がドクンと大きく跳ねた。
神耶君から向けられている困惑の表情に、私の心臓はまるで警告を鳴らすかのようにドクンドクンと強く、そして早くうち鳴らされる。
「……ごめん……なさい……」
震える声で、絞り出すように謝罪の言葉が零れ落ちる。
と同時に、瞳からはポロポロと涙が零れ落ちてく。
私の涙に、神耶君の力が一瞬緩む。
その一瞬の隙をついて、私は私の腕を掴んでいた神耶君の腕を力一杯振りほどいて逃げた。
全速力で逃げ出した。
何てことを、何てことをしでかしてしまったのだろう。
あれでは神耶君に、私の気持ちが知られてしまう。
知られてしまったら、もう今のまま、友達のままではいられない。
今このタイミングで、私の気持ちを伝えるつもりなんてなかったはずなのに。
神耶君と、もっともっと今の関係を続けていたかったはずなのに。
どうして、どうして自らそれを壊すような事をしてしまったのか。
酷く激しい後悔に襲われる。
思い当たることがあるとすれば――
それはきっと、舞い上がってしまったせいだ。
神耶君に、いつの日か私の気持ちを伝えられる日が来るかもしれないと、師匠さんから可能性の話を聞いて、舞い上がってしまったせいだ。
でも師匠さんが教えてくれた話は、あくまでも可能性の話であって、その可能性も今では決してなかったはず。
それなのに、後先も考えず今、このタイミングで神耶君に自分の気持ちがバレるような行動をとってしまって、私と神耶君の関係はどうなってしまうのだろうか?
「あ……あぁ……あああああ~~~~~~」
考えれば考える程、悪い想像しかできなくて、走りながら私は、声を上げいて泣いていた。
泣いた所でどうしようもない。
どうしようも出来ない。
だって私は無力な人間なのだから。
言葉にできない程の深い後悔と自己嫌悪、そして不安の渦に襲われながら、とにかく私は走った。
いつの間に夕陽は姿を消し、辺りは暗くなっていた。
その薄暗さが余計に私を不安にさせていた。
「きゃっ……」
山を駆け下り、アスファルト舗装が施された道に出た所で私は、足をもつれさせて、その場に手をつき倒れ込む。
先程の余韻か、それとも全速力で山を駆け下りたせいなのか、私の心臓は、今までに感じた事のない程の早さで、ドクンドクンと脈打っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸も速く、息苦しい。
更にとどめを刺すように、じわりじわりと膝の辺りが熱を持ち、じんじんと痛みを訴えてくる。
転んだ拍子に怪我をしてしまったのだろう。
自業自得とは言え、一気に襲う体の不調に私は立ち上がる事ができなくて、胸の辺りを押さえつけながら私はその場にうずくまった。
「嫌だ……嫌だよ……神耶君に、嫌われたくない。離れたくない。神耶君とまだまだ一緒に……いたいよ……」
うずくまりながら、はぁはぁ荒い呼吸に混じって、私は絞り出すような小さな声で、そう呟いていた。
私のつぶやきは、少し肌寒い秋の風に乗って、簡単に空へと消えて行ってしまう。
荒い呼吸音だけが、いつまでも止むことなく、ひとりぼっちの静かな夜の道に響いていた。
どのくらい時間が経った頃だろうか、朦朧としていた意識の中、私を呼ぶ声が聞こえて来る。
「葵葉~! 葵葉~?! どこにいるんだ葵葉~」
「……お兄……ちゃん?」
「葵葉っ! どうしたんだ葵葉! 苦しいのか??」
道に蹲るようにして寝転がる、私の姿に気付いたのか、駆け寄ってくるお兄ちゃんの姿が、ぼんやりとする視界に映った。
一度も家に帰らずに、暗い時間になってしまったから、きっと心配して探しに来てくれたのだろう。
私はお兄ちゃんにこれ以上心配かけないようにと、一生懸命笑ってみせるも、息苦しさに私はそのまま意識を手放した。
「葵葉?! おい、葵葉! しっかりしろ!! 葵葉~~~!!!」
◆◆◆
――その後私は、お兄ちゃんが呼んでくれた救急車に乗せられ、病院へと運ばれた。
翌日目覚めた時、お兄ちゃんが怒りながら私にそう教えてくれた。
そして1週間ほど、久しぶりの入院生活を送ることとなった。
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