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秋物語
食欲の秋③
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1時間後――
「神耶君、ま~だ~? こっちはもう火の準備万端だよ~? あとは神耶君が魚を捕まえてくれるのを待つだけなんだけど」
「うるせ~! 黙って待ってろ!!」
「だって~、もう1時間も待ってるのに全然収穫ないんだもん。私も師匠さんも待ちくたびれちゃったよ」
「だから、黙ってろ! お前が話かけるから気が散ってダメなんだ!!……ってほらほらほら、来た来た来た! 見てろよ、次こそは……」
「あれ? え? 神耶君??!」
突然水の中へと消えた神耶君。
突然の出来事に驚いて、慌てて川へと駆け寄った。
すると今度は、“ザバン”と大きな音をたてて、目の前にずぶ濡れになった神耶君が現れて
「っ?!き、きゃゃゃ~~~~~~~~~っっっ!」
驚きのあまり私は思わず大声を上げてしまう。
「んだよ急に!耳元で大声出すんじゃね~!」
「だっ、だって……神耶君が急に消えて急に目の前に現れるから」
師匠さんが薪拾いに連れ出してくれたおかげで、せっかくおさまっていた鼓動が、また色々な意味で早鐘を打ち始める。
今日はよくよく神耶君にペースを崩される日だ。
「……はぁ~」
隠すと決めたばかりだと言うのに、疲労感と、本当に神耶君に自分の気持ちを隠し通せるのかと言う不安から、私の口から思わず大きなため息が漏れた。
◆◆◆
それからさらに時間が過ぎて――
太陽が頭上真上を通り越し、西に30°傾いた頃、私はやっと昼食にありつけた。
「いただきます」と手を合わせ、神耶君がやっとの思いで獲ってくれた新鮮な魚を頬張る。
頬張りながら、私は神耶君に対する率直な感想を口にした。
「神耶君て実はうんちだったんだね」
「うんっ?? おまっ、食ってる時になんつー汚い話を」
「神耶神耶、違いますよ。“うんち”とはきっと、“運動オンチ”の事を言っているのですよ」
うんちと戸惑う神耶君にすかさず間違いを正す師匠さん。
「は? 運動オンチ? 誰が?」
「だから貴方の事ですよ、神耶」
「なっ、俺が運動オンチだと?! バカにするな!!」
他愛もない会話にクスクス笑いを零しながら、私は一人、焼き上がった魚を頬張った。
――ん? 私一人?
「あれ? そう言えば、神耶君と師匠さんの分は? 私一人で食べちゃって良いの?」
「いらない。俺達神は、基本飯は食わない」
「え? でも、いつもお昼に私のお弁当に入ってる卵焼き、食べてなかったっけ?」
「あ、あれは特別だ。あの卵焼きが美味過ぎるのがいけないんだ。とにかく俺等神は基本、食事を取ったりしない。食べる事は命を奪う事だからな。俺達は無駄な殺生はしないんだ」
「……ゴメンなさい」
“無駄な殺生”
神耶君の言葉に、思わず私は食べる手を止めて謝った。
「何謝ってるんだよ。お前達人間は、それをしなければ生きて行けない。なら食うしかないだろ。いいからさっさと食え!けど、お前の命に変えられたそいつにはちゃんと感謝して、じっくり味わって食えよ」
「うん」
神耶君の言葉に、私は大きな声で頷く。
私の為だけに、あんなに必死になって獲ってくれた魚。
だからなのか、今まで食べたどんな魚よりも今日は美味しく感じられた。
神耶君、ありがとう。
「神耶君、ま~だ~? こっちはもう火の準備万端だよ~? あとは神耶君が魚を捕まえてくれるのを待つだけなんだけど」
「うるせ~! 黙って待ってろ!!」
「だって~、もう1時間も待ってるのに全然収穫ないんだもん。私も師匠さんも待ちくたびれちゃったよ」
「だから、黙ってろ! お前が話かけるから気が散ってダメなんだ!!……ってほらほらほら、来た来た来た! 見てろよ、次こそは……」
「あれ? え? 神耶君??!」
突然水の中へと消えた神耶君。
突然の出来事に驚いて、慌てて川へと駆け寄った。
すると今度は、“ザバン”と大きな音をたてて、目の前にずぶ濡れになった神耶君が現れて
「っ?!き、きゃゃゃ~~~~~~~~~っっっ!」
驚きのあまり私は思わず大声を上げてしまう。
「んだよ急に!耳元で大声出すんじゃね~!」
「だっ、だって……神耶君が急に消えて急に目の前に現れるから」
師匠さんが薪拾いに連れ出してくれたおかげで、せっかくおさまっていた鼓動が、また色々な意味で早鐘を打ち始める。
今日はよくよく神耶君にペースを崩される日だ。
「……はぁ~」
隠すと決めたばかりだと言うのに、疲労感と、本当に神耶君に自分の気持ちを隠し通せるのかと言う不安から、私の口から思わず大きなため息が漏れた。
◆◆◆
それからさらに時間が過ぎて――
太陽が頭上真上を通り越し、西に30°傾いた頃、私はやっと昼食にありつけた。
「いただきます」と手を合わせ、神耶君がやっとの思いで獲ってくれた新鮮な魚を頬張る。
頬張りながら、私は神耶君に対する率直な感想を口にした。
「神耶君て実はうんちだったんだね」
「うんっ?? おまっ、食ってる時になんつー汚い話を」
「神耶神耶、違いますよ。“うんち”とはきっと、“運動オンチ”の事を言っているのですよ」
うんちと戸惑う神耶君にすかさず間違いを正す師匠さん。
「は? 運動オンチ? 誰が?」
「だから貴方の事ですよ、神耶」
「なっ、俺が運動オンチだと?! バカにするな!!」
他愛もない会話にクスクス笑いを零しながら、私は一人、焼き上がった魚を頬張った。
――ん? 私一人?
「あれ? そう言えば、神耶君と師匠さんの分は? 私一人で食べちゃって良いの?」
「いらない。俺達神は、基本飯は食わない」
「え? でも、いつもお昼に私のお弁当に入ってる卵焼き、食べてなかったっけ?」
「あ、あれは特別だ。あの卵焼きが美味過ぎるのがいけないんだ。とにかく俺等神は基本、食事を取ったりしない。食べる事は命を奪う事だからな。俺達は無駄な殺生はしないんだ」
「……ゴメンなさい」
“無駄な殺生”
神耶君の言葉に、思わず私は食べる手を止めて謝った。
「何謝ってるんだよ。お前達人間は、それをしなければ生きて行けない。なら食うしかないだろ。いいからさっさと食え!けど、お前の命に変えられたそいつにはちゃんと感謝して、じっくり味わって食えよ」
「うん」
神耶君の言葉に、私は大きな声で頷く。
私の為だけに、あんなに必死になって獲ってくれた魚。
だからなのか、今まで食べたどんな魚よりも今日は美味しく感じられた。
神耶君、ありがとう。
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