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秋物語
放課後、美術室にて
しおりを挟む「おい、大丈夫か?!」
「だ、大丈夫だよ。慣れてる事だから」
「慣れてるって、お前……」
どうしても大人達から病気の事で贔屓されてしまう私は、学校で浮いた存在になってしまうのはいつもの事。
小学校でも、中学でもそうだった。
「流石に、暴力は初めてだったけど」
少し首を絞めつけられていた事で、軽く咳き込みながら、心配してくれている神耶君に向かって笑ってみせる。
そんな私に
「だから愛想笑いが上手くなったのか?」
神耶君は冷静にそう投げかけてくる。
神耶君の言葉は、まさに図星をついていたものだから、私はまたへへへと笑った。
どう答えたら良いのか、答えに迷った時やっぱり私には笑う方法しか思い付かなかったから。
「……ね、神耶君。一緒に来て欲しい所があるんだけど、今から行かない?」
へらへらと笑う事しかできない私に機嫌を損ねた様子の神耶君。何とか話題をそらそうと、私はあることを思いついて神耶君に提案する。
「は? 何だよ急に」
「ね? お願い!」
私の突然のお願いに、わけも分からず困ったように顔を歪めている神耶君の手を引っ張って、私は半ば強引に彼を教室から連れ出した。
「だから、何でいつもお前は突然にわけわからない事言いだして、強引に俺を振り回そうとするんだ~~~~!!」
神耶君の本気の嘆きも笑って流しながら、無理矢理彼を連れて行った場所。そこは――
「美術室?」
「そう。朝も言ったけど私ね、美術部に入ろうと思っててね」
「お前、絵なんて描けるのか?」
「入院生活って暇なんだ。だからね、暇な時はいつも、病室から見える景色を描いてたの。この一年は特に人物画にこっててね」
「それ、朝も大事に持ってた風呂敷。何が入ってるんだ?」
今日一日大事に持っていた風呂敷包みを興味深げに覗き込みながら、神耶君が言う。
私は包みを解き終えると、その中に入れていたあるものを神耶君に見せた。
「じゃん! 実は神耶君をモデルにずっと描いてた油絵!」
「は? それが俺? 全然似てねぇじゃねぇか!」
「だよね~。私の頭の中の記憶だけを頼りに描いてたからなかなか上手く描けなくて……そこで! 今から神耶君をスケッチさせてください!」
そう言って、今度は鞄の中から鉛筆とスケッチブックを取り出してみ見せた。
「は?」
「ダメ?」
「またお前は……捨てられた子犬みたいな目で俺を見るな!」
神耶君の怒鳴り声が教室に響く。
「で? 俺は何をすれば良いんだ?」
「いいよ、何もしなくて。自然にしててくれれば」
結局、怒りながらも私の我がままに付き合ってくれる神耶君。
もう、お決まりになりつつあるこのやり取りに、神耶君自身もどこか楽しんでいるように見えるのは、私の気のせいではないはず。
「自然て、んなにじっと見られてたら自然でなんていられるわけ」
「? 何か言った?」
「……何でもない。とっとと描いて、とっとと帰るぞ」
胡坐をかきながら椅子に座り、膝に頬杖をつきながらもこちらを見ていた神耶君は、突然私から顔を逸らすようにプイとそっぽを向いて不貞腐れたようにそう言った。
「ありがとう、私の我が儘に付き合ってくれて」
「ふん。お前に振り回されるなんていつもの事だろ」
「そうだっけ?」
「おいおい無自覚かよ」
「嘘嘘。いつもいつもありがとう。感謝してます」
「……」
私の素直な感謝に、神耶君の顔は真っ赤に染まる。
あぁこの顔は、照れてる時の顔だ。と神耶君の反応についつい笑ってしまいそうになったけれど、ここで笑ったらまた不機嫌になってへそを曲げてしまうかもしれないと、私は必死に笑いを堪えた。
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